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【政治】

米在住家族分も負担  沖縄海兵隊グアム移転

2010年2月24日 朝刊

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 二〇〇六年五月に日米合意した「米軍再編」に基づき、日本側が負担する米海兵隊の家族住宅建設費の中に、米本土からグアムへ移転する家族分まで含まれていることが分かった。日本側は二十五億五千万ドル(約二千三百二十億円)をかけて、三千五百戸の家族住宅を建設するが、米国から移転する家族分まで負担することは議論を呼びそうだ。

 防衛省は、在日米軍の再配置に必要な費用を「リロケーション(移転費)」として負担してきたが、国外への移転で負担するのはグアムが初めて。まして米国から米国への移転費用を肩代わりするのは前例がない。

 米軍再編の合意文書には、沖縄の負担軽減策として「海兵隊八千人とその家族九千人は沖縄からグアムに移転する」と明記されているが、実際の沖縄在住者は「海兵隊一万二千四百二人、家族七千五百九十八人」(〇八年九月、沖縄県調査)にすぎない。海兵隊八千人が移転すれば、残りは四千人強となって抑止力に不安が生じ、また家族はゼロ以下になるため、合意内容が疑問視されていた。

 これまで政府は「移転する海兵隊は実員数ではなく定数、家族はその定数を踏まえた概数」(〇九年二月二十六日衆院予算委、当時の中曽根弘文外相)とするだけで、実員で何人移転するのか、また家族は沖縄在住の全員が移転するのか不明だった。

 米本土からグアムに移転する家族について防衛省幹部は「米軍にとって沖縄は海外だから単身赴任者もいる。しかし、グアムは米領土のため、基本的には家族を帯同することになる。家賃は徴収する」と本紙の取材に回答。米国の家族のための住宅提供は沖縄海兵隊のグアム移転に伴う出費と説明した。現時点で米本土から移転する家族数は「分からない」としている。

◆解説

 米軍再編の目標のひとつ「沖縄の基地負担軽減」が実現する見通しが不透明になってきた。グアムに移転する家族九千人の中に、米本土からの移動が含まれることが判明し、合意文書に書かれた「沖縄からの移転」は文面通りには受け取れないからだ。

 家族住宅三千五百戸の建設は、日米合意した沖縄の海兵隊八千人とその家族九千人が移転するという想定に基づくが、日本政府は実際に移転する人数を掌握していない。

 その一方で、グアム移転経費のうち、日本の負担は六十億九千万ドル(約五千五百四十億円)と決まり、昨年二月には米国との間で司令部庁舎や、単身者が住む隊舎などの建設に二十八億ドル(約二千五百五十億円)を米国に支払う「グアム移転協定」を締結した。同協定に基づき、二〇〇九年度は三百四十六億円、一〇年度は四百六十八億円を支出する。

 隊舎、家族住宅の建設費として米国に支払うカネはヒトケタまではっきりしているのに、定数分の隊舎、家族住宅を造るのか、それとも実数に合わせて減らすのか、その方針さえも明らかになっていない。

 防衛省幹部は「移転する人数に合わせるから、空き家は造らない」と言い、実際の家族住宅の建設戸数が減る可能性を示唆する。

 それは沖縄から移転する兵員数が想定より少なくなることを意味し、普天間飛行場の移設をめぐり、政府部内で「県内たらい回し案」が浮上する中、沖縄の負担軽減は遠くなるばかりだ。 (編集委員・半田滋)

 

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