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命を吹き込む

2010年2月15日

  • 筆者 小原篤

写真拡大DVD「銀河鉄道999」(東映ビデオ)写真拡大シンポジウムでは仕事中の金田伊功さんの姿も紹介された=東京・国立新美術館写真拡大シンポジウムで語るりんたろう監督写真拡大アニメ評論家の氷川竜介さん写真拡大金田さんの追悼特集が載った「アニメージュオリジナル」vol.5(徳間書店)。表紙は「無敵超人ザンボット3」原画

 第13回文化庁メディア芸術祭の特別功労賞を受賞したアニメーターの故・金田伊功さんについて語るシンポジウムが、同芸術祭会場である東京の国立新美術館で11日に開かれました。登壇者は映画「銀河鉄道999」「幻魔大戦」などで金田さんと組んだりんたろう監督と、アニメ評論家氷川竜介さん。昨年7月に57歳の若さで亡くなった金田さんについては、昨年8月24日の本欄「ロカルノ 金田さんを悼む」で書きましたが、今回のりんたろう監督のお話も面白かったのでご紹介します。

    ◇

 ひとことで言えばヘンな奴。アニメーターってたいがい偏屈で一家言あって頑固な人たちですが、金田君はポップで楽しい男。軽やかというのかな。自由奔放で、束縛されたくない、束縛したくもない。アニメーターになってなかったら、ワケのわからない宗教の教祖になってたかもね。そっちの方も結構好きそうだったから。

 若い時、彼は声優の小山茉美さんの追っかけをしていたことがあってね。タバックというスタジオの外で花束持って、たくさんのファンと一緒に待ってたんだって。僕が小山さんと一緒に仕事をしてた時、彼に「いいな、いつも一緒で」って言われて、「俺は彼女と結婚してるわけじゃないぞ」って答えた。いつか会わせてあげるよと言ったけど、一度も会わせなかったなあ。会って何するかわからないから。

 アニメーションは画力というのもあるけど、時間軸をどう使うかが勝負なんです。金田くんはその使い方が際立っていた。金田イズムというのは定型がなくて、ショットの狙いに従って縦横無尽に書いていく。1枚1枚見ていくと、美しくない絵もあり、絵と絵がつながってないようにも見える。ところが動くと素晴らしい。映像になった時の流れが計算してあるんだね。ランダムに見えるようなアクションがあって、バッ!とかっこいい決めポーズで止まる。その緩急自在なタイミングが抜群。ただそれは金田くんだけのものではなく、歌舞伎の見得とか俳句のリズムとか、日本人のDNAに入っているものが無意識のうちに出てくるんじゃないか。

 彼はキャラクターデザインには合わせなかった。不器用だったし、何より考えるのはタイミングや効果だから。そのぶん、作画監督が大変になる。「銀河鉄道999」の小松原(一男)も、彼のつくり出す動きを生かすためポイントだけ直した。キャラクターが多少合ってなくてもいいんだ。どこ切っても同じ金太郎飴みたいじゃ面白くないよ。

 「銀河鉄道999」の惑星崩壊シーンで金田君が描いた炎を見て、「次はこのフォルムで龍をやろう」と考えた。彼の描く炎や爆発は生き物に見える。情念が入っている。それが「幻魔大戦」の火炎龍につながった。あのシーン、僕は絵コンテを見せて「炎を龍にしたいんだよね」とイメージを伝えただけで、後はほとんど彼にお任せでした。動画も撮影も大変だったけど、彼の集大成だと思う。

 彼の描く光は、曲がったり弾けたり、普通じゃ考えられないフォルムだし、リアリズムで考えたらあり得ない。でもリアリズムでしか考えられない人はアニメーションには要らないよね。アニメーションは基本は大ウソ。そのウソを「ウォー、すごい光だ」と見る人に思わせたら絵描きの勝ちなんです。

    ◇

 さてシンポでは、金田さんが手がけたシーンや原画がスクリーンに映し出されましたが、個人的にツボだったのが、2000年に亡くなった小松原さんを追悼するカラオケイベントで「おれはグレートマジンガー」を歌う金田さんの映像。みごと「小松原一男杯」を獲得する大熱唱なのですが、そのフリがダイナミックでハチャメチャ。手と脚とお尻が統率なくバラバラの方向へ動き出す摩訶不思議な金田ダンス(?)。

 その映像を見たりんたろう監督「この動き、彼のアニメと同じだね。何かバラバラでしょ?」。

 この熱唱を生で見たという氷川さんが、苦笑まじりに解説してくれました。「このとき、金田アクションというのはリアリズムだと気づいた。それまでは、金田さんのイマジネーションが生み出したものと思っていた。でも金田さんにとっては、リアリズムだったんです」。

 この映像は昨年10月にいただいた追悼DVD(自主制作)に収録されており、実は私、夜中にそれを見て、ゲラゲラ笑いつつボロボロ泣いてしまいました。破天荒なアクションとほとばしるパッション。まさに生きている金田アニメ。アニメーターは絵に命を吹き込むと言いますが、金田さんの残した名シーンの数々には、間違いなく金田さんの命が吹き込まれているのだと思いました。

 見終わったりんたろう監督「踊る宗教ですよね」。

 いやほんと、私も生で見ていたら「ワケのわからない宗教」でも入信しちゃったかも知れません。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から編集局文化グループ記者。

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