知恵と情熱でチームを牽引する、Jリーグの「名物社長」に注目。
text by Shinya Kizaki
photograph by Masahiro Ura
浦和、新潟に次いで3位の観客動員数('06年〜'08年)を誇るFC東京サポーター。特にゴール裏からの相手GKへのブーイングは強烈
今季のJ1において、「監督が新しくなったクラブはいくつあるか?」という質問に答えられる人は多いかもしれない。
しかし、「社長が新しくなったクラブは?」と訊かれて、答えられる人はほとんどいないのではないだろうか。
もったいぶっても仕方ないので、すぐに答えを書こう。
横浜F・マリノスでは社長代行を務めていた嘉悦朗(かえつ あきら)氏が正式に社長になり、ヴィッセル神戸では叶屋宏一(かなや こういち)氏が専務取締役から社長に昇格、京都サンガでも同様に今井浩志(いまい ひろし)氏が専務取締役から昇格し社長になった。つまり、答えは3つである。
これまでJリーグは、犬飼基昭氏(元浦和レッズ社長、現日本サッカー協会会長)や溝畑宏氏(元大分トリニータ代表取締役、現観光庁長官)といった名物社長を生み出してきた。しかし、まだまだそれは少数派だ。人となりが、他クラブのサポーターにまで知れわたっている社長はごくわずかだろう。
ただし、知名度の低さは、彼らに能力がないからではない。おそらく日本のメディアがクラブ社長にあまり関心を抱いていないことが大きな要因である。
もちろん単発的に取り上げられることはあるが、横並びに社長同士が比べられることが少ない。たとえばJリーグの選手名鑑では、社長の名前すら載せられていないものがある。日本の選手名鑑のきめ細かさは世界に誇れると思うのだが、フロント陣の情報という点では物足りない。自分が編集者だったら、社長とGMを顔写真つきで紹介するのだが……。
「次代の名物社長」に最も近い存在、FC東京・村林社長。
ということで、今回は、Jリーグ開幕に合わせて、あえて社長にクローズアップしようと思う。犬飼氏、溝畑氏に続く、次なる名物社長はいったい誰だろうか? (大分に多額の借金を残した溝畑氏を「名物社長」と呼ぶことに賛否両論あるだろうが、世間の認知度という意味で「名物」とした)
まず名前があがるのは、FC東京の村林裕(むらばやし ゆたか)社長だろう。
FC東京の立ち上げから関わる生え抜きで、2008年に社長に就任。サッカー漫画『GIANT KILLING』を参考に選手とサポーターのカレー・パーティーを行なうなど、いい意味でのワンマンぶりを発揮している。今年は「1口1000円のクラブサポートメンバーを10万人集める!」と大きなアドバルーンをぶち上げた。FC東京の平均観客数が2万人台であることを考えると実現は簡単ではないが、その心意気を買いたい。チームの成績いかんでは、いつ「次なる名物社長」になってもおかしくない。
経済界で成功したビジネスのプロが続々とJの社長に。
中村俊輔の獲得交渉で一気に知名度を上げそうなのが、横浜F・マリノスの嘉悦社長だ。
嘉悦氏は日産の執行役員時代に、『日産リバイバルプラン』に中核として関わった改革のプロ。「所詮は出向じゃないか」という声もあるだろうが、スポットライトを浴びることで“化ける”可能性もゼロではない。カルロス・ゴーンの薫陶を受けたビジネスのプロが、サッカー界でどんな仕事をするのか――個人的には非常に楽しみにしている。
同じく“新人”の叶屋氏は、J1の最年少社長(43歳)。おそらくTwitterをやっている唯一のJ1社長だろう。フォロワーはこのコラムの締め切り時点で250人とやや寂しいが、証券会社の元営業マンだけにフットワークが軽そうだ。彼の持つ経歴と発想は、新しい社長像を作るのではないか。
この他にも元ラグビー日本代表の大東和美氏(だいとう かずみ/鹿島アントラーズ)、元東北リコー会長の白幡洋一氏(しらはた よういち/ベガルタ仙台)など、輝かしい経歴を持つ社長がたくさんいる。
情熱ある社長が日本のサッカー界を活性化する。
これまで“親会社”を持つクラブでは、球団社長のポストは「左遷先」でしかなかったかもしれない。乗り気でない人物が送り込まれ、うまくいかない例も多かったに違いない。だが、日本にサッカー文化が根付き始めたことで、これからは情熱を持った社長が増えていきそうだ。
プロリーグでは、クラブの社長も見所のひとつ。Jリーグにおいて、個性的な社長がさらに増えることを期待したい。
* 訂正のお知らせ : 記事内容に一部誤りがありましたので、3月3日17時に修正いたしました。ここに訂正のご報告をし、お詫び申し上げます。
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