2010年3月4日0時13分
世界経済全体の動きよりも日本の回復は鈍い。米国のバブル崩壊の影響は「金融」という面では小さかったが、成長の原動力である「輸出」の大幅減が痛かった。しかも花形だった自動車やデジタル家電の輸出における、韓国などの追い上げも見過ごせない。
しかし、本当の原因は日本がその長所を見失ってきたことにあるからではないか。特に資本の論理を強調し過ぎたことが、日本の経営の長所を弱め、日本の技術水準を高める動機や仕組み自体を衰弱させるという認識が不足していた。
政治の次元でも何が日本の長所かを突き詰め、国づくりの基とする動きはなかった。
国民の一人ひとりが使命感を感じ、その目的のためなら負担もすると思えるようなビジョンが不在では、民間にポテンシャルがあっても国の力にはなりにくい。
しかし、このような試練の極みにあるからこそ、日本の経営が大切にしていた社員との信頼関係の意味は改めて浮き彫りになる。それは単なる雇用関係ではなかった。一人ひとりが、物ではなく存在として受け止められ、だからこそ一人ひとりが自分を磨き、全体に尽くしたいという願いが引き出され、共同体意識が育まれる。また顧客の本当の必要に応える製品やサービスが生み出されよい業績につながる。そのような流れは会社は株主の所有物とする会社観からは出てこない。
そのようなずれを見直し、基本に立ち返ることで、良い結果が出ることが実証され、多くの経営者のはげみにもなるような新しい流れをつくることが成長戦略の要だろう。やがて人間の復権を主軸とした経営が日本から発信され、世界からも共感されるビジョンにつながると思われる。(瞬)
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「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。