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1月30日
特集「造船の技で建築に新風を」

<ゲスト>
高橋和志さん(高橋工業社長)
<コメンテーター>
松原隆一郎さん(東京大学大学院 教授)
成島由美さん(ベネッセコーポレーション執行役員)
星野佳路さん(星野リゾート 社長)

●造船の技で建築界に新風

分厚い鉄板の壁に無数の灯り窓を開け、夜には壁を星空のように見せる銀座のブティック。三角形の鉄板を組み合わせて作った東京神田の劇場…。奇抜な建築デザインで注目を集める会社があります。宮城県気仙沼の高橋工業。駆使するのは、鉄をアメのように自由に加工する造船業の技術。漁業が衰退し船の注文が激減した15年前、造船会社が生き残りをかけて陸にのぼりました。船造りの技で、建築デザインの世界に新風を吹き込む地方の小さな企業の挑戦を追いました。

【野田】“船造りの技を建築で”って一言で言うのは簡単ですけれど、ご苦労もあったんでしょうね。

【高橋】やっぱり船を作る感覚と建築を作る感覚が違います。建築は動かないし、船は動く、それに仕事で使う言葉が違う。船で言えば、右・左は「面かじ」「取りかじ」。建築では東西南北ですよね。

【野田】ああそうか。東西南北と言っても分かんないけど、右舷とか、左舷と言えばわかるわけですね。

【高橋】はい。前・後は“おもて”とか“とも”とかね。建築の言葉は、船でいえばこういうことなのかということを理解してもらうのが一番難しいし、大変だったですね。

【野田】逆に言えば、それをクリアすれば、あとはすんなりと。

【高橋】ええ、それはできると思います。誰でも。造船をやっている人たちであれば。

●地方の町工場 新たな挑戦

建築の幅広い分野に応用される高橋さんたちの技術。東京の建築家から依頼を受けた事務所の建築では、敷地がわずか50平方メートルという条件にもかかわらず、壁や床に鉄板を使うことで、広いスペースと強度を両立することが出来ました。  さらに海外にも目を向けています。去年はロシアを2度訪問。現地の建築家やデザイナーに直接、技術を売り込みました。

【野田】ロシアへの売り込みの話がありましたけれど、実際に成果はあったんですか?

【高橋】成果は徐々に出ています。たとえば、日本で言うショッピングモール。大きなショッピングモールの屋根を、鉄板を曲げた曲面で作る計画が進んでいます。やっぱりこうした技術は、まだロシアにはない斬新な工法というか、デザインのようですね。

●“異業種”にチャンスあり

【野田】他の産業へ飛び出していく上で、成功する秘訣は、何でしょうか?

【高橋】秘訣と言えば、とにかく諦めないということでしょうね。それと、基本的には自分の持っている腕を信用するということじゃないですかね。

【松原】先ほど、言葉さえちゃんと造船用から建築用に変換できたら、誰でもできるとおっしゃったんですけど、やはりノウハウってあるんじゃないですか?

【高橋】それはないと思いますね。ただ私ども、規模はそんなに大きくないので、やはりトップの人間は1から10まで船を完結させるまで全部仕事を見なくちゃなんない。

【松原】全体を見渡すことができると。

【高橋】ところが大企業になりますと、部署ごとに担当の人間がいて、こちらは得意だけどもこちらはちょっとだめだということになります。いざ異業種に行く時にはですね、1から10まで全体をある程度知らないと、やはり無理なんじゃないかなと思いますね。

【関口】僕が取材した中でも、地場の産業の技術を使ったという例はありますよ。例えば酒蔵が酒造りの技術を使って、化粧品を作ってしまったとか。あるいは、新潟の燕三条の刃物を作る会社が高級な爪切り作ったりするでしょう。それから筆の町の広島の熊野から、化粧筆の世界に出て行ったりとか。やっぱり、本当に腕なら負けないっていうことなんです。それとね、もう一つやっぱり大事なのは、世代からの技術の伝承にきちんと取り組んでいるところじゃないでしょうか。

【野田】星野さんはいかがですか。

【星野】そうですね。今ある自分の技術に自信を持って、それを売っていくっていうことがすごく大事ですね。逆に私はね、むしろ、今はない技術を開拓しようって思わない方がいいと思うんですよね。そうするとコストがかかったり、ノウハウがかかったり、時間がかかったりするんです。今あるものをいかにマーケットにあうものにするというのはすごく大事なんだと思いますね。

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