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あのころ、みんな子どもだった......「ロッチ」を生んだ"赤い海賊"コスモスの伝説

2010年02月22日08時20分 / 提供:日刊サイゾー

日刊サイゾー
あのころ、みんな子どもだった......「ロッチ」を生んだ
 「ロッチ」

 このワードに反応する人は、おそらく80年代に駄菓子屋文化の洗礼をもっとも受けた世代であろう。80年代後半、ロッテより『ビックリマンチョコ』の『天使vs悪魔シリーズ』が発売され、そのおまけのシールが全国の小学生の間で大ブームを巻き起こしていた。その人気の裏で、日本中のカプセル自販機(通称・ガシャポン)でひっそりと海賊版『ビックリマン』シールが販売されていた。一見、正規品と遜色ないシールだが、裏面には正規品には印刷されている「ロッテ」のロゴに代わり、「ロッチ」という見たことも聞いたこともない企業の名前が海賊版には印刷されていた。

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 とはいえ安価にお手軽、かつ大量に『ビックリマン』シールを手にいれることができるという、「ロッチ」シールに多くの子供たちは食いついたわけだが、その結果、偽物のシールに手を出した無垢な子供たちは、異端者としてコミュニティから追われる存在となり、あわれ村八分扱い。その瞳には世間への憎しみと、己の運命を恨む炎が宿るのだった......。という熱いドラマが全国で繰り広げられていたかどうかは不明だが、当時ジャリ向けカルチャーのバイブル誌「コロコロコミック」(小学館)にも「偽物が出回っている」と情報が掲載されるくらい世間に流布し、ちょっとした社会問題となっていた。

 その「ロッチ」シールを作っていた企業こそ、日本の駄菓子文化のアンダーグラウンドを支えた「株式会社コスモス」だった、という事実はご存知だろうか? 駄菓子屋さんの店頭に並ぶ、真っ赤な自動販売機といえば「ああ!」と思い出される読者も多いだろう。そう、「あの」コスモスである。

 表に表示されているサンプルとは全く違う玩具が出てくるなんてのは序の口で、どこかで見たことあるけど微妙に違う海賊版アニメグッズ。はたまた明らかに肖像権をガン無視したとしか思えない芸能人グッズ。どこからどう切っても「ヤバイ」アイテムを全国にばらまいてきたコスモスだが、当時は全国に50箇所もの営業所を構えるだけでなく、社内に工場、流通会社が存在し、なんと1000人以上もの社員を抱えていたことはあまり知られていない。

 このように70年代から80年代に存在したコスモスは、アラサー世代の日本人の記憶に深く刻まれながらも、その実態は謎に包まれていた超巨大企業だったわけが、残念なことに現在はすでに倒産してしまっている。

 しかし、「コスモス」の灯はまだ消えてはいなかった。かつて存在した宇都宮営業所が「ヤマトコスモス」と改称して、なおも活動中なのだ。

 公式サイトを覗けば、「コスモスproject」という謎の組織が発足し、「当時のコスモスがなしえなかった宇宙開発を胸に、再び世の中を赤く震撼させるべく発足されたプロジェクト」(原文ママ)という何ともアレな宣言をぶちあげているではないか!

 再び日本があの赤いトラックと自販機に埋め尽くされてしまうのか? そもそもコスモスは宇宙開発が最終目標だったのか? やっぱりNASAの技術をパクるつもりだったのか? こいつは一大事だ!

 というわけで、早速我々は元コスモス幹部にして現ヤマトコスモス会長・鈴木氏にコンタクトを取ったのであった。

■コスモス元幹部に接触成功!

「今更コスモスなんて終わったモンの何を聞きに来たんだよ!」

 いきなりの先制パンチである。念願かなって初対面となった鈴木氏は、まさに昭和の親父、といえる豪放磊落な人物であった。思わず面食らってしまう筆者だが、ここでひるむわけにはいかない。

 一見、気のいいやんちゃな親父という雰囲気を醸し出す鈴木氏だが、なかなか本題に切り込ませてはくれない。だが、何とか振り落とされないように取材を続けるうちに、ある瞬間その瞳が放つ光が変わったように見えた。

「他に行くところのない奴らが集まってた会社だよ。俺も家族を食わせるためにここに来たんだから」

 それまでの飄々とした口調が急に重みを増した。我々は認めてもらったのだろうか。チャンスは今しかない! ということで、いきなり本題に切り込む。まずはコスモスの自販機では、表に出ているサンプルと全く違う玩具が出てきたり、むやみに射幸性を煽る「当たりくじ」のシステムが当時PTAの間で問題にされていたことについて尋ねてみた。

「表と違うものが出てくるのも、当たり外れがあるっていうのも、子どもたちを楽しませてあげたいからだよ。何が出てくるか分かる遊びのどこが楽しいんだい? 何が出るか分からないから面白いんじゃないか」

 では、ロッチのシールについては......。

「欲しいシールがあったら1枚といわず、何枚でも欲しいでしょ? だったら作ってあげればいいじゃない」

 後ろめたさがあるせいか、若干声のトーンは落ちつつあるが「子どもたち」を話題に出す時の口ぶりは力強い。「子どもたちを楽しませよう」という強固な(そして時にはスパルタ的ですらある)エンタテイメント精神。それこそがコスモスの目指したものだったのではないだろうか。

 事実、安くても、パチモンでも、胡散臭くても、10円玉を投入するその瞬間の刹那的な興奮に、かつて日本中の子どもたちが酔いしれたのだ。

「全国から10円玉が集まりすぎて、倉庫に麻袋だらけになったこともあったよ。もちろん中身は全部10円玉だけどね。そしたら日本銀行から『市場の10円玉が不足している』って通達がきて、トラックで回収に来たこともあった」

 そんな我が世の春を謳歌していたコスモスだが、その終焉は突然訪れた。

「ロッテから訴えられたんだよ。それでコスモスをまともな会社にするために改革しようとしたんだけど、そしたらどんどん社員が辞めていってね。結局次の年には倒産しちゃった」

■全ては子どもたちを楽しませるために

 コスモスが倒産した年は1988年というバブル絶頂期。その数年後、バブル経済は崩壊し「失われた10年」が始まるのはご存知の通り。奇しくもコスモスの終焉と日本の経済成長神話の終焉がシンクロしているように見える。この奇妙な符合については「分からないけどね」と前置きをした上で、鈴木氏はこのように語った。

「この時期からだよね、著作権の話がさかんにされるようになったのは。それにカプセル販売機からも『はずれ』が出なくなった。みんなちゃんとした玩具になった。そのせいで子どもたちの心からワクワクが消えちゃったんじゃないかな。日本中が窮屈になって、ワクワクできないっていうことは感動できないって事だ。感動する心を忘れた国が弱体化するのは当然だよ」

 子どもたちを楽しませるためには手段を選ばない、過剰なまでのサービス精神。これこそがコスモスの本質であり、それゆえに子どもたちからの圧倒的な支持を得られたのだ。

 無論、だからといって海賊商法を肯定できるものでもない。それは当人も認めるところで、

「コスモスは工場も流通も、必要なものは全部自分たちで作ってきた。そういう気持ちで宇宙開発までやる、っていう精神だったから1,000人も抱える企業になれたんだ。でも、唯一作れなかったのはオリジナルキャラクター。だから生き残れなかった。唯一のオリジナルのはずの真っ赤なコスモス・トラックも、郵便局の海賊版だしね」

 と自嘲気味に語る。

 確かにコスモスは、キャラクタービジネスが確立していく時代の流れに揉まれ消えていった。しかし、コスモスの魂はまだ死んではいない。旧コスモス従業員によって構成されているヤマトコスモスは、現在も栃木県内のコスモスの自販機のメンテナンス、商品の補充を続けている。

 また、先述の「コスモスproject」はコスモスファンの若い世代が提案し起ち上げた企画であり、コスモスのロゴをあしらったグッズを販売。今後は様々な業界とのコラボレーションも計画しているという。

「コスモスからもらった感動と興奮を、後の世代に残していきたい」

 「コスモスproject」代表のナマイアキコさんはこのように語る。コスモスが遺したエンターテイメント精神は形を変え、今も生き続けているのだ。

「若い奴らが何かワケの分からない事をやってるだけだよ」

 そう素っ気なく鈴木氏は言うが、その口調はどこか嬉しそうであった。

 コスモスが駆け抜けた時代は、日本全体がハングリー精神を持って必死に生きていた最後の時代だったのかもしれない。そのコスモスがバブル景気の時代の波間に消えていったこと。そして、再び日本全体が不況にあえぐ現代に、息を吹き返そうとしていること。それらは全て単なる偶然とはいい切れないはずだ。時代は今、コスモス魂を必要としているのだ!

 現在ヤマトコスモスの公式サイト内では、当時のコスモスを回顧する『コスモスは山賊のような海賊だった』(http://kaizoku.yamatocosmos.com/)というブログが開設さている。そこでは、常識というつまらない概念から解放された、「コスモス」というならずもの集団......、いや無限の可能性を秘めていた組織の実態が生々しく描かれている。

 読めば分かるが、株式会社コスモスとはとにかく無茶苦茶な企業だったようだ。しかし、パワフルなことだけはひしひしと伝わってくる。そんな思想を受け継いだコスモスの子どもたちが、再び日本全国を真っ赤に染める日も、そう遠くないかもしれない。
(取材・文=有田シュン)



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