UNICORNⅡ lesson2
ユニコンⅡ lesson2
Sleeping with Lions ─ライオンと眠る─
①
ちょうど日が昇り始めたところだった。私は寝袋の中にいてまだ半分眠っていた。不意に動物が近づいてくる音が聞こえた。私はゆっくり頭を上げて足の向こうを見た。1頭のメスライオンが近づいてきていた。妻のディーリアを起こしたかったが、怖くて動けなかった。というのも私たちは今、カラハリ砂漠の広々とした原野にいたからである。
そのライオンは私たちのそばを通りすぎて10フィート離れた茂みまで歩いていき、大きなオスライオンの隣に横たわった。ディーリアはすっかり目を覚まして私に「マーク、あの足の傷を見て。あれはボーンズじゃないかしら?」とささやいた。そう、あれは私たちがボーンズと名付けたライオンだった。何年か前、彼の折れた足に外科手術を施したことがあった。
頭をめぐらせると、全部で9頭のライオンが周りで眠っているのが見えた。私たちは野生のライオンと寝床を共にしているのだ!カラハリで5年間暮らした後でさえ、それはなお驚くべき、素晴らしい体験だった。
②
ディーリアと私は野生動物の研究プロジェクトを始めるためアフリカに来ていた動物学の研究家だった。何ヶ月か手ごろな場所を探したあと、ボツワナにある中央アフリカ野生動物保護区を見つけた。私たちはそこが理想的な場所だと判断し、1974年にその保護区内にベースキャンプを設営した。
暑さと水不足のために、中央カラハリ砂漠の大半はまだ調査されていなかった。ベースキャンプの近くに村はなかった。私たちは150キロ離れた小さな町から平原を横切って水を運んでこなければならなかった。アイルランドより広い地域で、私たち2人の小さな研究チームと数グループの現地のアフリカ人だけが唯一の人間だった。
カラハリは私たちにとって暮らしにくい所だった。野生動物にとっても暮らしにくい所だった。彼らは共に平和に暮らしている時もあったが、生き残りをかけて獰猛に闘うこともよくあった。彼らの暮らしぶりを観察したあと、私たちは自然の掟が実際どういうものなのか理解するようになった。カラハリでは私たちはただの招かざる客だった。平原と野生動物をそのままにしておくことは重要なことだった。
③
初めてボーンズに会ったのはカラハリに来て2年目のことだった。ある日の午後、広々とした平原をドライブしていてたまたま彼を見かけた。彼は数ヶ月前に殺されたと見られるシカの死体に覆いかぶさるように立っていた。死んだ動物の古くて硬い皮を食べようとしていた。
彼はおそらく長いこと食べていなかったのだろう。ゆるい、垂れ下がった皮の下の肋骨がはっきり見えた。
私たちのトラックが近づくと、彼はゆっくり向こうへ歩き始めた。数歩ごとに倒れてはまた立ち上がろうともがいた。ついに彼はばったり倒れ、立ち上がらなかった。まったく動かなかった。彼が死にかけているのは明らかだった。
私はジレンマに直面した。彼の命を救うべきか否か熟考した。私は動物を研究しにカラハリに来ているのであって、決して彼らに干渉するためではないと心の中で思った。しかし後になって彼を助けなかったことを後悔するかもしれないという気もした。しばらくよく考えてから、ついに、できるものなら彼を助けようと決めた。
④
ライオンの足はひどい怪我をしていた。小さな骨が皮膚から突き出していた。その骨を切除し、傷口を縫い合わせるしかなかった。トラックで彼を木陰に引いていった。
9日間、彼にえさと水を届けた。彼は回復していて、私の存在にも慣れてきた。彼は私が彼を助けようとしていることに感謝しているようだった。9日目の夜、彼がカラハリの奥へと立ち去るときのうなり声で私たちは目を覚ました。
10日後、ボーンズは彼の群れと一緒に戻ってきた。私たちのベースキャンプの近くの木の下に座り、物珍しそうに私たちを見つめた。その後、彼らはよく来て、次第に私たちに慣れてきた。
やがてベースキャンプは彼らの遊び場になった。私たちは彼らと、特にボーンズと親しくなった。時おり彼が群れのために獰猛に闘っているのを見ることもあったが、私たちのテントの外で横になっているときは飼い猫と同じくらいおとなしかった。7年のカラハリ滞在中、親愛なる友ボーンズより私たちと親しくなった者はいなかった。
⑤
6年目のカラハリに雨季は来なかった。多くの動物たちが水を求めて動物保護区の端の方へとさまよい歩いた。彼らが心配だった。彼らが保護区の外にいるハンターに殺される危険があった。
かなり長い間ベースキャンプ周辺でライオンを見なかった。ある日、ボーンズが思いがけなく訪ねてきて驚いた。彼に会うのは素晴らしいことだ。
「おはよう、ボーンズ。」私は言った。彼の耳にまだ“001”の番号札が付いているのに気付いた。キャンプの周りで遊び、水を飲みにキッチンを訪れたあと、彼は平原へと立ち去っていった。
2ヶ月経ったがまだ雨は降らなかった。この間、ボーンズを見ることはなかった。ボーンズは大丈夫だろうかと思った。ついに彼を探すことにした。保護区の端に近づいたとき、無線機から友人の声が聞こえてきた。彼は保護区の外の町から連絡していた。
「マーク、ディーリア。こちらはダグ。聞こえますか?」
「ああ、ダグ。マークだ。調子はどうだ?」
「良好。ただ悪い知らせがある。今日ハンターがライオンを射殺したんだ。ライオンに君の番号札が付いていた。」
「番号は・・・何番だ、ダグ?」
「001番だ。」/