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日本人は忘れっぽい? 愚民思想をこじらせる産経新聞
2010年03月01日13時34分 / 提供:フリーライター宮島理のプチ論壇 since1997
産経新聞の「自民党さん、日本人は忘れっぽいことを忘れずに」という記事はいただけない。これは、政治信条や党派性に関係なく、日本のエリートが陥りやすい愚民思想の罠をよくあらわしていると思う。
「むしろ、自民党としては事件のほとぼりが冷めることを心配すべきではないだろうか。よく『日本人は忘れっぽい』と言われるが、たしかにそういう面がある。7月の参院選までには、『政治とカネ』の問題のことなんか、国民は忘れてしまうかもしれない。
自民党の審議拒否戦術は失敗に終わったが、その戦法の巧拙はおくとして、自民党は今後も粘り強くこの問題を追及し続けなければ、かえって民主党の思うつぼだろう。国民が忘れてくれれば、支持率も下がらないだろうし、鳩山首相も小沢氏も辞めずに済むのだから、民主党にとっては、この方が好都合だ」
まず、日本人は忘れっぽくなどない。むしろ、恩義も恨みもしっかりと覚えている。だからこそ、汚職にまみれた旧経世会支配時代の自民党は、何だかんだと選挙で議席第1位を守り通した。有権者は、旧経世会のバラマキ政策に恩義を感じていたからである。一方、汚職などなかった安倍政権は、旧経世会の小沢支配による民主党に負けた。有権者は、小泉・安倍改革によって既得権を奪われたことを、深く恨んでいたからだ。
恩義も恨みもしっかりと覚えているのはバラマキ支持派に限らない。改革派だって、民主党が郵政民営化をはじめとする改革に反対し、政権交代後に郵政再国営化などで改革をつぶしたことをしっかりと覚えている。改革派は、民主党を決して許さない。もっとも、自分の既得権に手が及んだ途端、改革派からバラマキ支持派に「転向」した人は、民主党を応援していくだろう。
有権者は、「政治とカネ」などというフワフワした理由で投票しない。世論調査で聞かれれば、倫理に関する問題だから一応、批判的な回答はする。しかし、選挙というのは、倫理よりも政治信条と政策選好が優先する。これは、倫理を捨てろと言っているのではない。優先順位の問題である。
日本のエリートは、有権者の多くは「愚民」だから政治信条も政策選好もない、と心の底で思っている人が多い。だから、その投票行動を「美人投票」だの「政治とカネ」だのという次元に貶める。そうかと思えば、投票行動がエリートにとって都合のよい結果になると、「民意」だの「有権者の賢明な判断」だのと言って持ち上げる。
今年の参院選で、仮に民主党が負けたとしよう。すると、産経新聞は必ず有権者を持ち上げるような記事を書くだろう。しかし、仮に民主党が勝てば、「日本人は忘れっぽい」と有権者を貶める記事を書くに違いない。
結局のところ、自分だけが賢くて、まわりはみんな愚かだと思っているエリート意識がいけないのである。冷静になればわかるが、よっぽどのガチインテリでもない限り、だいたいの人は並みレベルか並み以下だ。つまり、自分以外の有権者の大多数は、自分と同じレベルかそれ以上なのだから、自分程度の者が覚えていることをまわりが忘れているわけがない。
特に選挙において、自分とまわりの違いは、賢さや愚かさではなく、政治信条と政策選好の違いである。その事実を受け入れれば、選挙結果がどうあれ、自分は自分として信念を持ち、まわりの判断にもしっかりとした根拠があることを尊重できるはずだ。もちろん、自分の信念が常に正しいわけではないのだから、反省の契機とすることも必要となる。
ガチインテリも含めて、平等に1人1票を持つというのが選挙制度のタテマエである(投票者の実社会における経験や専門性の差というのは考慮されないというタテマエにもなっている)。ガチインテリでもない人は、なおさら他の有権者に対して優位を感じる理由がない。まず、他人の政治信条と政策選好を理解するところから始めよう。そして、そうすることでしか、政策本位の政治を行うことはできないのだ。
・記事をブログで読む
「むしろ、自民党としては事件のほとぼりが冷めることを心配すべきではないだろうか。よく『日本人は忘れっぽい』と言われるが、たしかにそういう面がある。7月の参院選までには、『政治とカネ』の問題のことなんか、国民は忘れてしまうかもしれない。
自民党の審議拒否戦術は失敗に終わったが、その戦法の巧拙はおくとして、自民党は今後も粘り強くこの問題を追及し続けなければ、かえって民主党の思うつぼだろう。国民が忘れてくれれば、支持率も下がらないだろうし、鳩山首相も小沢氏も辞めずに済むのだから、民主党にとっては、この方が好都合だ」
まず、日本人は忘れっぽくなどない。むしろ、恩義も恨みもしっかりと覚えている。だからこそ、汚職にまみれた旧経世会支配時代の自民党は、何だかんだと選挙で議席第1位を守り通した。有権者は、旧経世会のバラマキ政策に恩義を感じていたからである。一方、汚職などなかった安倍政権は、旧経世会の小沢支配による民主党に負けた。有権者は、小泉・安倍改革によって既得権を奪われたことを、深く恨んでいたからだ。
恩義も恨みもしっかりと覚えているのはバラマキ支持派に限らない。改革派だって、民主党が郵政民営化をはじめとする改革に反対し、政権交代後に郵政再国営化などで改革をつぶしたことをしっかりと覚えている。改革派は、民主党を決して許さない。もっとも、自分の既得権に手が及んだ途端、改革派からバラマキ支持派に「転向」した人は、民主党を応援していくだろう。
有権者は、「政治とカネ」などというフワフワした理由で投票しない。世論調査で聞かれれば、倫理に関する問題だから一応、批判的な回答はする。しかし、選挙というのは、倫理よりも政治信条と政策選好が優先する。これは、倫理を捨てろと言っているのではない。優先順位の問題である。
日本のエリートは、有権者の多くは「愚民」だから政治信条も政策選好もない、と心の底で思っている人が多い。だから、その投票行動を「美人投票」だの「政治とカネ」だのという次元に貶める。そうかと思えば、投票行動がエリートにとって都合のよい結果になると、「民意」だの「有権者の賢明な判断」だのと言って持ち上げる。
今年の参院選で、仮に民主党が負けたとしよう。すると、産経新聞は必ず有権者を持ち上げるような記事を書くだろう。しかし、仮に民主党が勝てば、「日本人は忘れっぽい」と有権者を貶める記事を書くに違いない。
結局のところ、自分だけが賢くて、まわりはみんな愚かだと思っているエリート意識がいけないのである。冷静になればわかるが、よっぽどのガチインテリでもない限り、だいたいの人は並みレベルか並み以下だ。つまり、自分以外の有権者の大多数は、自分と同じレベルかそれ以上なのだから、自分程度の者が覚えていることをまわりが忘れているわけがない。
特に選挙において、自分とまわりの違いは、賢さや愚かさではなく、政治信条と政策選好の違いである。その事実を受け入れれば、選挙結果がどうあれ、自分は自分として信念を持ち、まわりの判断にもしっかりとした根拠があることを尊重できるはずだ。もちろん、自分の信念が常に正しいわけではないのだから、反省の契機とすることも必要となる。
ガチインテリも含めて、平等に1人1票を持つというのが選挙制度のタテマエである(投票者の実社会における経験や専門性の差というのは考慮されないというタテマエにもなっている)。ガチインテリでもない人は、なおさら他の有権者に対して優位を感じる理由がない。まず、他人の政治信条と政策選好を理解するところから始めよう。そして、そうすることでしか、政策本位の政治を行うことはできないのだ。
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