1 | 2 | 3 | 4 | 5 |最初 次ページ >>
2009年04月27日(月)

失礼って何だろう

テーマ:フィギュアスケート
 いただいたメールについて、私が怒っていると思われているふしがあるのだが、私は怒ってはいない。呆れたり、残念だと思っているだけだ。

 私がある方のメールを公開したのは、そのメールがとても丁寧で礼儀にも配慮があったのに、残念ながら失礼な内容になっているからだった。他の人のメールを公開していないのは、自分のブログで公開するほどの内容だと思わなかったからだ。言い換えれば、たとえ他人の文章だろうと、自分のブログに載せる気にならないものだった。

 あ、このメールは失礼だな、というのは、最初の数行を読めばだいたいわかる。共通するのは

>今泉様

 みたいなものがなくいきなり始まり、しかも自分が誰なのかまったく書かれていないということ。

 ブログのコメントであれば許されることなのだろうが、メールというのは個人に向けて宛てた私信だから、最低限の礼儀はあるべきだと思う。そういう気遣いが無い人の文章に限って、自分の考えのみを連ねた(私が何を考え、意図しているかについてはまったく考慮がない)内容で、残念ながら読んでも響くところは何もない。

 なんでまたこんな文章を一方的に読まされなければならないのだろうと常々思っている。だからコメント欄を設けていないのに、わざわざブログに地味にリンクを張っている私のホームページを探し、そこからメールを送ってくる。そこまでするんだったら、最低限の礼儀ぐらいはあってしかるべきだ。

 まぁあれこれメールをいただいたのだが、なんというか「自覚しているようで自覚していない失礼メールナンバー1」はこういう内容だった。公開するとまた反論のメールが届きそうだが、このメールを誰が書いたかは送った本人しか知らないのだから(私だって誰だかわからないんだし)改めて自分のメールの文面を、これがいきなり自分に送りつけられたら、と思って読みなおしていただきたい。

> はじめまして。
> ブログの方は、前から時々楽しく読ませていただいております。
>
> ところで、スケートの件に関してなのですが
> 少し落ち着いてください、今泉さん。
> あなたのおっしゃることはもっともですが
> メールを公開して返信、というのは、同じ穴の狢ではないですか。
> おかしなメールなど放っておけばいいんです。
> 熱くなって反論するなら、最初からメールは受け付けないほうがいいと思います。
> コメント欄を設けていないだけで、いわゆる炎上と同じ状態になっています。
> これは、ブログの書き手が応戦したら、書き手側の負けになってしまいますよ。
>
> 私は浅田選手もすきですし、何よりフィギュアスケートのファンです。
> 今泉さんのおっしゃっていることはよくわかります。
>
> ただ、最近の日本でのフィギュアの報道が韓国よりだという現状、
> 浅田選手の特集などその全てにキムヨナを絡めてくる状態に
> 日本のフィギュアスケートファンがうんざりしている状況は確実にあります。
> そこにキムヨナの「日本人に妨害された」という発言、
> そしてまるで浅田選手が本当に妨害したかのような報道をしていた日本のマスコミ、
>
> さらにLAで浅田選手が妨害したというビラを配る韓国人がいて・・
>
> 今回の件は、どちらかというと
> 最近のマスコミに対する不信感、嫌韓がつっぱしった形だと思うのです。
> その矛先が、おなじマスコミの人間である今泉さんに向かったのではないかと思います。
>
>
> だからといって、浅田選手のファンが全部こうだと思わないでください。
> 過激なファン?が今泉さんのブログを攻撃した形になったのは
> 同じファンとして申し訳なくも思いますが
> しかし、今泉さんがそういう一部の過激なメールのみを取り上げて、
> 公の場でこういう反論をすることで、浅田選手のイメージまでも悪くなります。
> 私はそれが心配です。
>
>
> 不躾なメール、失礼いたしました。

 これが全文。他には何も書かれていなかった。名前はおろか、いくつなのかも、男性なのか女性なのかすらもわからない。

 一見、ちゃんとしたメールに見える。でも私は、会ったことも話したこともない相手に対して、相手が年上だろうと年下だろうと

> ところで、スケートの件に関してなのですが
> 少し落ち着いてください、今泉さん。

 こんな文章を書く神経が本当にわからない。何度も書いているけれど、あなたはどこの何様だろう。あなたは私の何がわかっていて「落ち着いてください」などといきなり書けるのだろう。

 「今泉さんのおっしゃっていることはよくわかります」とあるが、書かれていることは的外れだ。

> おかしなメールなど放っておけばいいんです。
> 熱くなって反論するなら、最初からメールは受け付けないほうがいいと思います。
> コメント欄を設けていないだけで、いわゆる炎上と同じ状態になっています。
> これは、ブログの書き手が応戦したら、書き手側の負けになってしまいますよ。

 私はブログではメールアドレスを公開していない。ホームページにはアドレスがあるが、それは仕事の依頼を受けるためのものだ。「最初からメールは受け付けないほうがいい」って、そりゃ変でしょう。ブログに対する反論を受け付けるために公開してるんじゃないんだから。
 コメント欄を設けていないのは、この方が書いている通り「炎上」なんていう馬鹿げた事態を招かないためだ。公開せず、私だけが引き受けているから「炎上」なんてことにはならない。でもそれだけだと言われっぱなしになってしまうから、送られたメールについて私がどう思ったかを、こうしてブログで書いているわけだ。どのメールをどのように公開するかは、私なりに考え選んでいる。それのどこが「炎上と同じ状態」なんだか。

 まぁ正直にいうと、私にとってはとんちんかんな内容なのだが、その出だしが「少し落ち着いてください、今泉さん」なんだもの。最初からこっちは落ち着いてるっちゅーねん(笑)。

 こういう「私が正論」タイプの人にありがちなのが、自分が正論だと思っていることを通すために、論理をねじまげること。

> 過激なファン?が今泉さんのブログを攻撃した形になったのは
> 同じファンとして申し訳なくも思いますが
> しかし、今泉さんがそういう一部の過激なメールのみを取り上げて、
> 公の場でこういう反論をすることで、浅田選手のイメージまでも悪くなります。
> 私はそれが心配です。

 「一部の過激なメールのみを取り上げて反論」とあるが、私は過激なメールは文面の一部を挙げるだけでほとんど紹介していない。それに「反論をすることで、浅田選手のイメージまでも悪くなります」って、そりゃ言いがかりだろう。浅田選手の「イメージ」は、彼女のスケートが作るものだ。その力がわかっていれば、こんな無責任な文章は書けないと思う。浅田選手のスケートの何を見ているのか。

 もっとひどいメールはたくさんあった。それに比べたらこの方のメールは、こうやって公開できるような内容だと思う。でも、残念ながらこのメールが一番失礼で、残念なものだった。最後がこう結ばれていたからだ。

> 不躾なメール、失礼いたしました。

 おっしゃる通り、大変に不躾で失礼な内容だと思う。他の人はこんな丁寧なことは書いていないから、最初から不躾で失礼だなぁと思って読み飛ばすことができる。でもこの方はところどころに「ファンとして申し訳ない」とか「心配です」とか「失礼いたしました」と書いているのでややこしい。メールとして基本から不躾で失礼だという自覚がまったく無いからだ。これって、通常の失礼に輪をかけて失礼だと思う。失礼いたしました、ってのは言葉だけで、誰よりもものすごく上目線なんだもの。

 メールを送るということは、相手にメールを読む時間を遣わせるということだ。良く知っている相手でもそういう配慮をするべきだと思う。増してや、相手が見ず知らずの人なのだったら、少なくとも「自分がいきなりもらったとしても読む気になるメール」にするべきだろう。大人なんだから。

 最後に。なんでまたこんなことを長々と書いているかというと、私にしたようなことをお願いだから選手やスケート関係者にしないでいただきたいと思うからだ。直接的でも間接的でも、日本でも世界でも。
 どの国の選手も、五輪を控えて練習で手一杯なんだから、お願いだから応援とか心配という名のもとに邪魔しないでいただきたい。無駄な時間を遣わせないでいただきたい。
 こう書くと「じゃあマスコミはどうなんだ」と言われるだろうが、私にいくらそのことを言われても私には何の権限もない。そして、そういうマスコミを責めるんだったら同じことをするなよ、と思う。

 長くてすみませんね。いま、本当に大事な時期だと思うので、とにかく黙って見守りたいんですよ。すべての選手が実力を出せるように。他国の選手が日本の試合のエキジビションに来られないなんていう馬鹿げた事態が二度と起こらないように。
 だって、生でこんなに世界の選手の演技が見られるだなんて、長年のスケート好きからしたら夢のようなことなんだから。

同じテーマの最新記事
2009年04月17日(金)

いいものを見た

テーマ:フィギュアスケート
 シーズンの最後にいいものを見られて良かった。浅田選手のショートのことだ。

 トリプルフリップ+トリプルループの2つめのループが回転不足と判定されることが多かったから、トリプルアクセル+ダブルトゥループに替えた。不安だったトリプルルッツはトリプルフリップに 替えた。

 それだけで、こんなにプログラムを滑りきってしまう。だったらもっと早くやれば良かったと思う人もいるかもしれない。でも、ミスの取り返しがつかないショートで、トリプルアクセルのコンビネーションを入れるのはかなりのことだし、体力的にも難しい。今シーズン、フリーでひたすらにトリプルアクセルを跳び続けて、少なくとも1回は不安なく跳べるジャンプになったから、シーズンの最後でようやくショートに入れることができた。

 世界選手権ではできなかった。五輪の出場枠とか、そういうことがまったく関係無い、言ってみればどうでもいい試合だったからそういうことができた。

 それにしても、なんとスケートが伸びやかで光り輝いていたことか。シニア1年目の最初の試合、スケートアメリカのショートを見て感じたことを思い出した。ピアノだけの「ノクターン」で、盛り上がるような部分など無い曲だけれど、終わったときに「ほうっ」と息が漏れるような演技。

 アメリカの著名なコメンテーターのディック・バットン氏が、この時の演技を見て「マオのSPは、ほかの選手の何光年も先にいた」と絶賛したと、田村明子さんが「氷上の光と影」で書いているが、久しぶりにそんな感じを味わった。

 浅田選手の持っているスケートの力はずば抜けていて、でもその力がいつでも全部発揮できるわけじゃない。そしてこの力は、今のルールで高得点を得るためだけにあるのではない。

 一度でも多く、こんな演技が見られたら、それだけで十分に嬉しい。もちろん、それに結果がついてきたら申し分ないけれど。 

2009年04月15日(水)

これにて終了

テーマ:フィギュアスケート
 こういうことでブログを更新するのはまったく本意ではないのだが。

 私が失礼なメールに対してはっきりと不快感をあらわにしたからだろう。家に帰ってメールソフトを開いたら、古くからのスケートファンの方々からの「同感です」という内容のメールが届いていた。
 古くからのスケートファン、と書いたが、もっと正確に書くと「特定の選手というよりもフィギュアスケートが好き」という人。昔はこんなにテレビでスケートが見られなかったから、NHK杯に出場する選手は有名無名を問わずしっかりと見ていた、というような人だ。

 でも中には驚くようなメールがあった。わざわざ「クレームではありません」という件名にして、どこに住んでいるか、自分の名前は誰かをちゃんと書いていて、とても丁寧な文章なのだ。でも、ものすごく失礼な内容で、そのことにご本人はまったく気づいていない。
 ああ、ファン心理の穴ぼこに入るってこういうことか、と思ったので抜粋して載せることにする。もちろんどこの誰かは書きませんので、送って下さった方はご理解ください。これが私の返信です。

 この方のメールには、まったく意味がわからないものがあった。

>私がわざわざメールしましたのは
>非難のメールがどのくらい届いたのかはわかりませんが
>今泉さんのあのエントリーに少し不安を覚えたからです。
>あの記事が煽る形になりませんか?
>更に騒ぐ人が出てきて事が大きくなって
>ニュースサイトなんかに載ってしまったら、
>それこそ浅田選手の耳に入るかもしれません。
>本来そんな人はファンではありませんが、自分のファンが
>他の人に迷惑をかけてると知ったら
>彼女は心を傷めるでしょう。

>私も2ちゃんねるはみませんが、あの動画サイトのコメント欄は
>たまに見る事にしてるのです。
>今どんなことになってるのか一応知っておこうと思って。
>フジのとくダネの一件はご存じですか?
>あの時も抗議と謝罪要求への盛り上がりようはすごかったのです。
>最初はそんな大人数ではなかったのにどんどん膨らんでいって今も
>悪口や誹謗中傷の嵐です。
>そして次のそんな機会を今か今かと待ち構えている人が大勢いるはずです。
>そんなときあんな風に攻撃してしまったら火に油だと思うのです。

 日本語なのにさっぱり意味がわからない文章を久しぶりに読んだ。私の文章が何を煽るのか。あの動画サイトとは。とくダネの一件とは。

 そしてこの方は私にこういうお願いをしてきたのだ。

>一度火がついてしまったら良心のある人が
>そんな事はやめましょう!と訴えても抑えることは不可能です。
>ですから多少のメールでしたら
>できるだけ無視してはいただくことはできませんか?
>腹だたしいとは思いますが、ほっとけば収まると思うのです。
>あとこれは、ずうずうしいお願いなのは承知なのですが
>「選手にもわたしにも失礼」の記事
>もう少し抑えめに書き直していただくことは難しいでしょうか?
>言ってらしゃることはもっともなのですけど
>ハラハラしてしまいました。
>今もあのコメント欄が暴走してないかと心配です。

 私はスケートおたくじゃない、と書いたとおり、どのサイトのどのコメント欄が暴走しているのか全く知らない。そしてそんなものをわざわざ時間を割いて読むほどヒマじゃないし興味が無い。
 それなのに、なんでわざわざ私が自分の文章を書き直す必要があるんだ? 「自分のファンが他の人に迷惑をかけてると知ったら彼女は心を傷めるでしょう」って、そういうことをしているのは誰だろう? 少なくとも私ではない。それなのに何故私が、他人の迷惑が浅田選手に知られないように自分の文章を修正しなければならないのだろう?

 この方はとても真剣で真面目で、真央ちゃんが好きで好きでたまらないのだ。だから気付かずに見ず知らずの他人(つまり私)に対して失礼なことをしてしまう。

 メールの最初にはこう書いてあった。

>最新記事の「選手にもわたしにも失礼」
>お怒りはごもっともだと思います。
>その前の浅田関連の記事をみれば
>フィギュアをある程度理解されているのがわかりますから。
>立場も偏ったものではないし、むしろ浅田ファンだと感じました。
>けれど今年はキムヨナあっぱれ!だったと。

 「お怒りはごもっとも」と書いているのにとても失礼だ。この文章の何が失礼なのか、普通はわかると思う。普通の基準が違うようだからはっきり書くが。

 私の書いたもののうち「浅田関連」しか見ていない。それで私を「浅田ファン」だと思い、仲間だと思ってこういう依頼をしてきたのだろう。
 私が書いたその他のブログや、スケート雑誌およびスケートサイトに書いた記事はおそらくまったく読んでいない。そういう人が初めてのメールで「フィギュアを『ある程度』理解されているのがわかります」と書いてくる神経が、私にはまったくわからない。

 私だって選手ではないから、自分がすべてわかっているとはもちろん思っていない。でも、私のスケートに対する理解が「ある程度」だというのなら、あなたはどの程度何を理解しているというのだろう。
 住んでいるおおよその場所と名前は書いてある。でももう一度問いたい。あなたは何様だ?

 こないだ書いた。「ひいきの引き倒し」と。

 あなたが浅田選手のことを好きで好きでたまらないのはわかった。もしあなたがフィギュアスケートというものに興味があるのだったら、他の選手を表面的に見て「浅田選手よりも上か下か」という短絡的な判断をするよりも、いろいろな選手の素晴らしいところを、成績や点数とは関係なく見てみたらどうだろうか。ジャッジとは関係なく私はここがいいと思う、と。どうせあなたも私もジャッジじゃないのだから。

 こないだテレビ朝日で放送された、国別対抗戦の告知番組を見た。みんなリラックスしてデザートを食べたりしていたが、他の選手をどう思うか、というところは真面目に話していた。例えば、カナダのロシェット選手の筋肉について、浅田選手や安藤選手がそれぞれに思うところを話したのだが、男子の織田選手までもが「トレーニングすると筋肉がつきすぎるからしてないって言ってました」とコメントしていた。
 みんなトップレベルのアスリートだし、ジュニアの頃から戦っているから、お互いのことはよくわかっている。このことと比べて、あなたの理解はどの程度なのだろう。

 どのレベルのどんな順位の選手であろうと「この選手はここがいいね」と見つけられるようになったならば、浅田選手のどこがすごいのか、非凡なのかが、今よりもずっとずっとわかるようになるはずだ。そして、同じ舞台で戦っている選手たちが、どれだけの努力をしてあの演技をしているか、選手同士がお互いをどう認め合っているかがわかるだろう。

 浅田選手がいかにすごいかを立証するために(わざわざそんなことをしなくたって、世界中の関係者が浅田選手のすごさはわかっていて、それでも勝てないことがあるということもわかっているんだけど)他の選手の粗さがしをしているような人には、リンクのトレースの上にキラキラと輝いている、その選手だけが持つ光なんか絶対に見えないのだろう。
 ものすごく残念だと思う。その光が見えないということは、浅田選手が持っている本当のスケートの力や光が見えていないということだから。順位とか得点とかとは全く別のところにあるんだけど。 

 この件についてのブログはこれにて終了とする。どこで何が暴走しようと知ったこっちゃない。
2009年04月14日(火)

選手にも私にも失礼

テーマ:フィギュアスケート
 フィギュアファンという方からメールが届いていたのだが、ざっと読んで削除した。どこの誰だかわからない相手からの割にはとても失礼な文章だったからだ。言いたいことを一方的に書きなぐっただけ。
 会ったこともない人間にいきなりそういうメールを送りつけるような神経の持ち主の言うことに興味はない。そういう人に限って「テレビに出ている人は公人だから」とか言ったりするが、それは卑怯だ。相手が誰だろうと礼儀はあるだろう。

 このことは何度も書いているのだが、私は「マスコミ」ではない。私にメールを送ったことで「マスコミ」にモノを言ったつもりになっていたらそれは大きな勘違いだし、他の新聞、雑誌、テレビが取った取材方法などについて「あなた達マスコミは」と私に言われても筋違いだ。

 このメールやいくつかのブログに「フィギュアは終わった」という記述を見かけた。そう思うんだったらもう見なければいいんじゃないか。私は終わっただなんて思っていないからこれからも見るけれど。

 私にいくらメールを送っても、私は私の仕事を利用して、私の考えと違うことをアピールするような公私混同はしない。ジャッジでもないのに細かな点数の検証をするようなことはしない。そんなにヒマじゃないし。

 なんかいろんなことが書いてあったけれど「キム選手の演技はダブルアクセルが3回入っているジュニア並みの構成です」ってのをわざわざ私に書いてくるってのもなぁ。
 それに、シニア女子はダブルアクセルを3回入れてはいけない、というルールは無い。1つめは加点を狙ってイナバウアーから高くたっぷりと跳んだ。2つめはダブルアクセル+トリプルトゥループだったが、2つめのトリプルの方が明らかに高かった。ルールで認められていることの範囲で最大限に高得点を狙うことのどこが悪いのか。今回は確実に優勝することを狙っただけだ。

 自分の主観のみで根拠なく人を非難することを「中傷」という。この人は自分の考えが絶対的に正論だと思っていて、違う見方があることに思いが至らないから、結果的に選手を中傷してしまっている。
 世界選手権で優勝を争うような立場に立ったことはおろか、おそらくは滑ったこともない人が、どうして選手に対してこんな偉そうなことが言えるんだろう。いったい何様のつもりか。キム選手がどれだけの練習をこなしてあの舞台に立ち、演技をやっているか、考えたことも無いのだろう。本当に失礼だ。

 こういうことを書くとまた「キムヨナ擁護」みたいなことになるんだろうな。あぁくだらない。私は「キムオタ」でも「マオタ」でも、ついでにいえば「スケートおたく」でもない。どれとも一緒にしないでもらいたい。

 2人の選手に対する私の思いは、こないだも書いたがこのことに尽きる。

 キム・ヨナ選手はスケーターとして完成の域に近づいている。浅田選手は今の時点でまだ、どんなスケーターになるのかわからない。

 あれやこれやと騒いでいる人には、私が何を思っているのかきっとわからないんだろうな。残念なことだ。

2009年04月11日(土)

遼くんと真央ちゃん

テーマ:フィギュアスケート
 石川遼くんがマスターズ初挑戦で予選落ちした。

 私はゴルフのことはわからないし、正直言ってあまり興味も無い。あくまでもテレビでちょっとだけ見た範囲だが、このコースはただものではないことぐらいはわかった。なんでカップと違う方向に打つんだろうと思うと、グリーンに載ったボールが逆戻りしたりしてカップの方に転がっていったりする。
 10センチずれたら全然違う結果になってしまう。そういうコースなんだろう。

 たくさんの人に注目され、期待され、たくさんのCMに出て、もはや自分のことは自分一人では決められなくなっている。そんな十代のスポーツ選手は、日本では遼くんと浅田真央選手ぐらいだろう。

 ゴルフは競技とは別に、趣味で楽しむ人も多い。そんなたくさんの人に加えて、ゴルフはよくわからないけれど遼くんは好き、という人までが彼を応援している。応援している人たちは、今すぐに世界のトッププレーヤーになることを期待していない。彼の成長を見守る立場で応援している。

 それと同じ気持ちで、私は浅田選手を応援している。小学生で全日本に出場したのをテレビで観て以来ずっとだ。浅田選手が五輪で金メダルを得るところをいつか見てみたいけれど、出場するすべての試合に勝って欲しいとか、常にワールドスタンディングの1番でいて欲しいとは思っていない。

 Sports@niftyの、ニコライ・モロゾフの発言についての記事の中に「スケートファンならば、根拠のない噂を元に、いつまでも行きすぎた議論を続けていたくはないし、他国の選手やライバル選手への中傷を繰り返したくはない」という文章があった。

 私は2ちゃんねるは見ない。以前「スケート」というところを見たら、スレッドのタイトルを読んだだけで、使われている日本語の醜さに反吐が出る思いがしたからだ。中を丹念に読めば、たまには真摯で選手を尊重する書き込みもあるのだろうけれど、ひどすぎて探す気にもなれない。
 なので、ファンの噂も中傷も知らないのだけれど、記事のトラックバックやこのブログのアクセス解析をたどったりして、いくつかのブログと、それに寄せられたコメントを読んでみた。

 正直な感想としては、浅田選手を応援しているのはわかるが、ちょっとひいきの引き倒しになってるんじゃないかと思った。
 多くの人が挙げているのが「キム・ヨナ選手が試合前に、日本選手に練習を妨害されたと報じられたこと」と「キム・ヨナ選手の得点が高すぎる」という点だった。

 以下は私個人の感想だが。

 キム選手が韓国のテレビ局に何を言い、それがどう報じられたか私は詳しくは知らない。そして興味がない。「公式練習中に他の選手の邪魔をする」だなんてあり得ないからだ。ただでさえ時間が限られている公式練習の間にそんなことをしていたら、自分の練習ができない。そして国際大会に出場するクラスの日本選手に、そのようなレベルの低い選手はいない。
 スケート連盟がわざわざ公式サイトに見解を載せていたが、それは問い合わせや抗議があったからで、関係者や選手たちはバカバカしいので気にも留めていないだろう。騒ぐだけ時間の無駄だ。

 キム選手の得点が高いという点だが、トリノ五輪のプルシェンコの得点と比較して「あり得ない」というような書き込みを目にしてものすごく驚いた。そういう比較こそがあり得ないからだ。

 採点法が変わってしばらくは、その選手にとっての最高得点だった場合は「パーソナルベスト」という言い方をしていたが、今は「シーズンベスト」に変わった。ルールがシーズンごとに変わるので比較ができなくなったからだ。トリノ五輪で男子の選手が出した得点よりも高いからといって、その得点がおかしいとは限らない。
 そもそも、フィギュアスケートはずっと「何点をとったか」ではなく「何番目にいい演技だったか」を競う競技だった。今でもプログラムコンポーネンツについてはそういう部分が残っていると思っている。

 今回、PCSの全ての項目でキム選手がすば抜けて高い得点を出した。スピードは最後まで衰えなかったし、後半は演技ではなく心からの笑顔で滑っていたし、音楽も緩急がはっきりして解釈しやすいものを選んでいた。点数が出しやすい演技だったのは間違いない。
 特に浅田選手と違うのはスピードだ。ジャンプに入る前でもまったく速度を落とさない。だからあれだけ高さと幅のあるジャンプが跳べるし、演技全体の印象が上がる。得点については「ずいぶん出たな」とは感じたが、別にあり得ないとは思わない。「差がある1位」とジャッジが感じたということで、それはそう思うから。

 浅田選手はスピードよりはタイミングでジャンプを跳ぶ。それでトリプルアクセルが跳べるのがすごいところなのだが、スピードが落ちると回転不足になりやすい。
 今回は後半に向けてスピードが落ちて、休みなく続く要素に追われるような演技になってしまい、結果的にスパイラルやステップでもレベルを落としてしまった。でもとても難しい内容の演技だったから、悲観はしていない。そういうときもあるだろう。

 残念だったのは、キム選手の演技を認めないとか、なんとも思わないとかいう書き込みが目立ったこと。曲のつなぎが嫌いだとか。誰だって演技に好き嫌いはあるだろうが、それってわざわざブログに書かなければならないことだろうか。ブログだったら何でもありなのかな。
 浅田選手とキム選手はお互いを認め合っている。他の誰かが認めようと認めまいと2人には関係がない。

 ひとつ考えて欲しいのは、自分の書き込みを浅田選手が読んだらどう思うだろう、ということ。内容が浅田選手に関するものでもキム選手に関するものでもだ。浅田選手はいつだって、その気になれば誰のブログでも読める。そのことを自覚している人がどれだけいるだろうか。

 遼くんにも真央ちゃんにも、いろいろな立場の人が様々な期待をしているけれど、私は選手の負担にならない応援をしていきたい。当たり前だが、2人は私のために生きているのではなく、自分の人生を生きているのだから。

2009年04月05日(日)

浅田選手のこと

テーマ:フィギュアスケート
 四大陸選手権のキム・ヨナ選手のショートは、気持ちの良い素晴らしい演技だった。フリーはあえて苦手なトリプルループに挑戦し転倒してしまったが、世界選手権では構成を変えてくるだろう。だとすれば、ショートをノーミスで終えて、フリーで後半のトリプルルッツを決めたら、キム・ヨナ選手が優勝するんじゃないかと思った。もちろん浅田選手がショート・フリーともにノーミスだったらわからない。

 とはいえ、今年の世界選手権については、スケート好きの友人には「誰が勝っても別にいい、出場枠が取れて、それぞれが来年につながる演技をしてくれたら」と始まる前から言っていた。浅田選手は別に優勝しなくてもいいと本当に思っていた。

 本人はそれを目指すだろうし周りも期待するだろうけれど、今シーズンのプログラムは試合で確実に勝つためのものではない。言ってみれば大リーグボール養成ギプスのような内容だ。あれもこれもとてんこ盛りだし、休む場所が無い。それにトリプルアクセルを2度入れるというのだからとんでもない。

 タラソワコーチは五輪の前年だからこんなプログラムを作ったのだろう。前年にこれだけのことをやっておけば、来シーズンはゆとりを持ってプログラムを作ることができる。五輪で金メダルを取ることがどういうことか、タチアナ・タラソワはよくわかっている。五輪で金メダルを取るために、前年の世界選手権に優勝する必要はないのだ。

 とはいえ、シーズンを通して、浅田選手は結局不安を抱えたままだったような気がする。ルッツが跳べるか、トリプルアクセルが2度決まるか、大体にしてこれだけの内容が滑りきれるか。いくら浅田選手でも容量オーバーだっただろう。ましてやコーチがタラソワに決まったと発表されたのは6月の終わりだった。世界選手権の前からコーチ不在だったのだから、時間は当然足りなかった。

 試合を見終わった友人からメールが来たので「真央ちゃんもタラソワもこれでスイッチが入ったと思う」と送ったら「ポジティブだー」と返ってきた。でも本当にそう思う。表彰台に立てなかった理由ははっきりしているので、もう同じことを繰り返すことはない。ひょっとしたらコーチが替わることになる可能性もあるが、それも含めて本番は来年なのだし。

 キム・ヨナ選手は、表彰台のいちばん上に立つためにこつこつとやってきたことが、ようやくこの大会で実った。ショートは文句のつけようのない出来だったし、フリーもトリプルループをイナバウアーからの高く流れのあるダブルアクセルに替えて加点をもらった。基礎点3.5に1.8が加わって5.3。トリプルループの基礎点5.0を上回った。

 テレビで観ていても、スケートが滑っていて本人も心から演技しているのがわかった。優勝がかかっている状況のフリーで、ようやく自分らしい演技ができた。得点、特に表現の点数が高すぎるという声もあるようだが、ジャッジが迷いなく得点が出せる演技をしていたと思う。
 9点台を出すジャッジが複数いたということは、ルールで決められている技術要素をこなした上で、このぐらいまでやれば出る可能性があるということだ。芸術分野の点数は、過去の試合のどれと比べて高い低いと言えるものではない。

 フィギュアスケートは昔からそういう競技だ。この採点が高すぎるということになれば、今後の試合で修正されていくだろう。
 大事なのは、その日の1回の演技で、どれだけ人の心を掴んだか、というところ。今回は、キム選手も安藤選手も多くの人の心を掴んだが、浅田選手は残念ながらいつもよりも掴めなかっただけだ。それは浅田選手のファンもわかるんじゃないだろうか。それに、この評価が一生続くわけじゃない。

 キム・ヨナ選手は、現在のルールにおいての女子の演技としては、バランスのとれたかなりレベルの高い内容をこなしている。優勝が決まったあと、地元テレビ局のインタビューに頑張って英語で答えているのを見て、本当に努力しているんだなと感心した。

 キム・ヨナ選手が頑張ってやっている、妖艶な表情やメイクといった部分を、これまでの浅田選手のコーチは一切させていない。もちろん浅田選手の個性に合わないということもあるだろうが、彼女自身からどんな表現が出てくるのか待っているのだと思う。
 どちらがいい悪いの話ではない。それが個性というものだから。

 来年の五輪は、浅田選手にとってもキム・ヨナ選手にとっても、最後の五輪ではない。キム・ヨナ選手はほぼ完成に近付いている。浅田選手は、いったいどんな選手になるのだろうか。
2009年04月02日(木)

織田選手のこと

テーマ:フィギュアスケート
 フィギュアスケートのルールは毎年ちょっとずつ変わっていて、コーチも選手も対応するのは大変だと思う。

 とはいえ。今回の織田選手のコンビネーションジャンプの飛び過ぎはとても残念だった。1年のブランクがあったこと、4回転のコンビネーションを降りたこと、その他もろもろを含めても、もうこういうミスをやってはいけないレベルの選手だと思う。

 シニア男子フリーでは8回ジャンプが跳べる。そしてそのうち3回はコンビネーションまたはシークエンスにすることができる。
 そのこととは別に、トリプルジャンプの種類と回数には制限がある。同じ種類のトリプルは2度までしか跳ぶことができず、しかもうち1回はコンビネーションかシークエンスにしなければならない。もし2度とも単発になった場合は、ジャンプの点数はもらえるが2度目のジャンプがコンビネーション扱いになる。前述の「3つのコンビネーション」のうちのひとつと数えられるのだ。

 織田選手は今シーズン初めて、最初の4トゥループ+3トゥループを降りた。すべてのジャッジからプラスの評価を得て、基礎点13.80に1.40が足されて15.20。これは、今大会の男子フリーで、ひとつの要素に与えられた点数としては最高のものだ。
 素晴らしいジャンプだったし、それが世界選手権で決められたというのはとても大きなことだ。しかし次のトリプルアクセルは、コンビネーションの予定が、オーバーターンして単発になってしまった。

 コンビネーションがひとつ抜けたと思ったからだろう。織田選手は、次に予定していたトリプルサルコウに、トリプルトゥループを急遽くっつけてしまった。
 J Sportsで生放送を見ていたので、この3サルコウ+3トゥループをやったときに「あーあ」と思った。以前にも、前半のサルコウにうっかりトゥループをくっつける失敗をしているからだ。
 
 もしトリプルアクセルが明らかに回転不足(きれいな2回転半になってしまったとか)であれば問題は無かったが、この時点では3回転半を認定されるかどうかはわからなかった。演技の後半にもう一度トリプルアクセルを予定していたから、この時点で織田選手がで考えるべきことは、二度目のトリプルアクセルをコンビネーションにすることだったはずだ。なのに、トリプルサルコウという易しいジャンプでコンビネーションの無駄遣いをしてしまった。
 2度目のトリプルアクセルは素晴らしい出来だったが、コンビネーションをつける様子はまったく見られなかった。すべてのジャッジがプラスをつけたあのランディングなら、織田選手であればダブルは付けられただろうし、トリプルも跳べたかもしれない。とにかく、サルコウをコンビネーションにしている場合ではなかったのだ。

 そしてその後、予定していた3フリップ+2トゥループ+2ループを跳んでしまった。これでコンビネーションは4つめになるので、この要素はカウントされず0点になってしまう。8回跳べるジャンプのうちの1回が無効になってしまった。

 私は「たら、れば」が嫌いなのでめったにやらないのだが、試しに計算してみた。ジャンプひとつひとつの得点は、そのジャンプについてあらかじめ決まっている点数(基礎点)に、ジャッジの評価(GOE)を加味して決まるが、ややこしいので基礎点だけで比べてみることにする。
 織田選手の今回のフリーのうち、ジャンプの要素の基礎点を足すと53.67になる。これを、3つめのジャンプは単発の3サルコウを跳び、後半の3アクセルは2トゥループとのコンビネーションを跳んだとして計算してみた。この場合はもちろん、後半の3フリップ+2トゥループ+2ループが認められることになる。

 計算が間違っていたら申し訳ないのだが、基礎点は62.94になった。実に10点近く損をしていることになる。そしてこの点数には出来栄えは加算していないから、実際に損をした点数は10点以上になるだろう。

 織田選手の合計得点に10点を足すと5位になる。順位としては2つ上がるだけだ。でも、7位と5位は全然違う。

 ……ということを、今大会織田選手は心底思い知ったはずだ。もう二度とこんな失敗はしたくないはずだし、コーチもさせないだろう。オリンピックイヤーでなくて良かったし、とにかく、ギリギリで3枠が取れて良かったと思う。もし織田選手が8位だったら2枠になっていたのだから。

 ところで織田選手に続いて8位になったカザフスタンのデニス・テン選手のフリーはすごかった。地上波では放送されなかったのだが、まだ15歳で顔もあどけないのに、いきなり3アクセル+3トゥループをきれいに降りたと思ったら(このジャンプの評価はジュベールより高かった)二度目のトリプルアクセルをはじめすべてのジャンプを降りただけではなく、ドーナツスピンやビールマンスピンまでやって観客を魅了した。どこの誰かもわからない選手なのに客席は総立ちとなり、本人は感極まって氷にキスをして、ありがとうとでもいうようにトンと氷を叩いた。
 ショートは放送されなかったから見ていないが17位。しかしフリーはなんと6位で総合8位となった。いかにフリーが大事かというのがよくわかる。

 いろんな意味でJ Sportsと契約して良かったな。演技に没頭できてストレスが無い。何か言うとすれば、樋口先生の話が聞きたいからもうちょっとはっきり喋って欲しいというぐらいなのだけれど、きっとスタジオでヘッドホンをしながら喋っているのだろうから難しいんだろうな。だから別にいいです。
2009年01月23日(金)

鈴木明子選手のこと

テーマ:フィギュアスケート
 ずっと書いていなかったので、もう読んでいる人もいないんじゃないかと思うが久々の更新。

 鈴木明子選手のことを書いておこうと思った。それは鈴木選手のサイトの掲示板を読んだからだ。

 全日本選手権の鈴木選手のフリーは本当に素晴らしかった。私は2階の記者席にいて、記事を書くつもりで(こちらに書いた)観ていたのでスタンディングオベーションはしなかったのだけれど、普通に観客席で観ていたら立ち上がって拍手をしたと思う。実際、たくさんの人が歓声をあげながら立って拍手をしていた。
 尋常ではない空気を漂わせながら始まった直前の6分間練習で、村主選手と安藤選手がぶつかるというアクシデントが起こってしまい、場内は異様な緊張感に包まれていた。そんな中、結果的にジャンプのダウングレードはあったが、ノーミスの演技をした。この日一番の演技をしたのは、私は浅田選手でも村主選手でもなく、鈴木選手だと思っている。

 演技後、フジテレビ→その他のテレビ局用→新聞や雑誌、という順にインタビューがある。最後の活字媒体向けのところは囲み取材といって、大勢の記者やライターが選手を囲んで取材をするのだが、それが終わったあと、取材を兼ねて観戦に来ていた中京テレビの本田アナが鈴木選手に「惜しかったねぇ」と話しかけていた。これは取材というよりは、以前にも取材をして知っているので個人的に話をしたということなのだが、私も以前「フィギュアスケートDays」で中庭選手との対談を取材したことがあるので、なんとなくその会話に加わった。
 鈴木選手はフリーの演技には心から満足していたが、本当に僅差の4位で世界選手権の代表にはならず、その時点で四大陸に出られるかどうかもわからなかったので、ちょっと悔しそうだった。そりゃそうだろう。3位の安藤選手との差は本当にわずかで、ショートで何かひとつ要素をミスなくやっていたら逆転していただろうから。

 私はこう言った。

「でもね、今日のフリーは本当に良かったから、あれで(世界選手権に)行けないんだったらしょうがない、って思ったよ」

 嘘ではない。演技が終わったあと、私は隣にいたライターの青嶋さんに同じことを言った。それほど素晴らしい演技だったということだ。
 それを聞いた鈴木選手はニッコリと笑い「そうですよね! よし、きょうはおいしいものを食べよう!」と言って控え室に戻っていった。

 鈴木選手の強いところはこういうことだと思う。もちろん世界選手権には行きたいし五輪にも行きたい。でも、いちばん大事なのは、自分がやりたいスケートができるかどうかなのだ。そして、いま「自分がやりたいスケート」がこんなに魅力的な選手はいない。

 試合後、他の取材スタッフと食事をしてホテルに戻る途中、たまたま打ち上げをやっていた店から出てきた鈴木選手にばったり会った。そのときには四大陸の代表になったことがわかっていたから「四大陸良かったね」と言った。

 四大陸選手権はカナダのバンクーバーで開かれる。そう、バンクーバー五輪と同じ会場だ。世界選手権には出られなかったが、来年五輪が行われる会場でスケートを見てもらえる。

 話が長くなったが、四大陸の代表になって本当に良かったと思っている。全日本選手権のエキジビションであるメダリスト・オン・アイスでの「リベルタンゴ」もまた素晴らしかったが、その演技が始まる前、まだ場内が暗いときから、次が鈴木明子だと知った観客が、明かりがついていない場内に大きな声援を送ったのだ。NHK杯と全日本で素晴らしい演技をしたことで、新しいファンが増えたんだなーと思った。
 そしてきょう、鈴木選手のサイトの掲示板を見たら、性別も年代も問わず、私が思ったよりもずっとずっと多くの人が彼女の演技に惹かれ、わざわざ掲示板にメッセージを残していた。しかも多くの人が鈴木選手のことを知らずにテレビで観て、人によっては涙を流し、わざわざサイトを探してメッセージを書いていた。

 たくさんの人の心を、自分のスケートで掴んだのだ。

 鈴木選手は、きっとバンクーバーの観客の心も掴むと思う。日本に鈴木明子という選手がいることを知らしめると思う。いま、その舞台がどこであっても、滑ることに心から感謝して演技ができる世界レベルのスケーターなんて、鈴木選手しかいないのだから。
2008年11月04日(火)

スケートシーズン開幕

テーマ:フィギュアスケート
 スケートシーズンが始まったが、なんだかあんまり盛り上がっていない。何かと忙しいせいもあると思うが。

 引っ越して地デジが見られるようになったので、ブルーレイのHDDレコーダーを買った。キーワードを入れておくと勝手に番組表を検索して録画してくれるというかしこいレコーダーなので、もういちいち面倒な録画予約をしなくてもよくなった。この安心感も、気持ちが盛り上がらない要因かもしれない。

 とはいえ、スケートアメリカの小塚選手の優勝は嬉しかったし、中野選手のフリーにはテレビに向かって拍手をおくったし、村主選手が久しぶりに表彰台に乗ったことも良かったと思う。ちょっと心配なのは安藤選手の頬がこけていて表情に元気が無いことだが、動きは軽いので大丈夫だろうか。

 小塚選手のショートの曲「take5」は、その名のとおり変則的な5拍子の曲だ。とりたててテンポが速いわけでもない5拍子のこの曲で、音に合わせて滑ろうと思うと、ひと蹴りがどうしても長くなる。スケート靴を倒して深いエッジで滑らなければ音に合わないのだ。これが見事にできていたので驚いた。
 今シーズンから、男子も女子もフリーで要求されるスピンの数が4つから3つに減った。その分ステップに時間を費やす選手が増えた。だからといって間延びしている印象は無いので、昨シーズンまでのルールが選手にとってどれだけ大変だったかということだ。

 小塚選手がインタビューで、今シーズンはステップを頑張ってきたという話をしていて、番組ではそれが「サーキュラステップ」であると紹介されていたが、サーキュラというのはステップそのものの種類ではない。ステップシークエンスの際、氷上に大きな円を描くようにステップを組んだものがサーキュラ、1本の線であればストレートライン、アルファベットのSの字を描くように組んだらサーペンタインとなる。それぞれの形の中でどれだけ複雑なステップを組み合わせ、正確に伸びやかにこなすか、というところが評価の対象になる。

 実況で「レベル4という高い評価を得た」という言い方が何度も出てくるのだが、レベルは判定されるものであって評価ではない。スピンやステップの中に、要求されている要素をいくつ組み込むかでレベルが判定されるが、ジャッジはそれとは別にスピンやステップの質をみてプラス3からマイナス3までの範囲で評価をする。
 高いレベルをもらうためには高い技術が要求されるので、評価も高くなることが多いが、必ずしも一致するとは限らない。スケートアメリカでの安藤選手のショートのステップシークエンスはレベル3と判定されたが、途中転倒してしまったのでジャッジの評価は-2から-3(この数字は評価の段階をあらわすもので、実際に引かれる点数はまた別)と低くなった。ストレートラインステップレベル3の基礎点は3.3だが、ジャッジの評価によって1.82点のマイナスとなり、1.48点しか得られなかった。入れているステップの内容はレベル3のものだったのでレベルは下がらない。

 とここまで書いてきてふとネットのニュースを見たら、カップ・オブ・チャイナをひざの負傷で欠場すると発表された高橋大輔選手は右ひざ靭帯断裂の疑いで最悪の場合は今シーズン絶望とのニュース。今シーズンからトリプルアクセルと4回転の基礎点が高くなったので、当然4回転の練習に力を入れていたと思うが、その影響もあったのだろうか。重大なケガではないことを願うばかり。
2008年02月05日(火)

原稿書きました

テーマ:フィギュアスケート
080205
フィギュアスケートDays vol.5 DAI-X出版

 前号ではアナウンサーとして原稿を依頼され、フィギュアスケート中継について思うところを書いた。結構な反響があったようでありがたい。中には「今泉は局アナじゃないからあんなことが書ける」というようなものもあったそうだが、そんなの当たり前じゃないかと思う。もし私が局アナだったら、あんな原稿書けるわけが無い。

 同業者の仕事について何かを書くからにはそれなりの覚悟が要る。覚悟をしてまでも書いたのは、フィギュアスケートという競技に対する愛情があるからだ。愛情などという言葉は安易に使いたくはないが、他に言いようがない。原稿料のために書いたんじゃなくて、スケートが好きだから書いた。
 そういう私の覚悟なんかには普通想像がおよばないだろうし、いちいち私の立場になって読んでもらわなくてもいいんだけど。

 今号では初めて、純粋にライターとして取材して記事を書いた。「何かやってみたいことはありますか」と聞かれたので「中庭選手と鈴木選手の対談をやってみたい」とお願いして、それが実現した。
 西日本選手権を見に行ったとき、中庭選手と鈴木選手が壁に貼られている試合結果を見ながら雑談しているのを見かけたのだが、会話をしている2人の空気がとても良くて、思わずその場でご挨拶をして名刺を渡してしまった。空気といっても「あの2人付き合ってるんじゃないの?」みたいなことではなくて、2人の会話に漂う空気が温かかったのだ。そのとき、この2人の対談をやってみたいなぁ、と直感的に思ってしまった。だから実現して嬉しかった。

 そして対談は、私が思っていた以上に面白かった。読んでもらえばわかると思うが、2人ともとても真面目で素直で、そして本当にスケートが好きだ。若い選手からは絶対に聞けないようなことが聞けて、読みごたえのあるものになったと思う。

 録音した会話を起こして原稿にするというのは、以前「ほぼ日」で原稿を書いたときにやったことがあるのだが、自分で一から文章を書くよりも難しいなぁと改めて思った。会話というものは往々にして、主語が省略されていたり話が飛んだりするので、それを会話の空気を殺さないようにしつつ整理していくのは、とても手間がかかることだ。今回はスケート観戦仲間のみずえさんが、ライターの経験があるのでテープ起こしを引き受けてくれてずいぶん助かったのだが、それでも正月は原稿書きでつぶれた。テープ起こしまで自分でやっていたらどうなっていたことか。

 スケートが好きな人の中には、選手に直接会って取材ができることをうらやましいと思う人もたくさんいるだろうし、知識が豊富でブログを書くのも好きだから今すぐにでもライターぐらいはできると思っている人もいるだろう。でも、いくつかの取材を経験してみて、ライターって好きだからできるというものでもないと思った。ライターの皆さんは本当に手弁当で頑張っていて、しかも立場が弱い。
 ある大きな出版社の編集者が、海外取材のための交通費を、あとになって「ライターの方は交通費は自腹じゃないんですか」と言って払わなかった話を聞いた。もともと少ないギャラから、海外取材の交通費まで出していたら完全に赤字だ。事前にわかっていたら誰がそんな仕事を引き受けるものかと思うが、こういうことが本当にあるのだそうだ。信じられない。我が身にそんなことが起こったら許さない。そういう弱い物いじめのようなことは大嫌いだ。

 話がずれた。中庭鈴木対談は、我ながら読んで面白いと思ったのでぜひ読んでいただきたい。ちなみにこの対談は全日本選手権の直前に中京大学で行ったのだが、私にとっては初めてちゃんと取材をしたスケート選手なので、どうしても思い入れが深くなってしまう。
 全日本選手権も取材したが、中庭選手が世界選手権の切符をほんの僅差で逃したことも、鈴木選手が今までなら文句無く出られたはずの四大陸選手権の代表に選ばれなかったことも、なんともいえず残念で悲しかった。仕方が無いことだけれど。

 でも、2人とも来シーズンもスケートを続けてくれるだろう。今年の経験を経て、2人のスケートがどう変わるのか、今はそれが楽しみ。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 |最初 次ページ >>