Dr.中川のがんから死生をみつめる

文字サイズ変更
はてなブックマークに登録
Yahoo!ブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

Dr.中川のがんから死生をみつめる:/17 医療費、出し渋る日本

 がんの完治の定義はありません。再発の危険は、治療から月日がたてばたつほど減っていきますが、たとえば乳がんでは、20年後に再発することも決してまれとは言えません。あるいは、もともと完治が難しく、一生付き合っていかなければならないがんもあります。結核などの感染症と違って、がんという病気の難しいところです。

 一生涯にわたって治療を続けなければならないがんの場合、問題になるのが治療費です。たとえば、白血病の一種「慢性骨髄性白血病」は、かつてリスクの高い骨髄移植を受けないかぎり、死に至る病気とされてきました。しかし20年ほど前、新しい治療薬「インターフェロン」が登場し、長生きできる患者さんが、わずかながら出てきました。さらに01年には、白血病の原因となる異常なたんぱく質を選択的に抑える画期的な分子標的治療薬「グリベック」が発売され、長期に生存できる患者さんが急増しました。

 ところが、グリベックは服薬を一生続けねばなりませんし、薬代も非常に高額になります。保険がききますが、自己負担が3割の場合、毎月11万6000円程度の支払いになります。高額療養費制度を使っても、毎月4万4400円を自己負担しなければならないため、年間およそ53万円の負担になります。もし20歳代で発症すると、一生で何千万円もかかる可能性があります。

 フランス、イギリス、イタリアといった、多くのヨーロッパ諸国では、がんの医療費は、公的保険でカバーされていて、患者さんの自己負担はありません。世界に誇る「国民皆保険制度」を持つ日本も、この点は及びません。

 そもそも日本は医療にお金をかけていません。我が国の国内総生産に対する医療費の割合は約8%です。米国の17%の半分以下で、先進7カ国の最下位です。医師や看護師の数もやはり7カ国中最下位ですが、公共事業への支出割合はトップです。

 命より道路を優先してよいはずはありません。必要なお金を、きめ細かく医療にかけること、たとえば、がん医療費を支援することが、国民の生活を守ることにつながるはずです。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)

毎日新聞 2009年8月4日 東京朝刊

ドクター中川の“がんを知る”
「続・ドクター中川の“がんを知る”」(毎日新聞社刊・1000円+税)が発売されました。臓器別の解説を交え、がんについてよりわかりやく解説しています。既刊「ドクター中川の“がんを知る”」も好評発売中です。

Dr.中川のがんから死生をみつめる アーカイブ一覧

PR情報

 

おすすめ情報

注目ブランド