社長の仕事術
2010年 3月 01日

飯島 勲|高速道路無料化「天下の愚策」の9つの復讐

「リーダーの掟」

高速でもなく、安全でもなく、負担が軽くもならない「民主党高速道路無料化」で、日本は早晩荒廃する。

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荒廃するアメリカ、荒廃する日本

「高速道路を原則無料化して、地域経済の活性化を図る」
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「高速道路を原則無料化して、地域経済の活性化を図る」

誰も指摘していない問題にも触れておく。無料化は少なくとも現在、料金収受に働く社員の雇用をなくすことになる。料金収受員の大半は、定年後の第二の職場であったり、会社の倒産やリストラにあった人、あるいはわずかな営農を行っている人たちだ。彼らの平均年齢は59歳で、年収は300万円程度である。

料金収受業務は疲弊した地域の雇用を下支えする貴重なセーフティネットでもある。民営化会社3社で1万5000人を超えるこの人たちが政策により職を失うことになる。この人たちに同じような職を提供することはその地域においては残念だが困難だ。無料化は税金投入の見返りとして、高齢者の地域雇用を脅かす。

高速道路の無料化は、単に既存債務の返済を危うくするだけではない。30兆円超の債務返済よりも重要なのは「高速走行の安全・安心・快適」さである。高度な維持管理、交通安全対策など安全・安心・非常時対応に関わる投資費用の確保である。きっちりとした道路点検と補修、老朽化した構造物の改修がなければ長期にわたる利用は担保できない。

高速道路上で事故が発生した場合、現在各インターで通行止めなどの措置を行って、事故の影響を最小限にとどめようとしている。

もし民主党の言うように高速の出入り口の料金徴収所を撤去した場合、誰がいつ出入りに規制をかけるのだろうか。おそらく警察が出動し、一つ一つの出口を塞ぐことになる。高速の出入り口をどんどん増やしている状況下で、スピーディな対応ができるとは考えられない。

2009年8月11日、静岡で発生した震度6弱の地震による東名高速の崩落が記憶に新しいが、日本において、地震への備えは万全でなければならない。税金・一般財源による道路管理が、その年の他の政策の影響を受けずに、安定的に確保できるか大いに懸念がある。

かつてアメリカは道路のメンテナンスを怠って「荒廃するアメリカ」(America in Ruins)と呼ばれるような、惨憺たる状態になった歴史がある。その反省から、アメリカは自動車燃料税をつくり財源を確保した。現在、さらに直接的な走行距離に基づく課金方式という有料道路化への変換を模索している。

世界各国の潮流は、高速道路の整備・維持管理の財源を確保するため、有料化・民営化の方向にある。安全・安心確保のため受益者負担を原則とする有料道路制度は世界の共通認識になっている。

世界の自動車専用道路の現状を見ると、フランスでは76%、イタリアでは82%、ポルトガルでは55%、スペインでは20%が有料であり、中国は100%有料である。

平成20年度の家計に占める高速道路料金は、一世帯当たり8923円(総務省統計局)だった。無料化に必要な費用1.3兆円を現在の5232万世帯で負担するとしたら、一世帯当たり2万4847円となる。これは現在の2.8倍にもなる重い負担だ。「無料化」と聞いて喜ぶことができる人は本当は一握りなのだ。

高速でもなく、安全でもなく、負担が軽くもならない「民主党高速道路無料化」で、日本は早晩荒廃する。

※すべて雑誌掲載当時

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プロフィール

飯島 勲

いいじま・いさお●長野県辰野町生まれ。小泉純一郎元総理大臣首席秘書官。現在、松本歯科大学特任教授、駒沢女子大学客員教授。

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