なるほドリ 川辺川利水事業ってどんな事業なの?もめているようだけど、何が問題なの?
記者 人吉球磨地方の6市町村の農地に川辺川の水を農業用水として供給する計画です。正式には「国営川辺川総合土地改良事業」と言います。84年に川辺川ダムの水を使う計画でスタートしました。しかし、ダム反対の農家らが川辺川利水訴訟を起こし、国は03年の控訴審で敗れました。その後、関係者間で事業による新しい水をどのように配るかの話し合いが持たれましたが、ダムを使うかどうかや、農家が支払う「水代」(維持管理費)を巡って調整がつかず、08年度から休止となっています。
■同意取得で不正発覚
Q なぜ、国は裁判で負けたの?
A 最初は3590ヘクタール(東京ドーム約770個分)の農地に水を配る計画でしたが、細かく見ていくと山林や崖(がけ)など農地には適さない場所が含まれていました。そこで、農地に使える3010ヘクタールに計画を縮小しようと、国(の委託を受けた市町村職員ら)が約4500戸の対象農家から、変更同意のサインをもらう作業をしました。ところが、死亡した人のサインがあったり、許可なく他人の印鑑が押されていたりする不正が川辺川利水訴訟で発覚し、国敗訴の原因となりました。その後、国と県、市町村と農家の代表が新しい利水計画作りの話し合いをしました。78回の協議では面積を1299ヘクタールとして検討を進めることになりましたが、取水方法は決まりませんでした。
そのため農水省は06年、1299ヘクタールにチッソ所有の水力発電所の導水路を使う「農水新案」=図下=を提案しました。現在の6市町村長と議会はこの案で事業を進めようとしています。
Q 相良村の「川村飛行場用水路」と「柳瀬西溝」地域が現計画に反対し、計画から除外されるというけれど、なぜそうなったの?
A 07年に利水事業がダム計画から外れ、09年の政府の川辺川ダム中止方針もあり「ダム取水」を巡る論争は沈静化しつつあります。しかし、2地域の農家は主に二つの理由から事業に疑問を投げかけています。
一つは、農家が毎年負担する「水代」です。農水新案の水代は10アール当たり4500円(毎年水を使う水田の場合)で、行政が補助金を出すことで実現できる額です。行政は送水から10年間の補助を約束していますが、反対農家は永久的な補助を求めています。
Q 二つ目の理由は?
A 水利権(水を使う権利)を巡る問題です。2地域の農家は既に川辺川の水利権を持っていて、今ある水路=図上=を使って川辺川の水を取っています。これを「既得水利権」と言います。農水新案が実現すると2地域の既存水路は廃止され、他地域と同じ新設水路を使うことになります。2地域は計画の下流地域にあるため「水不足の場合、自分たちのところまで水が来なくなるのでは」と心配しています。それならば既存水路を使い続けて「既得水利権」を主張し、川辺川の水を優先的に使った方が得策だと考える農家が多いのです。
■自治体負担額が増加
Q 2地域の除外で「農水新案」による利水事業は実現するの?
A まだ難題が残っています。まず、国は事業復活の条件として、相良村土地改良区の同意を求めています。「上流で新たに水を取りますが、よろしいですか」という伺いなのですが、改良区には除外した2地域も含まれているため、現時点では同意取得は厳しい状況です。計画面積も1050ヘクタール前後(東京ドーム約225個分)に減少する見込みです。また、相良村の面積減に伴い、他の5市町村の建設費の負担割合が増えます。5市町村が事業負担額の増加を受け入れてまで事業を継続させるかどうか、判断が注目されます。【回答・高橋克哉】
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毎日新聞 2010年2月26日 地方版