2010-02-11 遡及日記5
一日寝てたので、同人誌が手に入らないものなら自分で描け! という話をする。
日曜から外出づくめでエネルギーが切れたのか、この日は活動を停止していた。
なので、このころ見かけた記事について少し思うところを。
同人誌は手に入らないものなんです。 - トゥルーStylish Private Note.
確かに、同人誌は最近買い安くなりました。
わざわざイベント会場いかなくても虎だメロンだ行けばたっくさんおいてあるしね。
でも、同人誌って個人或いは小さなグループが小規模な冊数刷ってるものなんだぜ?
そんなものが普通に手に入るという思考になるのはおかしな話なんじゃねーの?
そんなゆるい環境になれてしまっていざ自分の欲しい本が手に入らなかった時に、
「みんなが買えるような数量刷るべき」とか、「書店委託してください」とかは
割と間が抜けた発言ではないかと。
はいはい、いつものアレですね。
まず、同人誌というのはきわめて小規模な自費出版物であるということを認識しておこう。
サンライズパブリケーションとかしまや出版とかくりえい社とか、同人誌専門の印刷所はいくつかあるけれど、そういうところの料金体系はどうなっているか?
B5サイズ、4色フルカラー表紙+本文スミ刷りという男性向けでは一番スタンダードなセットで、こんな感じ。
サンライズ(リミックスセット:表紙はアートポスト180kg、本文は上質紙90kgもしくは110kg)
ページ数 | 100部 | 200部 | 300部 |
---|---|---|---|
20 | 38,500 | 48,600 | 57,900 |
28 | 43,600 | 54,500 | 65,100 |
36 | 48,400 | 60,500 | 72,300 |
しまや出版(スタンダードセット:表紙はM+KP・ホワイトポスト200kg、本文は上質紙70kg・90kg・コミック紙から選択)
ページ数 | 30部 | 50部 | 80部 | 100部 | 150部 | 200部 | 250部 | 300部 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
16 | 32,800 | 33,700 | 34,900 | 35,700 | 39,800 | 44,000 | 48,100 | 51,300 |
20 | 34,800 | 35,900 | 37,300 | 38,300 | 42,700 | 47,500 | 51,900 | 55,300 |
24 | 36,900 | 38,100 | 39,900 | 41,000 | 45,700 | 50,800 | 55,500 | 59,200 |
28 | 38,900 | 40,300 | 42,300 | 43,500 | 48,800 | 54,200 | 59,200 | 63,200 |
32 | 41,000 | 42,600 | 44,700 | 46,100 | 51,700 | 57,500 | 63,000 | 67,200 |
36 | 43,100 | 44,800 | 47,200 | 48,800 | 54,700 | 60,900 | 66,600 | 72,900 |
くりえい社(ベリィパック1コース:表紙はMもしくはKP差し替え・アートポスト180kg、本文は上質紙70kg・コミック紙・美弾紙などから選択)
ページ数 | 50部 | 100部 | 150部 | 200部 | 250部 | 300部 |
---|---|---|---|---|---|---|
20 | 29200 | 31500 | 35400 | 39200 | 43100 | 46900 |
24 | 31200 | 33700 | 38000 | 42100 | 46300 | 50500 |
28 | 33200 | 35900 | 40600 | 45000 | 49500 | 54100 |
32 | 35200 | 38100 | 43200 | 47900 | 52700 | 57700 |
36 | 37200 | 40300 | 45800 | 50800 | 55900 | 61300 |
36ページ300部というのが、中堅どころの作る本としては妥当なラインか。部数はもっと多いかもしれない。
注意してほしいのは、サンライズ以外は30部や50部といった少部数から料金表が作られていること。ページ数も16ページや20ページが最小だ。16ページと言えば、表紙をめくって、あと6回めくれば終わり(ちなみにサンクリで買った三峯徹氏の同人誌は8ページの中綴じオフセット本だった)。そして、初心者向けのオンデマンド印刷セットなら、さらに10部単位で注文することができたりする。
どういうことか。それくらいのページ数や部数がオフセット印刷でも想定されるほど、同人誌というのは小規模な出版物なのだ。コミックマーケット30周年記念アンケートの「頒布部数」調査によれば、男性サークル・女性サークルともに最も多い頒布部数は0-49部で、50-99部も足せば半数を超える。上記の表では300部で切っているが、300部を超えてくるのは20%にも満たない(295p)。
そして上記のとおり、小規模なわりに、意外と費用がかさむのである。商業出版のごとく、そう簡単に増刷できるものでもない。
さらに、どの程度捌けるかはイヴェントに出てみないと分からないという、博打のような側面もある。いくつかの体験談をご紹介したい。
- 10年前の夏コミ、ぼくが『メダロット』の18禁本200部を携えてはじめてサークル参加したとき。入稿ミスにより4ページ分ごっそり欠けて20ページの本になってしまったため、頒布価格を300円に設定したところ、2時間強で完売してしまった。
- その後、2002年夏コミにて、ぼくは夏葉薫id:K_NATSUBAプロデュースのもと『ほしのこえ』18禁本『ほしのこえろ』を制作。島端のいわゆる「お誕生日席」に配置されたため調子に乗って500部も刷ったところ、わずか55部しか捌けなかった。当時精神状態が最悪で画力が極限まで落ちていたことに加え、そもそも『ほしのこえ』の、それも18禁二次創作などニッチもいいところで、それほど衆目を集めるようなネタではなかったことを、抗鬱剤にヤラれた当時のぼくの頭では理解できなかったようだ。
- 昨年末の冬コミで、男性向創作の『咲-saki-』島にあった大学アニメ研の先輩のサークルを12時台に訪れたところ、「需要を読み違えた。咲の人気は峠を越えただろうと思ってあまり刷らなかったら、もう完売してしまった」とこぼしていた。ちなみに、あまり刷らなかったとはいっても4桁は刷っていたはず。
- 伝聞だが、一昨年の冬コミで『ストライクウィッチーズ』のスタッフが原画集を頒布する旨告知したところ(スペースはたしか偽壁のC列)、急遽シャッター前に移動させられたうえ客が殺到し、早々に完売してしまったらしい。なお、去年の冬コミの『とらドラ!』本は最初からシャッター前に配置され、やはりかなりの早さでなくなったとのこと。
ことほどさように、様々な要因によって、同人誌は捌けたり捌けなかったりする。まったくもって「普通に手に入る」ものではないのだ。
再び、元記事。
はっきりいうと委託という環境に慣れすぎちゃったんじゃないのと。
あれはあくまでサークル側の多くの人間に頒布したいという思いがあってそうなるもので、
それはただ好意に甘えてるだけっすよ。
委託についても、大手サークルは面白い試みをしていたりする。男性向けの例しか出せず恐縮だが、たとえばエロ絵の非常に精緻な彩色、通称「石恵塗り」を確立させてフォロワーを多数輩出した「偽MIDI泥の会」は、会場で頒布するA4サイズのフルカラー本を同人ショップでも委託販売しているが、それに加えて会場頒布限定のA3サイズ本を出している。また男性向け超大手サークルのひとつbolze.も、同人ショップにも卸す本に加えて必ず、会場頒布限定の本を出している。あくまでイヴェントがメインで委託はサブという意識のあらわれと見ていいだろう。大手以外でも見られる、いわゆる「突発本」も似たようなものだ。
ちなみに女性向けの場合、そもそも同人ショップへの委託は少なく(ジャンルによっては『売らんかな』の姿勢の表れと見られて叩かれたりするらしい。またナマモノのように、おおっぴらに委託などするわけにはいかないジャンルもある)、かわりにイヴェントへの参加回数が男性向けよりも多いという傾向にあるようだ。コミックマーケット30周年記念アンケートの「コミケ以外の同人誌即売会での頒布部数」調査によると、男性サークルでは「即売会はコミケのみ」が49.0%で最多だが、女性サークルでは「コミケ<他即売会」(29.6%)+「コミケ≒他即売会」(24.1)が過半数を占める(298p)。ケット・コムなどで同人誌即売会開催スケジュールを見てみれば、如何に女性向けジャンルの即売会が数多く開催されているかよく分かる。
ところで、元記事はこういう結論を出している。
出すものがなんであれどこであれ、欲しければそこへ行く。
出る環境がないというのならそれを作り出す、それが同人なんすよ。
ぼくはさらに別の言葉を付け加えたい。
「出る環境がないというのなら自分で本を出せ」
元記事の「それを作り出す」は、話の流れからして一般参加者視点での話だ。しかし同人誌即売会においては、そもそもサークル参加者も一般参加者も、たまたまその場そのとき本を出しているかいないかの違いでしかない。ぼくにしても、夏コミはサークル参加していたが、冬コミは一般……というかプレス取材での参加だった。どちらか一方に属性が固定されているわけではないのだ。
なので、ぼくはよく言っている。どうしても読みたい本がないのなら自分で作れ、と。いや、お米ちゃんid:okome-chanの受け売りなんだけどさ、これ。55部しか捌けなかった『ほしのこえろ』だって、そういう本を読みたいけれども誰も作らなさそうだから、自分で作ったのだ。ぼくにとっては勲章だ(できれば今の画力で描き直したいけど)。
そうすれば、きっとスペースを訪れた誰かが「よくぞこの本を作ってくれた!」と握手を求めてくるようなこともあるだろう。ぼくがよくやることだが。それが、同人の醍醐味だ。
みんなが買えるような数量刷るべき、なんて言ってる場合じゃないぜ? きみは“お客様”じゃないだろ?
参考アイテム
コミックマーケット30’sファイル―1975‐2005 | |
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