去年10月、大阪・門真市の市民センターに大勢の人が集まりました。
呼びかけたのは大阪社会保障推進協議会。
医療や福祉に関する提言を続ける団体で、ある大掛かりな調査のためにボランティアを集めたのです。
<三重短期大学 長友薫輝准教授(地域医療論)>
「国保に関してこのような調査を行うというのは、おそらく全国初の取り組みです」
調査は国民健康保険の滞納が多い門真市で行われます。
なぜ支払いが滞るのか、市民が保険についてどう思っているか、丹念に聞き取る調査です。
医療保険には、サラリーマンが加入する協会けんぽや組合健保、公務員の共済組合などがありますが、最も加入者が多いのが国民健康保険=国保なのです。
国保はもともと農林水産業や自営業者の保険としてスタートしましたが、2007年度には無職の人が55パーセントを占めるようになりました。
その保険料はしだいに集まらなくなり、収納率は2008年度、初めて90パーセントを割り込みました。
<大阪社会保障推進協議会 寺内順子事務局長>
「日本の医療制度を語るとき国保をぬきには語れないし、門真は最も国保が厳しい地域なので、そういうところの問題点を浮き彫りにするのはとても重要なことだと思っている」
門真市は2007年度、収納率が79パーセントと全国ワースト2位でした。
パナソニックのお膝元として高度成長期に、爆発的に人口が増えた門真市。
その後パナソニックの生産拠点は海外に移り、町はいま、不況の影響をもろに受けています。
<調査員>
「こんにちは」
その門真市で初めて行われた実態調査。
2日間でのべ500人の調査員が市内南部の団地などを回りました。
<調査員>
「国民健康保険のことをどう思うか、いろいろご意見を聞かせてもろて」
<女性>
「健康保険払わんかってね、たまっとってね」
<調査員>
「それは忘れとったん?」
<女性>
「忘れてないんやけど、病人かかえてるし、いろんなことがあって」
<去年失業した女性>
「私ら高いですよ、ひと月2万7,000円」
<調査員>
「高い保険料を減額する制度があるんですよ、失業された方には。ご存知ですか」
<去年失業した女性>
「何も知りません」
調査項目は年収や家族構成、生活の状況など多岐にわたりますが、経済的な理由で病院に行くのを控える人も目立ちました。
<43歳無職男性>
「椎間板ヘルニア、ぎっくり腰。 ときどき胸が痛い」
<調査員>
「病院には行ってない?」
<43歳無職男性>
「行ってない」
国保の保険料は、ほかの健康保険より高い傾向にあります。
たとえば京都府の調査では、夫の年収が250万円、妻が100万円で子ども2人の世帯では、会社員の協会けんぽなら年間の保険料は10万2,000円あまり、ところが国保では、2.4倍の24万7,000円あまりとなります。
<長友薫輝准教授>
「国保の加入者の方は、ほかの医療保険に比べて平均所得が低い。でも、いちばん払っている保険料は高い。保険料が高いと払えない人が増える。残った人で負担するので、また保険料が高くなる、また新たな滞納者が生まれる、また保険料が高くなるという悪循環です」
そして、市町村による格差が大きいのも国保の特徴です。
国のデータがない中、毎日新聞が行った調査によりますと所得200万円で4人家族の場合、近畿で最も保険料が高かったのは門真市の隣の寝屋川市でした。
年間50万4,030円で所得の実に4分の1を占めています。
全国でも最高の額で、最も低い奈良県・下北山村の2.4倍の額でした。
ちなみに門真市は42万4,750円です。
全国一、国保の保険料が高い寝屋川市で自動車の販売・修理業を営む吉川さん(67歳・仮名)は妻と2人暮らしですが、ここ数年、保険料の半分しか払っていません。
<吉川さん(仮名)>
「保険料は去年が30万5,000円で、今年が26万5,000円。所得150万円なんです。所得の5分の1も国保でもっていかれたら生活できない」
不景気の影響で、保険料を滞納する世帯が増えています。
24歳の広田さん(仮名)は、去年、長時間の残業で体調を崩し、会社を辞めました。
今は塾講師のアルバイトですが、国保の保険料を払う余裕がなく手続きしていないため保険証がありません。
(Q.収入は?)
<広田さん(仮名)>
「多い月で11万とか12万。少ない月だと8万」
(Q病院に行きたいと思ったことは?)
<広田さん(仮名)>
「以前の職場を体調不良で辞めて通院もしたかったんですが、保険証がないので断念して」
一方、国保を運営する市町村側も深刻です。
滞納が多いと国からの交付金が減らされ、財政破綻の恐れもでてきます。
門真市では先月から民間に委託して、督促のためのコールセンターをオープンさせました。
<コールセンター>
「本日、国民健康保険の納付の件でお電話差し上げました。毎月、月末が国民健康保険の期限日なんですね」
払ったと言い張る人や話も聞かずに電話を切る人も少なくありません。
<コールセンター>
「それは、市役所の方にお電話していただきましたら、詐欺とかそういうことはございませんので」
国保の負担を市町村に押しつけていてはいけない。
京都府では知事の発案で、国保を府が主体になって運営する仕組みをつくろうと研究会を発足させました。
<京都府 山田啓二知事>
「いちばん弱い人の保険、本来、ナショナルミニマム(最低限の生活保障)でないといけない保険が、会社で働いている人たちの保険と比べて逆に高くて、しかも市町村格差があって、それを埋めるために市町村が赤字を出したり、税金をつぎこんだりしている現状がある。都道府県が主役になっていくべきじゃないか」
与党・民主党もマニフェストで医療保険の一元化を掲げていて、議論を始めています。
<梅村聡参院議員・大阪選出、医師>
「地域医療保険として、国保であれば広域化していく。広い地域で統合することでスケールメリットを生かし、保険者を再編成していく。今、考えているのは都道府県ごとでの運営」
危機に立つ国民健康保険。
門真市の実態調査の結果でも、加入者の生活の厳しさが裏付けられました。
国民のいのちを守る制度の抜本的な見直しがいま、求められています。
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