第7回
畠山鈴香と「碧いうさぎ」〜二日間のカウンセリングを終えて
カウンセリングがはじまる前、わたしは長谷川さんに、ある質問をした。
「ウサギは、元気ですか?」
長谷川博一公式サイトの「お気楽プロフィール」の趣味の欄に「うさぎ」とあったし、「助手のひとこと日記」に茶色いウサギの「テンちゃん」の写真がアップされていることが多かったからだ。
「それが、死んじゃったんですよ」長谷川さんは静かな声で言った。
一瞬、わたしは言葉を失った。
「……ブログにアップされている茶色いウサギですか?」
「あのウサギは、助手が飼ってるんです。自宅に飼っているウサギが……最後の一ぴきだったんです。一時期は殖やしたりして、何びきもいたんですけど……何かに食い殺された……ノラ猫とかだと思うんだけど……」
長谷川さんは、特に何を見るでもなしに、こちらに目を向けていた。
「死体はあったんですか?」舌が膨れあがったように感じられて、うまく動いてくれなかった。
「ありました」
わたしは、右手のおや指の柔らかな腹に、左手の爪を食い込ませていることに気づき、左手を右手から引き離して、長谷川さんの言葉を待った。
「はじめる前に、二つの約束をしていただきたい。一つは、自分の命を消さないということ。もう一つは、ほかのひとの命を消さないということ」
長谷川さんの目がわたしの顔の上で焦点を結んだ。
「約束します」
と、視線を交わしたとき、わたしの脳裏に一人の女性の顔が浮かんだ。
畠山鈴香—。
二〇〇六年四月、秋田県藤里町に住む小学四年生の畠山彩香ちゃんの遺体が、自宅から八キロ離れた川の中州で発見される。
警察は「事故」として処理するが、翌月、彩香ちゃんの二軒隣に住む小学一年生の米山豪憲くんの遺体が川の岸辺で絞殺体として発見されたことから、連続児童殺害事件として捜査が開始される。
豪憲くんを殺害したのは、彩香ちゃんの母親の畠山鈴香だった。
似ている、と思った。