きょうの社説 2010年3月1日

◎松くい虫対策 石川県産の耐性苗木に期待
 石川県林業試験場が松くい虫の被害に強い抵抗性を持つクロマツの苗木生産に成功した ことは、長い海岸線を持つ石川県にとって朗報だ。この春から能登4市5町で苗木約1千本が植林され、3年後には1万5千本程度まで苗木の生産が可能になるという。計画通り進めば、林業育苗法で出荷が認められている日本海側の17道府県に苗木販売ができるようになり、「自治体ビジネス」のチャンスも広がる。

 石川県に限らず、富山県でも海岸林を中心に松くい虫被害に歯止めがかからず、あちこ ちで赤茶けた葉が無惨な姿をさらしている。苗木からの植林は成長するまで時間がかかるが、白砂青松の海岸をよみがえらせる確実な方法はこれしかない。耐性を持つ苗木の植樹を増やし、次世代に美しい景観を残してやりたい。

 抵抗性クロマツの開発は、まず松くい虫被害が広がった松林のなかに、あまり被害を受 けず、生き残った松を探し出し、この松から種を取ることから始まる。種に松くい虫(マツノザイセンチュウ)を接種し、苗に育てていく。

 この過程で、多くは枯れてしまうが、生き残った苗だけを選んで再び種を取り、再び松 くい虫を接種して耐性を強めていく。抵抗性クロマツの開発は日本海側では初めてで、10年以上の歳月をかけて品種改良を続けてきた地道な努力が実を結んだ。

 抵抗性クロマツの植林は3月下旬に輪島市などで始まり、能登全域に順次植えられる。 青々とした松が生い茂る美しい海岸線は、ふるさとの心の原風景である。植林イベントは能登半島地震からの復興をアピールする機会にもなるだろう。

 松くい虫被害は最近はやや減ったとはいえ、2008年度は石川県内で海岸林を中心に 5千平方メートルに及ぶ被害が確認されている。抵抗性クロマツは既に静岡、熊本、福岡県などで商品化され、金沢市や加賀市など県内の一部自治体で植林されているが、品薄気味で入手が難しいといわれる。今後、全国で植えられるクロマツの大半は、耐性を持つ品種に切り替わっていくだろう。石川県産の抵抗性クロマツを全国に広めたい。

◎電子ごみ対策 新興国に処理技術支援を
 コンピューターや携帯電話など電子部品を多く含む製品から排出された「電子ごみ」の 発生量が、中国やインド、南アフリカなどの新興国で急増し、ごみに含まれる有害物質による環境汚染が、今後10年で2〜18倍になるとの調査結果を国連大などのグループがまとめた。日本など先進国から、不正に持ち込まれた電子ごみの廃棄物処理の過程で拡大した可能性も指摘されるだけに、責任もある。ダイオキシンなどの排出量を抑制してきた実績のある日本の処理技術による新興国支援をあらためて求めたい。

 新興国の電子ごみ被害の急増は、新興国の経済発展が電子製品の流通を促進する一方で 、先進国からは大量の電子ごみが流入、しかしながら国内の廃棄物処理が極めてずさんなことが背景にある。

 中国の地方都市では、高値で売れる集積回路などを取り外すため、石炭こんろで数百度 に熱した鉄板上で、労働者がマスクも付けずに基板を焼く風景が、日常的に見られるという。途上国ではリサイクル処理の過程で、ごみを溶かして金やプラチナを取り出す際、汚水を浄化せずに垂れ流して環境汚染につながるケースも多い。

 携帯電話が世界で数十億台流通していると言われる現在では、電子ごみ対策は国際協力 なくしてはあり得ない。大手ハイテク企業や国連環境計画などが適切な処理やリサイクルの国際基準づくりを進めてきたが、現場で実効性を高めるために、日本のリサイクル技術を新興国に積極的に供与したい。

 環境省の調査によると、2008年に廃棄物焼却施設から排出されたダイオキシン類の 総量は過去最低を更新し、法律で定めた10年の排出削減目標を前倒しで実施している。焼却施設や製鋼用炉など産業分野で削減対策が進んだことが大きいが、電子ごみに限らずこうした最新のシステムは、新興国で一層効果が際立つだろう。

 技術支援と合わせ、新興国では今後ますます経済発展が予想されるだけに、日本は3R (発生抑制、再使用、再生利用)の考え方の浸透を図るためにイニシアチブを取ることも求められる。