西日本新聞

高校無償化 「排除」は理念にそぐわぬ

2010年2月26日 10:28 カテゴリー:コラム > 社説

 「コンクリートから人へ」が民主党政権のキャッチフレーズである。人を大切にするという考えであり「教育費は広く社会全体で支える」という政策理念も、この流れにあるはずだろう。

 その理念が揺らぐ事態ではないか。

 政府が4月から実施を予定している高校無償化に関し、中井洽拉致問題担当相が川端達夫文部科学相に、在日朝鮮人の子女らが通う朝鮮学校を、その対象から外すよう要請していたというのだ。

 高校無償化は、公立高の授業料を徴収せず、私立高生についても公立高授業料と同額を原則、学校側に助成する制度である。法案によると、対象は公私立の高校や高等専門学校(1―3年生)だけでなく、高校に類する課程がある専修学校や各種学校も入っている。朝鮮学校はインターナショナルスクールと同様、学校教育法上は各種学校に該当する。

 朝鮮学校は、北朝鮮の影響が強い在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)と関係が深いとされる。中井担当相は「日本は北朝鮮に制裁をしているのだから」と述べ、北朝鮮による日本人拉致問題と絡めた要請だったことを認めている。

 だが、拉致問題を在日朝鮮人子女の教育問題と関連付けることには違和感を覚える。筋が違うのではないか。

 「外交上の配慮などは(無償化の対象にするかしないかの)判断基準にならない」。川端文科相は、こう答えたことを明らかにした。妥当な考えだが、鳩山内閣内での意見の相違は気になる。

 朝鮮学校は民族教育を柱の一つに掲げ、朝鮮史なども教えている。一方で、日本の学習指導要領に合わせた教科書を使うなどして生徒が卒業後、日本社会で生きていけるよう指導しているという。

 九州朝鮮中高級学校(北九州市)は九州で唯一、高校に相当する高級部を持つ。50年以上の歴史があり、生徒たちは国体や高校総体(インターハイ)、福岡県高校ラグビー大会などにも出場している。地域との交流も盛んだ。

 生徒たちは日本国内で学び、生活している。高校無償化法案には、もちろん国籍で制限する条項はない。教育基本法が掲げる「教育の機会均等」の精神を持ち出すまでもなく、この法案の成り立ちから考えて、可能な限り多くの子どもの学ぶ環境を整えるのが趣旨だろう。

 朝鮮学校を対象にするのかどうか、川端文科相は「4月までに省令で定める」として明言を避けている。排除するのではなく、朝鮮学校を含む外国人学校を極力広く対象に入れるよう求めたい。

 高校無償化では、文科省が留年者を対象としていないため、九州各県の対応が混乱している。病気や不登校などやむを得ず留年する場合があり「こうした生徒こそ救済すべきだ」との声もある。

 国会で法案審議が始まった。法案に不備はないか。理念に照らして幅広く支援する仕組みになっているのか。徹底した論議をしてもらいたい。

=2010/02/26付 西日本新聞朝刊=

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