福岡県後期高齢者医療広域連合の設立に絡む汚職事件で、福岡地検は前県副知事の中島孝之容疑者を収賄罪で、県町村会長(添田町長)の山本文男容疑者ら2人を贈賄罪で、それぞれ起訴した。
町村会幹部らによる詐欺事件を発端に、県幹部への接待疑惑から汚職事件に発展した捜査は一つの区切りを迎えた。
だが、県の職員倫理調査委員会による接待疑惑調査では、当初対象になっていた中島前副知事を含む現職とOB計13人から、ほかの部長や次長級幹部にまで疑惑が拡大している。県庁内には「まだ関係者が増えるのでは」との声もあり、問題の全容解明にはほど遠い状況だ。
麻生渡知事は起訴後の会見で「県政への信頼を損なった」と謝罪し、調査委の調査を優先させるため、今月下旬としていた調査結果の集約を先送りすることを表明した。当然のことだろう。
町村会元幹部が事務用品の架空請求などで同会から詐取し、県幹部の接待などに使う裏金になったとされる金は、まさに公金である。疑惑が事実なら県民に対するとんでもない裏切り行為といえる。今後も徹底した調査が求められる。
前副知事を長年にわたり重用してきた麻生知事の任命責任や監督責任も、厳しく問われる。会見で知事は任命責任にも触れたうえで、自らも減給などとする方針を示した。しかし、問題発覚後の知事の言動を見ていると、本気で責任を感じているのか疑問を感じざるを得ない。
知事は24日開会の定例県議会で副知事の後任人事案提出を模索したという。自ら先頭に立ち真相解明に努めることが、失われた県政への信頼を回復する第一歩のはずだ。これでは順序が逆だろう。
県議会の消極的対応も気になる。詐欺事件発覚から約3カ月。ようやく定例会で、知事に対して問題の早期解明などを求める決議を全会一致で採択したが、市民団体が求めた知事や副知事ら特別職対象の政治倫理条例制定など、再発防止の具体策は盛り込まれなかった。
約15年前の県の公金不正問題では、特別委員会を設置して追及したはずだ。今回は、町村の意見をまとめて国や県に代弁する町村会と県の、信じ難い癒着である。前副知事と町村会長の汚職事件では、福祉行政がゆがめられたことさえ指摘されている。県の調査を待つまでもなく、議会としても積極的に真相解明に取り組むのが使命ではないのか。
それにしても、県と並んで当事者であるはずの町村会の及び腰な対応も、首をかしげたくなる。山本会長は会長職ばかりか、町長職にもとどまったままだ。町村会の理事会は会長の進退について「本人次第」との姿勢だ。トップ不在の添田町では、町政刷新派と町長擁護派との間で対立が顕在化しているという。
地方分権の重要性が指摘されるなか、受け皿の自治体がこの状態では、あまりに心もとない。いまほど、県や町村の自浄能力が問われているときはない。
=2010/02/25付 西日本新聞朝刊=