【エルサレム前田英司】古タイヤと泥で建てた小学校が、エルサレム近郊のパレスチナ人集落にある。暖房器具も、電話さえもない学びやだが、地元の人々には念願の「母校」だ。中東和平交渉が停滞する中、イスラエル占領下のヨルダン川西岸にあるこの集落は、イスラエルとパレスチナ自治政府の「はざま」に陥り、社会基盤整備から取り残されてきた。
エルサレムから死海方面へ向かう幹線道路沿い。砂漠が広がるこの一帯に、パレスチナ人のベドウィン(遊牧民)、ジャハリン部族の集落が散在する。そのうちの1カ所に昨年9月、小学校が開校した。イタリアの非政府組織(NGO)の支援・指導で、地元の人々がゴミ集積場などから集めた約2000本の古タイヤを積み上げ、泥で塗り固めた校舎だ。
全児童は6~11歳の54人。この学校ができる以前は、約20キロ離れたパレスチナ自治区エリコの学校までヒッチハイクして通っていた。保護者の一人、イド・ジャハリンさん(40)は「登校中に事故で命を落とした子供もいる。地元に学校ができて本当にうれしい」と喜んだ。
しかし、今年に入ってようやく、太陽光発電装置で電気が使えるようになるなど、施設整備は進んでいない。パレスチナ自治政府に電力供給などを求めたが、集落のある一帯がイスラエル軍の完全占領地域であることを理由に、イスラエルに要請するよう言われた。一方、イスラエルは「パレスチナ人なのだから自治政府に頼むのが筋」と取りつく島もない。付近のユダヤ人入植地の団体は、学校を無許可の「違法建築」と問題視し、イスラエルの裁判所に取り壊しを求めて訴えた。
ハナン・アワド校長は「もっと学校を充実させたいが、課題が多過ぎる」と頭を抱える。取材中、子供を入学させたいと母親が訪ねてきた。校長は「受け入れる余裕がない」と断らざるを得なかった。「それなら子供を学校には通わせない」。母親はそう言い残して帰っていった。
毎日新聞 2010年2月18日 13時00分(最終更新 2月18日 13時10分)