ミカンに「ありがとう」「死ね」と話し掛け、変化の有無を観察する「言霊(ことだま)大実験」が昨秋、県南地域の中学校であった。言葉の大切さを考える道徳学習だという。
対象はビンに入れた3個のミカン。約2カ月後、生徒から悪い意味の言葉を掛けられた方が腐り始めた。良い言葉の方は変化なし。発案した教諭、そして多くの生徒が「言葉が伝わったのでは」と思ったという。
言霊とは、言葉が霊的な力を持つという信仰だ。そして人は、古くから森羅万象に魂が宿ると信じてきた。位田晴久・宮崎大学教授(野菜園芸学)は「園芸作物を育て、心の癒やしや安らぎを得る効果は間違いなくある。若い世代が事実の検証を重ねて不思議な現象を明らかにすることに期待したい」としたうえで、「植物に人間の言葉の持つ意味を理解する器官は確認されておらず、現時点で真理として教えるのは適切ではない」と指摘する。
大阪大の菊池誠教授(物理学)も「ミカンはただの物質で、言葉の影響を受けるとは考えられない。少数での実験結果は偶然に左右される。気持ちはわかるが勇み足だ」と疑問視する。
子供の理科離れが指摘されるなか、真偽不明の事柄をあたかも事実のように扱うことには違和感がある。心に平穏を与える宗教やおとぎ話を否定はしないが、世間には科学や善意のふりをしたまがい物が数多くあるからだ。
病気や美容への効果をうたう商品やサービスを巡る詐欺的商法は後を絶たない。中学生も数年後には社会人だ。「愛の言霊パワーを封印した限定商品をわずか10万円で」と勧められた時、冷静に判断できるか。健全な批判精神を養うことも、教育には必要ではないだろうか。【石田宗久】
毎日新聞 2010年2月20日 地方版