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■「「バリア“アリー”」な介護施設」 2009/07/15 放送

5人に1人が65歳以上という、世界にも類を見ない高齢化社会の日本では、介護サービスの充実や施設のニーズは増え続けています。

そんな中、バリアフリーは一切無し、「高齢者に優しくない」ことを目指しているという、ある介護施設が注目されています。




<藤原茂さん>
「これが1階ならいいですね。エレベーターがつらいですね」

この不況の中、物件探しをする男性。

あるNPО法人の代表、藤原茂さんです。

<藤原茂さん(50)>
「飲み屋の跡とか、ファミリーレストランの跡とか、そういう所はバリアーがいっぱいあって狭苦しいところだから1番いいわけですよ。ごちゃごちゃゴミゴミしていて」

いったい、大阪で何を始めようとしているのでしょうか?


藤原さんは、山口県で高齢者の介護施設「夢のみずうみ村」を運営しています。

8年前に作ったこの施設は、大胆な取り組みを行っています。

<利用者>
「もう一丁」
「逃げ。ありがとうございました」

花札に高じる人たち…

そして、ダーツ。

ここは、施設内にある「カジノ」なのです。

みな、真剣でとても楽しそうです。

これは、介護の必要な高齢者向けのデイ・サービスの一環で、「カジノ」はれっきとしたデイ・サービスのプログラム。

参加者が真剣になっている理由、それはカジノには「通貨」が賭けられているのです。

<利用者>
「ここじゃね、“ユーメ”が一番大事。これがなきゃ何もできん」

賭けているのは、ここだけで使える通貨で、施設の名前「夢のみずうみ村」をもじって「ユーメ」と呼ばれています。

施設の中で何をするにも「ユーメ」が必要なのです。

<利用者>
「負けて腹が立つ、勝って喜ぶ」

施設を運営する藤原さんは、高齢者にとって「カジノ」には大きな意味があるといいます。

<夢のみずうみ村代表・藤原茂さん>
「ようするに意志なんですよ、年寄りの意志。自分がああしたい、こうしたいと思ってる意志を揺さぶるのが、夢のみずうみ村のやり方」


この介護施設では、まずきょう一日、自分が何をしたいのか、100種類以上のプログラムの中から選ぶことから始まります。

<利用者>
「昼からお風呂ですね。のんびりコース、歩きますよ」

陶芸で作品づくりをする人、器械を使って筋力づくりをする人、温水プールで歩行訓練をする人、それぞれが好きに時間を過ごしています。

<利用者>
「過ごし良いよ。自分勝手に過ごせるじゃん。何をやってもいいんじゃから」

昼食も決められたメニューではなく、バイキング形式で各自が好きなものを好きなだけ食べます。

車イスの人も、食事の用意はできるかぎり自分でやるようになっています。

そして、この施設の最大の特徴が、介護施設なのにバリアフリーを排除していることです。

それどころか、いたる所にバリアーだらけ。

施設いわく、「バリア“アリー”」なのです。

たとえば、65メートルある廊下には手すりがありません。

そして階段、お世辞にも、上り下りしやすいとはいえません。

なぜ「バリアアリー」なのでしょうか?

<夢のみずうみ村代表・藤原茂さん>
「手すりは普通ここまであるのがバリアフリー。うちはバリアアリーだから、わざと切った。前につんのめるような怖さを感じる。これを経験しておくと、社会に出て、少々のバリアーでも困らない」

わざとこうした環境を作り出すことで、施設を1歩出たときに遭遇する自宅や公共空間でのさまざまなバリアーを克服する術を取得するためだといいます。

この施設に通うお年寄りに聞いてみますと…

<利用者>
「最初は歩けなかったんですよ。つえでやっと立てるくらい。今、もうほとんど歩けます、つえ無しで。やっぱり、時間と努力と施設のおかげと思っています」
「(Q.「夢のみずうみ村」に通って良くなったことは?)歩けるようになったんです」

この男性は、この施設に通って、歩く力が戻りました。

<利用者>
「施設は僕たちを回復させるもの。それをどう工夫して自分が利用するか」


実際、山口市が、市内にある19か所すべての介護施設の事業所で、1年間継続利用した人を調査したところ、ほとんどの施設で要介護レベルが悪化したのに対し、「夢のみずうみ村」だけが、逆に10%程度改善されたことがわかりました。

しかし、要介護のレベルが改善されることが、施設運営にとってはマイナスになってしまうのだといいます。

現在の介護保険の問題点を、厚生労働省の審議会で委員を務める介護の専門家の池田教授はこう指摘します。

<龍谷大学社会学部・池田省三教授>
「要介護度が改善されて、ある程度、自分で自分の生活をできるようになる。これは誰もが喜ぶべきことだと思うんですけれども、結局、それを実現した事業所は、利用者の要介護度が下がるので、介護報酬、つまりその人の払っている介護サービスの代金が下がるんですよね。(要介護度を)改善すればするほど、収入は減る。逆に言うと、悪化させればさせるほど収入は増える。これは非常に大きな矛盾」


高齢者が、国や施設だけに頼らない「自立支援」を理念に掲げる介護保険の大きな矛盾。

そんな制度の問題を乗り越えてでも、「夢のみずうみ村」を運営する藤原さんには次なるプランがありました。

<夢のみずうみ村代表・藤原茂さん>
「これからは、高齢者、80になっても稼ぐ、障害があっても稼ぐ、というのがうちの新しいテーマ。大阪でつくりたいのは、そういう施設」

自活する高齢者をめざす新しい介護のプログラム。

それを実現するため、藤原さんは大阪で新しい施設の用地を探しているのです。

<夢のみずうみ村代表・藤原茂さん>
「ここ(大阪)でうちのデイ(サービス)ができると、画期的なこと。サービスを受ける人たちが稼いでいって、その稼ぐ行為をすることで元気になる。そういう発想でやる業者はどこにもない、どこにもありません、日本国中。だから、ここが第1号になる。そういう意味では、きょうは衝撃的な日ですよ」

80を過ぎても、障害があっても、最後まで自分で自分の好きな人生を歩む。

本当の意味で自立した高齢者をめざす取り組みは、近い将来、ここ大阪で花開くかもしれません。




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