その大津さんに、北海道大学のAAASでの展示をデザインするにあたっての基本的な考え方(コンセプト)などについて聞きました。
まず何よりも、リーフレットを手にしたときに、それを配布する研究・教育組織がイメージできるような写真を大きく使うようにしました。たとえば触媒化学研究センターのものでは、太陽の光と、植物 をメインに使うようにしました。また、できるだけ多くの人に受け入れてもらいやすい、無機質でないイメージを使うようにしました。
CoSTEPのリーフレットをデザインするときは、いろいろ考えた末に、北海道大学のキャンパス内にある重要文化財 モデルバーンを使うことにしました。モデルバーンは、130年前に札幌農学校が開校したときに作られた模範家畜房で、当時最新の技術を海外から取り入れることで、「地域の発展のために貢献しよう」という精神の象徴だと思うんですね。その意味で、モデルバーンは 私たちCoSTEPのめざす「地域に根ざした科学技術コミュニケーション」をシンボライズするものだと考えて、その写真を使いました。
北大というと、クラーク博士とかポプラ並木はよく出てくるのですが、モデルバーンは建築物としても素晴らしいものであり、私は前から、北大を象徴するものとしてぜひ使いたいと思ってたんです。文化遺産を大切に残している北海道大学、という意味でも、「北海道大学」を海外で紹介するのに最適のものだと思います。
今回、海外で展示するので、まず漢字を使いたい、という気持ちがあったんです。漢字にはいろんな意味が込められているし、デザイン的にもたいへん面白いんですね。
G8サミットで大きなテーマになるのは「環境」ですが、「環」という字だけを取り出すと、「巡る」だとか「輪」だとか、いろんな意味が込められていることがわかります。
写真は、北海道各地の風景を撮り続けている、酒井広司さんというカメラマンの方の写真を、特にお願いして使わせていただいたものです。G8サミットが開催される洞爺湖のまん中にある「中島」を撮ったものです。
紙の質感にもこだわって、UV印刷という特殊加工で表現しました。「環」と "Hokkaido University" のところだけが、ちょっと浮き上がったような感じになります。
デザインをするにあたって心がけていることは?
ただ「デザインする」というのではなくて、そこに意味を込めるようにしています。「どうして、そんなデザインにするのか」ということを考えるのです。また北海道大学の一教員としてデザインするので、やっぱり「北海道大学のためにデザインしたい」という気持ちが自然に出てきます。その気持ちも大切にしています。
そうした立場から大学に希望するのですが、パンフレットとか印刷物を作るとき、「印刷物を注文して買う」というのではなく、「デザインとか、デザイナーのアイデアを買う」という意識を大学に持ってもらいたいです。
デザインはインパクトが大きいんですよ、1秒か2秒で人を惹きつけるんですから。せっかくのいい文章が多くの人の目にとまるよう、デザインの力を活用してもらいたいです。
AAAS参加への期待は?
北海道大学の素晴らしさを知ってもらいたいのはもちろんですが、そのほかに、日本の大学でもデザインに力を入れ始めているんだよ、ということを知ってもらいたいと思います。
と同時に、アメリカの、進んだ広報戦略やデザインも学んできたいと思っています。アメリカでは、大学のAnnual Reportをデザインすることに特化した会社があるくらいで、ものすごくデザインを重視しているんです。