Last Updated: 2007.04.10 / First Edition: 2007.04.10
攻略
●概要
延期に次ぐ延期で"S.T.A.L.K.E.R. Forever !!"などと呼ばれていた「S.T.A.L.K.E.R.」がようやく発売した。この作品はPCゲーマーたちにとって半分ジョークのような存在になっていて、発売が決まったときも「どうせまた延期に決まっている」という声が多く、本当に発売されたときは私も素直に驚いたのだ。ゲームは題名通りチェルノブイリ原子力発電所の事故を元にして作られており、2006年に再び事故が発生したという設定で、その奥地から謎のトラックで運ばれてきた記憶喪失の主人公が"Kill
Strelok(Strelokを殺せ)"というメッセージを頼りにこの地を旅するというストーリーになっている。タイトルの"Stalker"とはこの地で仕事をするハンターのような者達の名称。
●独特のゲーム性
このゲームが発表当初から最大の売りとしていたのは「A-Life」という独自の生態系シミュレーションシステムだった。これは要するに一種のMMOゲームをAIによって実現しようとしたもので
"Zone"と呼ばれる地域で無数のStalkerやミュータントといったNPCが独自に活動し、プレイヤーの与り知らぬところで勝手に殺し合いをしたりしているという箱庭空間の構想である。プレイヤーはこの広大な箱庭空間を自由に行き来しながら、時にはNPCからクエストを授かって敵対勢力の殲滅をしたり、あるいは研究所などに侵入してストーリーを進めていくことができる。
ただし「A-Life」に関しては発売に至るまでに相当スケールダウンされたらしく、確かにNPCは勝手に世界の中で活動しているのだが、行動が消極的で自分から敵地を攻撃しにいこうとしたりはほとんどしない。それぞれが保守的に自分のテリトリーで暮らしているという感じで、例えば他の場所に遠征して帰ってきたら、見知らぬ勢力がテリトリーを支配していた、というようなドラマ性はない。これは非常に残念な点である。
ゲームをプレイした感触について書いてみると、まず出だしが相当漠然とした状態から始まる。開始直後からストーリーは謎だらけで、とてつもなく広大な空間の真っ只中にいきなり放り込まれる。周囲には自分にクエストの依頼をしてくる人間がいて、よく分からないので引き受けると勝手に戦闘が始まり、勝手に終わる。武器やアイテムも何だか分からないが色々手に入る。何となくキャンプをしている敵を皆殺しにしてみたが、それで良かったのかどうかもはっきりしない。まるで遠い異国に1人で連れてこられて「ここで遊べ」と突き放されたような気分になる。さらに序盤は武器も貧弱過ぎて、敵を倒すのにかなり苦労するので、開始直後は地方の会社が作った絵の綺麗なB級作品にしか見えないかもしれない。
S.T.A.L.K.E.R. という作品はこの時点で大分損をしている。恐らく製作者たちは、自分たちが長年期待させていたこの箱庭空間を最初から思う存分楽しんでもらいたかったのだろうが、いきなり訳の分からないゴチャゴチャした空間に放り出されるので、普通のプレイヤーなら間違いなく戸惑う(というか何が楽しいのか分からない)。このゲームは一番最初にもっとプレイヤーを誘導するべきだった。多分4割くらいの人間がこの時点でゲームを放棄し、HDDの肥やしにしているのではないかと思う。
●ゲームを進めるほどに面白くなる
かなり出だしの重いS.T.A.L.K.E.R. だが、ゲームを進めるに従ってだんだんと魅力の方が増してくる。重要なものとそうでないものの区別がつくようになり、自分の今の状況もぼんやりとだが見えてくる。武器もピストルからショットガン、スコープ付きアサルトライフルとグレードアップしていき、弾が全然当たらなくて大変だったものがいつの間にかヘッドショットを狙えるようになってくる。敵を殺しては武器を奪い、自分が強くなっていくのが分かってきてRPGのような楽しさも味わえて嬉しい。プレイ感覚に変化が起きてメリハリがあるのも長いゲームでは重要だろう。
ゲーム中は不気味で異様な雰囲気が常に漂っており、写実的なグラフィックや箱庭的な空間も重なって、まるで自分が現実にチェルノブイリという異界にいるかのようなゾクゾクした感覚を味わえる。特に不気味なのが室内エリアだ。かなり暗い空間をフラッシュライトを頼りに進むのだが、原発事故で「生まれてしまった」かのような不気味なミュータントが突然襲い掛かってきたりする。ゲーム作りのセオリーを無視する謎だらけの設定は、逆にチェルノブイリという空間でプレイヤーの想像力を刺激してくれる。このゲームはCGの技術がどうとかの前に、色の使い方やデザインの発想が面白くて、とても魅力ある世界観の構築に成功しているのだ。
●骨のあるゲームバランス
ゲーム難易度に関しては、最近のFPSとしてはかなり高めと言ってよいだろう。序盤は狙撃銃もないのに遠距離から銃弾の嵐が飛んできてどうしろという感じだし、終盤も相当な数の敵が出てきて、それを1人で捌かなければならない。しかも普通に戦っていると弾薬はどんどんなくなってきてしまうので、ここから生きて出られるのか…と本気で不安になってハラハラしてしまう。だがこの緊張感がいい。このゲームの不気味な雰囲気を作っている要素の半分は、プレイヤーの持つ緊張感・不安感にあるからだ。ただ連続でプレイしているとちょっと疲れるが。
戦闘内容はFarcry系のオープンなフィールドで双眼鏡と狙撃銃を中心に戦っているスタイル。ゲームの2/3くらいは開けた土地での戦闘となるのだが、見通しが非常に良くて、大抵の場合突撃銃がほとんど当たらないような遠距離戦になる。そこでまずは双眼鏡を使って敵の位置を確認しつつ、攻撃が当たる距離まで接近して攻撃したり、敵のいないところをダッシュで逃走したりになる。当然、どの方向からどのように攻めるかにはかなりの自由度がある。
S.T.A.L.K.E.R. をプレイしていて驚かされるのは、ゲーム中の要素が多いのにも関わらず、それらを破綻することなくまとめていることである。武器を撃った感触は上々だし、戦闘とステルスのバランスも程よい。ノイズやビジビリティといったインジケーターもあり、それらを頼りに行動すれば交戦を避けることもできる。さらにAIもかなり賢く、戦っていて面白い。オブジェクトを利用して自分の身を隠しつつ、アグレッシブに移動して見失わせようとしてくるし、こちらが隠れていればちゃんと勘違いする。相手がこちらに気がつくまでの間もとても自然な感じだ。室内で障害物の多い場所で戦っていると、2005年に話題となった「F.E.A.R.」のAIを相手にしているかのような面白さを味わえる。
RPG要素として「インベントリ」「重量制限」もあるのだが、重量バランスもよく煮詰めてあり取捨選択の楽しみがある。通貨の概念もあり店のオーナーや道行く人々とトレードすることもできるのだが、パッチが適用されてからはこのバランスもそこそこ良くなった。
●中途半端なクエスト要素
ゲームの大きな売りであるサブクエストに関しては、残念ながら面白味が少なくあまり寄り道する意義を見出せない。まずクエスト内容がどこそこの山賊を倒せとかばっかりで似通っているし、もらえる報酬は金くらいで、山賊を倒すのに使った弾薬代と釣り合わないときがあり、つまりサブクエストは引き受けてもあまり得にならない。ランキングなんかもあるのだが、普通に進めていればいつの間にか1位になっている。クエストの数を絞ってでも1つ1つのクエストに何らかの面白味を持たせたり、あるいはレアなアイテムがもらえるとかにするべきだったと思う。
その他の欠点としては、やはりマップが巨大なのでロード時間や移動時間が長い。マップがやたら使いにくい。バグが結構ある。敵AIが壁越しの銃声にも反応して騒ぎまくる。壁越しに撃ってきてしかも当たってしまうなど。敵は人間が大半だが、せっかく特徴的なミュータントがいるのだからもっとそれらを出して欲しかったところだ。
●総評
開始時に盛り上がらないゲームだが、プレイしているとどんどん面白くなってきて最終的にかなりの満足度を得られる。ゲームの作りこみは凄まじく、マップが巨大な上に丁寧に描きこまれていることに始まり、難し目だがゲームバランス良し、AI良し、雰囲気良しととにかく密度が高い。FPSマニアがFPSマニアのために作ったゲームという感じで、類を見ないゲームなのでFPS慣れした者でも新鮮さを味わうことができるだろう。変な部分もあるしプレイしていて疲れるが、とにかく時間をかけただけある内容に仕上がっていて良かった。
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S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl (C) 2007 GSC Game World. All rights
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