「源氏物語」には囲碁を打つ場面が時々出てくる。2人の女性が打っているのを光源氏がすだれのすき間からこっそり見る場面もある
▼「そこは持(じ)(セキ)でしょ。こちらの劫(こう)を先に片づけましょう」「ここは何目かしら、どれどれ」。そんな会話も2人は交わす。紫式部も囲碁を打ったという。今で言えば初段クラスだったのでは、とみる研究者もいる
▼百科事典などによると、囲碁は遣隋使の時代には伝来していたとされる。「枕草子」を書いた清少納言も打ったようだ。時代を下って江戸時代の有段者一覧表には女性の名も見られる。女性同士が碁盤をはさむ姿は浮世絵にも描かれている
▼歴史に教わるまでもなく、現代のプロ囲碁棋士の世界で女性が活躍の場を広げても何の不思議もない。囲碁界では男性も女性も区別しない。女性棋士もすべての公式戦に出場資格を持つ。勢力図では男性のほうが上を行くが…
▼先日、女性が記録をつくった。小学5年生の藤沢里菜さん(埼玉県出身)が史上最年少で棋士試験に合格した。プロになる今年4月時点での11歳6カ月は、趙治勲25世本因坊が持つ11歳9カ月を42年ぶりに塗り替える
▼父親も現役棋士で、祖父は盤上の芸を追求した藤沢秀行名誉棋聖(昨年没)。伝説の碁打ちの孫は「最年少記録は狙っていました」とあっさり言う。長く伸ばした髪が碁盤に触れそうな打ち姿は、源氏物語の世界もかくや、と思わせる。
=2010/02/22付 西日本新聞朝刊=