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新年度予算案が衆院を通過し、年度内の成立が確実になった。鳩山政権と民主党が次にやるべきことは、はっきりしている。度重なる「政治とカネ」の問題に、けりをつける。党内の古い体質や暗部をえぐり出し、早くきっぱりと手を切る。これに尽きる。
民主党の小林千代美衆院議員の陣営が、北海道教職員組合から違法な選挙資金を受け取ったとされる事件で、北教組の幹部ら4人が逮捕された。
民主党と労組の関係は切っても切れない。小林氏に限らず、労組に資金や票を依存する議員、候補者は数多い。選挙を取り仕切る小沢一郎幹事長は、連合との関係を最重視してきた。
その意味で、今回の北教組の事件によって白日のもとにさらされたのは、民主党が構造的に抱えこんでいるかもしれない闇の部分である。
鳩山由紀夫首相や小沢氏の問題と比べ登場人物は小粒でも、事柄の深刻さはまさるとも劣らないといっていい。
せっかく政権交代を起こしたのに、55年体制と同じように次から次へとカネがらみのスキャンダルが発生する。新しい政治文化を期待した民主党も、しょせんは古い体質の金権政党なのではないか。そうした幻滅が有権者の間に広がりつつある。内閣支持率の続落が何より雄弁に物語っている。
それにしては、鳩山首相や民主党から伝わってくる危機感はあまりに薄い。重ねて猛省を促したい。
民主党に巣くう古い体質は、新年度予算案の衆院通過に至る前半国会の運営ぶりからも見て取れる。
野党側は小沢氏の国会招致や、元秘書で逮捕・起訴された石川知裕衆院議員の辞職勧告決議案採決などを要求し、自民党は審議拒否に踏み切った。民主党は「ゼロ回答」を押し通した。
予算案の審議を急ぎたい気持ちはわかるが、それは要求を拒む理由にはならない。予算審議とは切り分け、国会招致や採決に応じればいい。
与党の強硬姿勢と、野党の「日程闘争」戦術。およそ自民党一党支配時代と変わらない旧態依然の国会風景を、双方手を携えて再現してくれた。
有権者の失望や怒りが単に鳩山首相や民主党に向かうだけならまだしも、それは政権交代時代の新しい国会論戦、ひいては政党政治そのものに対する無力感やシニシズムに再び結びついてしまいかねない。
日本の民主主義にとって極めて不幸であり、危険な展開である。
首相はきのう、小沢氏に企業・団体献金禁止の論議を急ぐよう求め、党役員会は与野党の協議機関づくりを進めることを決めた。それでも有権者の民主党不信をぬぐうには遠いだろう。
暗部を摘出し、体質を作りかえる。従わない幹部は、更迭してでも前に進む。その覚悟を首相に求めたい。
とても素直に喜べない。新年度予算の成立にめどはついたが、財政の先行きがますます不安だ。
一般会計総額92兆円は、当初予算で過去最大。新規国債発行額は税収を上回り44兆円にのぼる。借金中毒のような財政の姿がここにある。
こうまでひどくなった最大の理由は世界同時不況による税収の激減と、危機克服のための対策だ。新政権の公約実現への施策も無視できない。
子ども手当の半額支給や高速道路の一部無料化などが盛られ、歳出額が膨れあがった。政権公約の実現には恒久的な財源が必要だ。それをあえて直視しないで国債増発に頼っているとしか見えない。
「政治がいつまでも増税の検討を先送りし続ければ、いずれ国債が暴落しかねない」。市場関係者の間で、そんな話さえ出ている。米国の有力格付け会社が日本国債の格付け引き下げの可能性を示唆している。ギリシャの財政危機は対岸の火事ではない。
企業の資金需要が乏しく、銀行などの余剰資金が国債に向かっている今は、国債の市中消化は困難ではない。だが、これからは先行きへの懸念が市場に強まるだろう。
鳩山由紀夫首相には、そうした危機感が乏しすぎるのではないか。「子ども手当の満額支給」などの旗はいまだ降ろしていないが、このままでは2011年度予算はさらに国債を増発することが必要になる。政権公約の工程表を大幅に見直すなどして歳出の膨張に歯止めをかけねばならない。
米オバマ政権は、新しい施策で財源が必要になったら、それに見合う歳出削減や増税を義務づける法律を先月成立させた。鳩山政権も同様の原則をつくるべきではないだろうか。
事業仕分けなどを通じて歳出のムダを削ることは確かに大事だ。しかし3兆円の削減をめざした昨年の事業仕分けで削減できたのは7千億円程度だった。40兆〜50兆円規模で足りない財政をムダ削減だけで再建しようというのは、どだい無理な話だ。
とくに、社会保障のほころびを直し、充実させていくには税負担を引き上げることが避けられない。大事なのは、この現実を認めることだ。
菅直人副総理兼財務相は先月、消費税を含む税制改正の議論に入る方針を示した。鳩山政権は6月にも「中期財政フレーム」や「財政運営戦略」をまとめる。そこで財政再建の意思をしっかり打ち出すべきだ。
デフレを脱却したら消費増税を柱とする税制改革に踏み切れるよう、今から準備を進めることが肝心だ。
政治が財政の持続性への決意と展望を示す。それが国民と市場の不安を和らげ、消費や投資の背中を押す。菅氏を中心に議論を急いでもらいたい。