「アイ・ドント・ラブ・コングレス(連邦議会を愛していない)」。祝日であるプレジデンツ・デーの2月15日、インディアナ州選出のエバン・バイ上院議員(民主党)が突然、今年11月の中間選挙には出馬せず、議員を引退する意向を発表した。議会に対する“離縁状”はワシントンに衝撃を与え、ニュースはこれ一色になった。
引退理由は、議会の民主・共和両党が党派党利にのみ執心で、何も決まらない機能不全に陥っているのに失望したというもの。16日の翌朝、ABCに出演したバイ議員は、さらにショックな言葉を口にした。
「(議会にいるよりも)民間にいた方が、雇用を創出し、若い人の教育を支援するなど、より意味のあることができる。議会は、国民の真の利益になることよりも、愚かな党派主義と党略にだけ支配されている。与野党ともに歩み寄りということを知らない」
バイ議員は、オバマ政権の副大統領候補リストに最後まで残っていた民主党の重要人物で、父親も上院の重鎮だった。保守色が強いインディアナ州で、60%以上という高い得票率で2回の当選を果たしている。今年の中間選挙のために集めた資金は1300万ドル(約12億円)に上り、3選は確実だった。しかし、最近は議会発言も減り、投票には現れるものの、滞在時間は限られていたという。
その“機能不全”議会で、日米メディアの今週の焦点は、トヨタ自動車のリコール問題に対する委員会公聴会だ。下院エネルギー・商業委員会は23日、下院監視・政府改革委員会が24日という日程。
豊田社長に招請状を送った下院監視・政府改革委員会委員長は、ニューヨーク州選出のベテラン黒人議員、エド・タウンズ氏(民主)。同委員会は、政府調達、省庁サービス、IT(情報通信)政策などの問題について調査する権限を与えられている。なぜ、民間のトヨタ製品が調査の対象に、という疑問も浮かぶが、リコール問題を徹底調査し、国民の不安を払拭するというのが、「建前」。しかし、テレビ中継され、議員の顔が大写しになる、有権者向け「政治ショー」の場でもある。
日本では「トヨタ叩き」という見出しが躍っているが、普通の米国人は「なぜ、品質のトヨタにこんなことが起きたのか」と困惑しているというのが事実だ。当然、原因解明は世論の要請だし、それに応じるのが議員の仕事、というシナリオだ。
しかし、それをあえて引き受ける、議員の苦しい現状も理解しておくべきだ。
ニューヨーク・タイムズとCBSの世論調査によると、75%の回答者が現職議員を支持しないと答え、現職が再選されるべきと答えたのはわずか8%だった。
トヨタにとって委員会公聴会は、最大の正念場。しかし、有力上院議員が離縁した議会に残されている議員にとっても、有権者が満足できる原因究明、その姿勢をみせられるのか、今年11月に向けてクビがかかっている。
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津山恵子(つやま・けいこ) フリージャーナリスト
東京生まれ。共同通信社経済部記者として、通信、ハイテク、メディア業界を中心に取材。2003年、ビジネスニュース特派員として、ニューヨーク勤務。06年、ニューヨークを拠点にフリーランスに転向。08年米大統領選挙で、オバマ大統領候補を予備選挙から大統領就任まで取材し、AERAに執筆した。米国の経済、政治について「AERA」「週刊ダイヤモンド」「文藝春秋」などに執筆。著書に「カナダ・デジタル不思議大国の秘密」(現代書館、カナダ首相出版賞審査員特別賞受賞)など。