「経済学っぽく行こう!」

経済学っぽく行こう!

2010年2月18日(木)

06 デフレの正体は「思い出より、おカネ」と思う心にあり

経済学っぽくいこう! 2−−『日本経済復活』その1

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「これからはもう経済成長はないんだ」
「そうしたなかで、いかにパイを仲良く分け合っていくかなんだ」
「・・・ちょっと待って。そういう社会で得をするのは、既得権益を持っている人たちであって、いまはお金がない若者にこそ、経済成長が必要なんだよ」
(「経済学っぽくいこう!」03 経済成長論ってなんで悪役になりがちなんだろう」より)

日本経済復活 一番かんたんな方法 』(光文社新書 勝間和代、宮崎哲弥、飯田泰之著、シノドス企画・編集)

 お久しぶりです。帰ってきた「経済学っぽくいこう!」。今回は『日本経済復活 一番かんたんな方法 』を上梓された飯田泰之さん(勝間和代氏、宮崎哲弥氏と共著)、この本の企画編集をされた荻上チキさんにお話をうかがいます。

 語られている内容は、金融緩和やインフレターゲットの導入などの、いわゆる「リフレーション(リフレ)」による、「脱デフレ」政策。これが日本経済を上昇気流に乗せるための「一番かんたんな方法」だ、という、なかなかに新書らしい、挑発的な内容です。

 発売前に読ませて頂き、気になった点、分からない点を前回までと同様、ものしらずの無遠慮さ丸出しでお二人に尋ねさせてもらいました。題するならば、ど素人のための『日本経済復活』補完計画。みなさんの疑問を先取りできれば幸いです。リフレ論についてはヘビーな質問もたくさんあるかと思いますが、まずは、マインドセットのお話からゆるりと参ります。(聞き手:日経ビジネスオンライン編集 Y)

話者プロフィール

飯田泰之(いいだ やすゆき)
駒澤大学准教授。1975年東京生まれ。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。現在、内閣府経済社会総合研究所、財務省財務総合研究所客員研究員を兼務。専門はマクロ経済学・経済政策。主な著作は『経済学思考の技術 ― 論理・経済理論・データを使って考える』(ダイヤモンド社)など。近著は『脱貧困の経済学−日本はまだ変えられる』(雨宮処凛氏と共著、自由国民社)

荻上 チキ(おぎうえ ちき)
1981年兵庫県生まれ。評論家、編集者。専門はテクスト論、メディア論。著書に『ウェブ炎上』(ちくま新書)、『12歳からのインターネット』(ミシマ社)、『ネットいじめ』(PHP新書)、『社会的な身体』(講談社現代新書)。共著、編著多数。社会学者・芹沢一也と共に、株式会社シノドスを設立。メールマガジン「αシノドス」編集長。

―― 『経済成長って何で必要なんだろう?』『日本経済復活 一番かんたんな方法 』の筆者陣に言うのもなんですが、「もう経済成長はしない前提で考えよう」「消費は悪だ」「クルマ買うなんてバカじゃないの?」という声は、この日経ビジネスオンラインを含めて最近本当によく耳にしますよね。

飯田 デフレは資本主義に淫した我々に与えられた罰であり、悔い改めて生きるべきだ、みたいなお話ですね。

荻上 『日本経済復活』でも宮崎哲弥さんが、日本のメディア世間では「なんとなく反成長」的なパラダイムが受け入れられやすいと嘆いていますからね。

デフレこそ「モノより、思い出より、お金」

―― この物言いは、ちょっと聞くと、不景気な状況、すなわちデフレ下では「モノより想い出」「カネより精神」で生きるべき、みたいに聞こえませんか。でも、この本では「いや、まるで逆。デフレは人々が『モノより、想い出より、お金』と思っているんだよ」と指摘しています。ここが個人的にはいちばん印象に残りました。

 デフレというのはモノに比べてカネの価値が高いことです。モノよりカネだから貨幣ではかったモノの値段が下がるわけです。ですから、デフレの正体って、物やサービス、あるいは将来への投資よりも、いまここにあるお金の方が大事だよねというコトに他ならない。だから、お金の価値が下がるような施策を採れば、消費や投資は動きだす。

――というお話が私には一番面白くて、かつ、一番納得しづらいところだろうなと思うんですね。逆にこれを受け入れられたら、なるほど、ならばこの本が主張するようなリフレ的な政策はありだな、となっていくと思うんです。

飯田 たしかに、そこが「経済学っぽい」考え方を理解していただくうえで肝になるところです。まずは普段の消費・貯蓄の意志決定から説明していきましょう。Yさん、ご自分の現時点で処分可能な財、資産、財産にはどんな種類があるか、答えて頂けますか。リスク順に行きましょう。

Y ええと、「現預金」、そして私は持っていませんが、「国債」「社債」、それに「株式」「投資商品」ってところでしょうか。

飯田 そのとおりです。あと、これに外貨、不動産もいれるといいですね。さらに「消費」「税金」「減耗」を加えると、「財の持ち方」がすべて揃います。自分が持つお金プラス稼いだお金は、このどこかに割り振れる。というか、他の持ち方はできない。

Y 「減耗」ってなんですか。

飯田 耐久財……個人で言うと自動車や家電・建物が古くなって価値が下がることですね。あとは道に落とすとか、泥棒に取られるとか、洗濯物にまざってちぎれてなくなるとかも減耗です。

 おさらいすると、人は「現預金」「その他資産」「消費」「税金」「減耗」にしか、手持ちのカネを振り分けることは出来ない。そして現在は資産、そのなかでも現金に人気が集まっている。現金との交換が容易な預金、金額面でのリスクがない国債・優良企業社債に人気が集まるのも元を正せばこの「現金に対する人気」から派生する事態です。

 現金というのは、どんなにみんなが頑張って保有しても、それによって何か新しいビジネスが生まれたりしないんです。つまり、現預金から消費や実物投資にお金が回るようにしないと経済は動かないんですね。

――何か将来の生産に結びつくような資産をみんなが欲しがるようにならないと、なかなか社会が回るようにはならないということですね

おカネが回らなくていいこと、何かある?

飯田 そうです。お金が回らないとろくなことにならないという話の壮大な例が17世紀から18世紀にかけてのイギリスの興隆とフランスの凋落でしょう。フランスは産業革命を起こせなかったのに、なぜイギリスは起こせたのか。フランス人は富が上層に集中していたために、お金をベルサイユ宮殿や金の冠を作るほうに回った。でも、宮殿とか冠があっても、ちっとも国は豊かにならないんですよね。文化的な話はさておいて。

―― なるほど、お金が形を変えただけですもんね。

荻上 日本でも、各地方に一億円配って、色々なオブジェを建てたことがありましたね。あれも、携わった大工さんや職人さんには仕事になったでしょうけれど、ビジネスとして育っていったわけじゃないし。財政出動をすれば、その分GDPが上がるのは当然ですが、波及効果と持続可能性の面でいえば、「経済効果」だってあんまりでした。

飯田 それに対してイギリスには中流階級──中流階級というのは日本の中流階級とはまったく違う意味で、要するにブルジョア=市民階級ですよね。ブルジョア育成されていたので資金が何に向かったかというと、工場を建てるという、まあ、投資信託に近いような実物投資に結び付いた。

 実物投資に結び付くと雇用は生まれるし、ラーニング・バイ・ドゥーイングというんですけれども、実際にオン・ザ・ジョブ・トレーニングみたいな形でスキルも積まれていき、国全体が発展していく。

 で、日本で今まさに何が起きているかというと、国民全員が頑張って、それだけでは何も生まない「お金」そのものを保有しようとやっきになっているんですよね。では、なぜ何も生まないものを保有しているかというと、まさにリスクが怖いからだ、という話になるわけです。

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著者プロフィール

山中 浩之(やまなか・ひろゆき)

日経ビジネス、日経クリック、日経パソコン編集などを経て、2006年2月から日経ビジネスオンライン副編集長

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