奈良県桜井市の吉田智樹(ともき)ちゃん(5)が両親の虐待で餓死した事件で、県の児童相談所や市、民生・児童委員などが、会社員の父吉田博(35)とパート店員の母真朱(まみ)(26)の両容疑者=保護責任者遺棄致死容疑で逮捕=の虐待について全く把握していなかったことが分かった。奈良県警は4日、遺体を司法解剖するとともに同市粟殿(おおどの)のアパート2階の自宅を家宅捜索する。
調べに対し、博容疑者は「食べていなくてやせているのも分かっていたが、病院に連れて行かず、何もしなかった」、真朱容疑者は「夫に似ていて、かわいくなかった」と供述しているという。
事件は、真朱容疑者が3日、児童相談所の同県中央こども家庭相談センター(奈良市)に自ら虐待を通報したことで発覚した。同センターによると、真朱容疑者からの通報・相談は初めてで、これまで近所の住民らからの通報も一切なかったという。両容疑者は親や近所とつきあいがほとんどなく、智樹ちゃんは保育園や幼稚園に通っていなかった。
桜井市によると、智樹ちゃんは2006年5月、1歳半の乳幼児健康診査を受けなかったため、担当者が連絡したところ、真朱容疑者は「下の子を妊娠しているから落ち着くまで行けない」と説明。08年の3歳半の健診も受けなかった。長女(3)は同年に1歳半の健診を受けたが、担当者が「お兄ちゃんはどうですか」と尋ねたところ、真朱容疑者は「大丈夫です」と答えたという。
福祉保健部の担当者は「健診に強制力はなく、自宅訪問もしなかった。虐待は全く把握していなかった」という。
地元の民生児童委員協議会によると、粟殿地区の担当委員は5人いるが、虐待の相談や通報はなかったという。主任児童委員の女性は「学校や幼稚園に通っている子であれば情報交換もできるが、そうでないと対応は厳しい。何とかできなかったのか悔しい思い」と声を落とした。