「契約は更新しないので出て行ってください」。間もなく切れる部屋の賃貸延長を不動産会社に申し出たら、オーナーの非情な通告が返ってきた。
思えば三十代のオーナー夫婦は昨年春から、投資目的で買ったこの部屋を売りに出していた。「買い手候補がいるので部屋を見せてくれ」と何回も言われ、十回ほど立ち会った。だが何が悪かったのか、買い手はつかない。オーナー夫婦は「邪魔者」の日本人住人を追い出さないと売れないと踏んだようだ。
新居探しはこの不動産会社に頼んだ。「日本人は部屋を奇麗に使うからぜひ入居してくれ」という優待物件もあった。でもあまり動きたくなかったので、同じマンションの別の部屋に決めた。
契約直前にちゃんとオーナーの素性を確かめた。不動産会社の担当者は「上品な感じの女性の大学教授です。高齢の母親に住んでもらおうと買ったそうです」。今度は追い出されることはないと思いたい。 (築山英司)
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