現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

失業率改善―本格回復につなげるには

 景気に続き、雇用情勢も最悪期は脱したようだ。それでも、総務省が発表した4.9%という1月の完全失業率はなお高水準で、回復を肌で実感できるにはほど遠い。

 季節による影響を除いた率で前月比0.3ポイントの改善は喜ばしいが、完全失業者の数はなお300万人を超え、昨年同月より46万人も多い。

 さらに気がかりなのは、統計では失業者に数えられないが実際は仕事に就けないでいる人々の存在だ。

 ハローワークに通って就職先を探し続けたが、なかなか見つけられないでいるうちに探す意欲もそがれてしまい、求職活動をやめたという人も少なくないと思われる。

 それでも、今後に希望を抱かせる変化が出てきた。ひとつは中国などアジア向け輸出の好調を反映し、関連企業の求人が回復しつつあることだ。この動きは強まっていくに違いない。

 それに加え、新たな内需として特に注目したいのは、医療・福祉分野の雇用の増加ぶりである。

 1月のこの分野の就業者は642万人。昨年同月より26万人増えたが、現場の人手不足感はなお根強い。もともと高齢社会化に伴って雇用が伸びてきた。昨年から政府が介護報酬の抑制策を改めたことが雇用増を後押しし、失業率の改善に寄与した。

 深刻な人手不足に陥っている医療と福祉の分野で魅力ある就職先を増やしていくために、政府や自治体はもっと力を注いでもらいたい。

 ケアスタッフが誇りを持ち、長く働き続けられる職場だと社会に広く認知されるまで、てこ入れが必要である。公的資金の投入だけでなく、規制を改革し、NPOや民間業者の参入をさらに広げ、社会福祉法人とサービスや労働環境の質を競わせる、という方法も工夫したい。

 さらに大きな視野で取り組むべきは、デフレ脱却と成長戦略のなかに、新産業と雇用創出の戦略をきちんと埋め込むことではないか。

 昨年暮れに基本方針だけが閣議決定された鳩山政権の「新成長戦略」は、6月にも工程表を決め、肉付けをはかる。「需要」を成長の起爆剤にするというが、そこでは消費と投資を増やす具体策が問われる。

 消費の増加は、雇用の回復なしにはありえない。雇用と消費を増やす展望を描けないままでは、企業の設備投資も盛り上がらないだろう。

 重視したいのは、地球温暖化対策につながる新産業を育てることだ。それが、力強い成長を見せるアジア諸国の低炭素化に貢献し、輸出の増加にもつながってゆく。

 失業率の数字に一喜一憂するよりも、新たな雇用の創出に努める。その先に回復の道筋がみえてくる。

選択的別姓―女性を後押しする力に

 希望すれば結婚後も戸籍上、姓を変えないで名乗ることができる「選択的夫婦別姓」制度の導入などを盛り込んだ、民法改正案を今国会に提出できるかどうか、微妙な情勢になっている。

 千葉景子法相は成立に意欲を見せているが、連立与党を組む国民新党の亀井静香金融相が「反対」を表明し、民主党内にも異論があるからだ。

 改革案は1996年に法制審議会から答申された内容に沿ったものだ。しかし、与党だった自民党内の反対が強く、政府として法案が出せないまま今に至った。反対の主張は「夫婦同姓は日本の文化、伝統。別姓では家族のきずなが壊れかねず、子どもにとって好ましくない」というものだ。

 しかし選択的別姓は、結婚したときに夫婦同姓か別姓かを自由に選択できる制度だ。別姓を義務づけたり、強制したりするわけではない。法案では、混乱しないために、子どもの姓はどちらかに決めて、兄弟姉妹間では統一するなどの仕組みも打ち出した。

 また法案には、女性の再婚禁止期間を半年から100日に短縮することや、結婚していない男女に生まれた「婚外子」に対する相続差別解消なども盛り込まれる。

 いずれも多様な生き方を認めようとするもので、社会の最前線にいる女性に働きやすい環境が広がり、少子化を改善する効果もあるだろう。

 国連の女性差別撤廃委員会も、こうした改革の迅速な実現を日本政府に勧告している。

 昨年暮れの朝日新聞の世論調査では、選択的別姓に賛成が49%、反対が43%だった。しかし、働き盛りで子育て世代の30〜40代の女性に限ってみれば、7割近くが賛成している。

 すでに時代は変化し、家族のかたちも多様になった。労働人口の4割以上は女性である。男性が働き女性が家庭を守るという家族観は、もうずいぶん前から日本の現実とは釣り合わなくなっている。

 様々な不利益を覚悟しながら、仕事の都合で事実婚を続けている夫婦も少なくない。働きながら一人で子どもを育てている女性もいる。そうした女性たちに働きやすい環境を提供することは、鳩山由紀夫首相が掲げる「命を守る」ことにつながる。

 女性を生かすことは、経済が低迷し閉塞(へいそく)する日本社会を活性化する。

 亀井金融相は景気の浮揚を言い、労働者派遣法の改正については雇用される側の立場を強調する。女性の活躍を後押しすることは、長い目で見て、経済に底力をつけさせ雇用を安定させることにも通じるではないか。

 民主党は改正を求めてきた。鳩山首相は責任を持って党内、連立与党の合意づくりに全力をあげるべきだ。議論を一歩でも先へ進めよう。

PR情報