本県知事選は、自民、公明両党の応援を受けた前副知事、中村法道氏が、民主など与党3党推薦の候補に大差をつけて当選した。
今回の選挙は、政権交代後、九州初の知事選であり、「政治とカネ」の問題で民主党に逆風が吹く中で行われたことから、夏の参院選の行方を占う選挙として全国の注目を集めた。このため選挙戦は、民主、自民双方の国会議員が続々と本県入りして支持拡大を図るという激しい展開を見せた。
政党政治である以上、各政党が全力を尽くして有権者に支持を訴えるのは当然のことだ。だが、どんなに激しい選挙戦であっても、それはあくまで民主主義のルールに基づいたものでなければならない。
残念ながら今回の選挙戦の過程で、1人の有力政治家に、そうしたルールを忘れた言動がみられた。その政治家が政権与党の選挙対策委員長という要職にあり、日本の政治に大きな影響力を持つ人物であれば、民主主義の根幹を揺るがしかねないその言動を見過ごすことは決してできない。
問題発言をしたのは、民主党選挙対策委員長の石井一参院議員。石井氏は1月29日の民主党推薦知事候補の総決起集会で、同候補が落選したケースに言及し、「時代に逆行するような選択を長崎の方がされるのであれば、民主党政権は長崎に対し、それなりの姿勢を示すべきだろうと私は思います」と述べ、「それが政治である」と付け加えた。
本県有権者が民主党候補を知事に当選させなければ、政権党の力を使って県民全体に不利益を与えると脅した、まぎれもない恫喝(どうかつ)発言である。われわれは、断じてこれを許さない。
有権者には憲法で保障された投票の自由がある。政党が有権者に対して、特定候補に投票しなかった場合には報復措置を取ると示唆して脅すのは、この権利を踏みにじる行為だ。民主主義を否定する暴言を吐いた石井氏の政治家としての資質を問わねばなるまい。
民主党は知事選で、小沢一郎幹事長が「(民主候補を知事に選べば)高速道路を造ることもできる」と述べるなど、大臣や党幹部が露骨な利益誘導発言を連発した。それは、かつての自民党の利益誘導政治と何ら変わらないという点で、国民の政権交代への期待を裏切るものだった。石井氏の発言も利益誘導路線の延長上にあると考えられるが、有権者への恫喝にまで発展すれば、これはもう、利益誘導とは次元の異なる悪質な暴言と言うしかない。
本県有権者の価値観は多様で、支持する政党も、誰に投票するかも、人それぞれだ。それでも、われわれは選挙結果を粛々と受け入れ、みんなで尊重していく。それが民主主義だ。これからも、与えられた1票を大切に行使しながら、この長崎の地で、民主主義を守り、より良い政治を実現すべく地道な努力を続ける決意である。それが、有権者恫喝発言を行った石井氏に対する、われわれ長崎県民の答えだ。(高橋信雄)
(2010年2月25日長崎新聞掲載)
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