トヨタ自動車は大規模リコール(回収・無償修理)問題で揺らいだ信頼の回復に向け、アクセルよりブレーキを優先させるシステムの全車種搭載など安全・品質管理体制の強化を急ぐ。だが、問題の震源地の米国では、豊田章男社長が米議会公聴会に出席しない意向を示したことにメディアなどの批判が広がっており、事態打開の道筋は見えていない。【大久保渉、ワシントン斉藤信宏】
トヨタの安全・品質対策の目玉はブレーキペダルを踏み込めば、アクセルがどんな状態でも減速し、停止機能が優先される「ブレーキ・オーバーライド・システム(BOS)」の全車種への搭載だ。フォルクスワーゲンなど独メーカーや日産自動車がすでに搭載しているが、トヨタは従来「既存の制御システムでも誤作動時の安全機能はある」とBOS搭載に消極的だった。
しかし、フロアマットやアクセルペダル部品の不具合により米国で延べ800万台に及ぶ大規模な自主改修・リコールをしたトヨタに対し、消費者の不安が拡大。メディアや専門家から「BOSを採用していないのも、米国で急加速が報告されている原因ではないか」との声が出ていた。
BOS搭載車なら、たとえアクセルがフロアマットに引っかかり急加速しても、ブレーキさえ踏めば、確実に車を止められる。世界で生産する全車種にBOSを搭載すると方針転換したことについて、トヨタの佐々木真一副社長は「顧客の懸念を軽減できる」と説明。ユーザーの不安に歯止めをかけるため、コストが掛かるBOS搭載を決断したことを明らかにした。
トヨタはさらに、米国での顧客の苦情にきめ細かく対応するため、不具合の原因究明の拠点「技術分室」を現行の3カ所から増やす。「情報収集の網の目を細かくし、原則24時間以内に現地に向かい、調査できる体制を目指す」(佐々木副社長)方針だ。
さらに、日米欧など主要市場ごとに品質特別委員「チーフ・クオリティー・オフィサー」を任命。豊田社長自らがトップとなり、全体の取り組みが機能しているか点検する「グローバル品質特別委員会」を本社に設ける。豊田社長は「よりお客様に近い目線で経営判断できる」と信頼回復の一歩にしたい考えを強調している。
豊田社長が17日の記者会見で、米議会の公聴会に出席しない意向を表明したことについて、米国では「企業が危機に直面した時こそリーダーシップが問われる」(米紙ニューヨーク・タイムズ)と豊田社長に早期の訪米と公聴会への出席を求める報道が相次いだ。
米ABCテレビは「経営トップは逃げたのだろうか」と豊田社長の姿勢を批判。米紙ウォールストリート・ジャーナルも社長会見について「(トヨタにとって)最大の市場である米国を訪問する日程はあいまいなままだった」と皮肉をこめて報じた。また、ペンシルベニア大学のマイケル・ユーシム教授は、ニューヨーク・タイムズの記事で「世界の目がトヨタに注がれている今こそ最高経営責任者が前面に出ることが必要だ」と指摘した。
米議会でも、24日に公聴会を開く下院監視・政府改革委員会のアイサ筆頭理事(共和)から「トヨタは日本の本社に経営の決定権があると言われている。北米トヨタの社長証言だけで十分なのか」など、批判的な見方が出た。公聴会は、23日の米下院エネルギー・商業委員会を皮切りに3回にわたって開かれるが、米国の世論の動向次第で、豊田社長の出席を求める声が強まる可能性もありそうだ。
毎日新聞 2010年2月19日 東京朝刊