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ヨナ228・56!異次元の演技/フィギュア

<バンクーバー五輪:女子フィギュアスケート>◇25日(日本時間26日)◇パシフィック・コロシアム

 金妍児(19=韓国)の目からあふれたのは、世界一の涙だった。金は約4分のフリー演技を終えると、もう涙を抑えられない。直後の浅田の演技を待つ必要もなく勝利を確信した。「演技直後に泣いたのは初めて。ほかの選手が泣くのを見て、いつも何で泣くんだろうと思っていた。自分が泣くとは思わなかった」。五輪という舞台で演じた世界最高の演技が、感情を決壊させた。

 そして採点に目を見張った。歴代最高得点を持つ世界女王でさえ予期しなかった150・06点。総合でも、自身が昨年10月のフランス杯で記録した歴代最高よりも18・53点高い228・56点。「まさか男子選手並みの150点が出るとは…」と驚いた。

 もはや浅田はライバルとは言えない次元に達した。「他にも強い選手がいるので、真央だけをたった1人のライバルだとは思っていない。私は特定の選手をライバルとはみなさない」。完勝しただけに、その言葉には重みがあった。

 感謝の思いは家族に伝えたかった。「彼らは私の競技人生を通して、いつもそばにいてくれた」。金がスケートを始めたのは5歳。3歳上の姉のエラさんもスケートをしていた。だが母パク・ミヒさんはコーチに「ヨナには才能がある。お金がかかるが、サポートできるか」と言われ、姉がフィギュアを断念。金が世界に羽ばたくために、姉は自分の1つの夢をあきらめた。

 エラさんは今、看護婦として働いている。その博愛精神は金も受け継いだ。今年1月のハイチの大地震では約1000万円を寄付。またフィギュア選手の養成事業や、恵まれない子どもたちへの寄付総額は約1億5000万円を超えるという。姉の今の夢を、金は違う形でサポートしている。

 この日は母だけでなく、父キム・ヒュンソクさんも観戦。父は仕事が多忙で観戦は今回で2度目だった。それでも緊張のあまり、演技中は通路の影に隠れた。金は「両親が私の夢をかなえる瞬間を見てくれて本当にうれしい」と感謝した。

 過去の五輪女王はプロ転向するケースも多く、金も引退説がささやかれる。3月の世界選手権は出場予定だが、今後について聞かれ「人生最大の目標を達成したので、しばらく楽しんで、次に何をするかを考える」と答えた。「夢だった五輪で勝ったことが信じられない」。伝説をつくったヨナはしばらく夢心地に浸っていたいのだろう。【広重竜太郎】

 [2010年2月27日9時35分 紙面から]


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