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社説

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警報と避難―来なかった大津波に学ぶ

 地球の反対側で大地震が発生して40時間余りたった昨日朝、日本での津波警戒がようやく解かれた。

 気象庁は東北沿岸で最大3メートルの津波が来ると予測し、大津波警報を出した。最大の観測値が1.2メートルだったことについて、同庁の担当官は「予測が過大だった。警報が長引き迷惑をかけた」と、おわびを表明した。

 今回の津波は、現地の様子が分からない遠い国で起き、大洋を伝わってきた。正確な予測はもとより難しい。17年ぶりの大津波警報を出すかどうか、気象庁の判断は揺れたが、結局「最悪の事態を想定する」考えをとった。

 現在の津波警報システムが導入されたのは1999年。これまで1メートル以上の警報は8回出されているが、03年9月の十勝沖地震以外は予測を下回り続け、国会で問題にされたこともある。

 気象庁は、地震の大きさや震源の深さを正確にとらえる技術を磨き、予測の精度向上にさらに努めてほしい。だが、被害を防ぐために大きめの警報を出す判断は間違っていなかったし、十分に理解できる。

 心配なのは人々が警報を過小評価してしまうことだ。そのために今回、住民が情報をどう受け止め行動したか、政府や自治体による検証が必要だ。

 おとといは150万人近い人々に避難指示・勧告が出された。だが大津波警報が出た東北3県でも、避難所などに移った人は数%にとどまった。

 自発的に高台やビルの上層階に避難した人もいるだろう。休日の昼間で、家族と一緒にいる安心感や、津波が来るまでに時間的に余裕があったことから、自宅で情報を見守るだけに終わった家庭も多かったに違いない。

 各地からの報告では、第1波の後に警戒心を解いて、一度避難所に行った住民が自宅に帰ったり、沖合に出た船が戻って来たりしたという。第2波、第3波の方が大きくなり得るという呼びかけは伝わっていなかったのか。

 お年寄りや体の不自由な人はどうだっただろう。近隣の住民で所在を確かめ合い、優先して安全な場所に連れて行けたか。自治体は指示や勧告を出すだけに終わっていなかったか。点検すべき課題は多い。

 日本列島の沖を震源として予想される東海・東南海・南海地震では、津波被害だけでそれぞれ千〜数千人規模の犠牲者が出ると想定されている。この場合は震源との距離が近く、数分から数十分で津波が押し寄せてくる。寝静まったころに起きるかもしれない。

 いざという時は警報を待たず、一刻も早く海岸や河口近くから逃げることが命を守る基本である。

 今回、日本で人命被害がなかったことで、幸運だったと片付けてはならない。「来なかった大津波」から学べることはたくさんある。

百貨店の再生―心つかむ売り方で活路を

 慣れ親しんだ百貨店が消えるのは、寂しい。

 東京・銀座の玄関として一世を風靡(ふうび)した、有楽町マリオンの西武有楽町店が今年末に閉店する。今年は丸井今井室蘭店、松坂屋岡崎店がすでに閉じ、四条河原町阪急なども閉める予定だ。

 昨年は三越池袋店や、そごう心斎橋本店が姿を消していった。長引く不況のなかで百貨店の閉店ラッシュがいよいよ本格化してきた。

 バブル崩壊後の1990年代半ばから続く百貨店業界の不振に、世界同時不況が追い打ちをかけている。この10年で140社から86社に、店舗数は310店から270店に減った。業界全体の売上高は9兆円から6兆6千億円に3割近くも縮小している。

 人員減らしも急ピッチで、老舗(しにせ)の三越でも社員の4分の1にあたる約1600人が早期退職に応じた。

 デフレ下で新興勢力にますます押されている。低価格を武器にする衣料品専門店や巨大な家電量販店、インターネット販売の台頭で、消費者の購買スタイルの変化も激しい。

 そんななか、百貨店業界は時代の変化をとらえきれないでいるようにさえ見える。

 値段はちょっと高いが商品への満足感も、それなりに高い。ブランド重視、美術展なども織り込んだ手厚い顧客サービス。そうした百貨店の路線は90年代初めまで、全国各地で消費者から支持されていた。

 だが、老舗の看板、歳暮などの贈答文化に安住し、新たな未来図を描けないできたところが少なくない。

 150年前、パリで創業した世界初の百貨店ボン・マルシェは豊富な品ぞろえ、商品値札、派手なショーウインドー、季節セールなど新しい売り方に挑み、客の心をつかんだ。

 その原点に学んではどうだろう。高級ファッション中心の商法にこだわらず、もっと新しい商品構成や売り方に挑戦しながら百貨店の強みを生かす道は必ずあるはずだ。

 ユニクロが保温性肌着をヒットさせたように需要を掘り起こし、メーカーと共同開発する力は百貨店にもある。

 デパ地下の食品売り場や全国駅弁フェア、地方物産展などのイベントには、客があふれることも少なくない。好立地の百貨店がモノを売る力はまだまだ大きい。

 観光大国をめざす日本にとっても、ワンストップで高品質の品々をそろえる百貨店は貴重な観光資源だ。銀座や日本橋、新宿はアジアを代表するショッピング街になりうる。全国で百貨店を観光資源として活用すれば、日本経済再生の助けともなる。

 きのう合併で大丸松坂屋百貨店が誕生した。こうした再編も恐れない新時代の百貨店のありようを見たい。

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