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【社説】

週のはじめに考える 『カネで票』の旧態依然

2010年2月28日

 新政権下でも利益誘導がはびこっては世も末。民心の離反は当たり前です。政治を変えると叫んでいた人たちに言います。黙ってちゃダメでしょ、と。

 政権側のひどい負けっぷりでした。先週の長崎県知事選。民主系候補が自民系に完敗でした。

 党代表の首相と幹事長、トップ二人が「政治とカネ」でたたかれていたのだから無理もないと言う人もいますが、ひどかったのは旧態依然の選挙風景でした。

 応援で現地入りの党幹部や閣僚が露骨な利益誘導選挙を展開したのです。いわく、道路を整備します、農業予算をつけましょう、交付金もご要望通りに、などと。

◆利益誘導の罰

 長崎は政権交代の象徴でした。二〇〇九年衆院選で県内四つの小選挙区を民主が独占。参院選挙区も自民は議席ゼロ状態です。

 民主の政権にとって今年の夏にやってくる参院選は正念場。その予行演習というか、保守風土の業界団体票を根こそぎ“身内”にするのを狙った、いわば田中角栄型の選挙手法でした。

 こんな作戦がうまくいく時代でしょうか。政権交代を後押ししたはずの無党派の票が大量に逃げました。ただでも金銭疑惑にみんなが顔をしかめているところへ利益誘導とは、なんと愚かな…。

 鳩山内閣の支持率急落が顕著です。首相も気になっているのでしょう。民主らしさ復元を口にしています。「国民のために政治を変えなきゃならない、それが原点。なりふり構わず頑張る精神が民主党らしさだ」と。

 言葉尻をとらえるようですが、その「なりふり構わず」が問題になっています。作家の高村薫さんが本紙に書いていました。

 「自民党政治でもここまで露骨な権力誇示はなかったことを思うと、民主党政権のこの姿には大きな失望を覚える」と。

◆反省の弁なく

 新年度予算の道路など公共事業の個所付け、つまり予算をどこにいくら配分するかの情報を、国会審議をへて公表されるのも待たず都道府県連の組織を通じて民主が自治体側に伝えていた。高村さんはそのことを指しています。

 なりふり構わず政権党の力を見せつけた形です。そして、県連や知事の要望が付加されて予算増となった自治体も目立ちます。

 選挙のプロから見れば、あれこれ合点がいくはずです。民主が夏の参院選をにらんで重要視する選挙区と重なるのですから。

 もしも選挙の票集めに公共事業予算を差配するとしたら、とんでもない話です。民主に近い山口二郎北海道大教授も「利益誘導政治の発想だ」と断じています。

 長崎とは逆に自民が衆参の議席を独占する福井県。一月中旬にあった民主党県連パーティーで小沢一郎幹事長は、かねて自民を支援した業界団体や自治体首長らに、北陸新幹線延伸などインフラ整備の必要性を力説しています。

 それだけで終わらないのが小沢流なのでしょう。パーティーから日を置かず、県内各市の長らに県連から“招集”がかかったそうです。「特別交付税に関して要請を一括して受ける」と。

 大半の市長がはせ参じ、その場で県連側から、地元要望への国の「回答」が伝えられています。

 政権交代を機に陳情窓口を県連に一元化した党の、地域“支配”の姿が見えるようです。

 個所付けもこの種の地域支配もそうなのですが、万年与党だった自民がその立場を維持するのに、有効活用したシステムでした。

 小沢氏の民主党がそれに取って代わっただけ、の感もあります。福井県のある市議は「この風景は東京が福井に変わったにすぎない」とブログに書いていました。

 そこで、民主党の議員たちに聞かなければなりません。

 あなた方は利益誘導や無駄遣い政治を厳しく批判した。公共事業予算はオープンに国会で審議し、事業効果を厳格査定せよと、主張していたのではありませんか。

 担当する前原誠司国土交通相は「資料の流出」に遺憾発言をしていますが、党側から反省の弁は何も聞こえてきません。

 「コンクリートから人へ」「地域主権」が鳩山政権のスローガンです。政権交代へ大量当選した新人議員は黙々と、公共事業予算の要望を選挙区から政府へ取り次ぐためだけに、国会の赤じゅうたんを踏んでいるのですか。

◆地方改革こそ

 旧態依然の利益誘導が効果を発揮するとしたら、それは地方にも問題なしとはしません。「カネで票」の根っこを絶つには、地方分権と、それに見合う地方の政治改革に取り組まねばなりません。

 性懲りもなく古い政治に党が染まるなら、言うまでもなく七月参院選は、長崎の二の舞いです。

 

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