大淀町立大淀病院で06年8月、分娩(ぶんべん)中に意識不明となり、転送先で死亡した五條市の高崎実香さん(当時32歳)の問題を巡る訴訟。大阪地裁(大島真一裁判長)は1日、遺族の請求を棄却したが、付言で産科の救急医療体制の充実を求めた。高崎さんの問題は、産科救急医療の実態を浮き彫りにした。県は、重症患者を断らない体制づくりを急いでいる。【阿部亮介、高瀬浩平】
大阪地裁は付言で「重症患者の受け入れ医療機関が決まらずに放置するのではなく、とにかくどこかの医療機関が引き受けるような体制作りがぜひ必要だ」と指摘。「もっと早く搬送されていれば命が救えたのではないか」という遺族の思いを踏まえ、行政に注文を付けた。
県内では07年8月にも、橿原市の妊婦が9医療機関に受け入れを断られ、更に搬送中に事故に遭い死産する問題が発生。県は、周産期医療や救急搬送体制の整備に乗り出した。
08年5月、県立医大付属病院(橿原市)にリスクの高い妊婦に対応する「総合周産期母子医療センター」を整備。母胎・胎児集中治療管理室(MFICU)や新生児集中治療室(NICU)を完備した。看護師不足で一部は稼働していないが、リスクの高い妊婦の県外搬送率は、06年の20・3%から09年は13・8%に減った。
さらに昨年10月、県地域医療再生計画で、県立奈良病院(奈良市)と県立医大付属病院を高度医療拠点病院に指定。重症患者を断らない救命救急室を整備する方針を打ち出した。救急医療に関する相談を24時間電話で受け付ける「県救急安心センター」も運用を始め、救急システムの効率化を目指している。
武末文男・県健康安全局長は「病院だけでは対応できないことも多く、病院間の連携をどう調整するか検討している。患者が納得して医療を受けられるために、具体的な対策を考えたい」と話した。
毎日新聞 2010年3月2日 地方版