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社説

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トヨタ公聴会―安全への誠実さが鍵だ

 安全に対する疑念と批判が逆巻くなか、トヨタ自動車の豊田章男社長が米議会下院の公聴会に出席する。大きく傷ついた信頼を回復できるか。まさに正念場である。

 今後もグローバル企業として成長し続けるのか、それとも坂をすべり落ちるのか。トヨタの運命を左右するだけではない。日本の企業や製品全体への信頼に響きかねないとの懸念もあり、豊田社長の責任は重大だ。

 公聴会の論点の中には、新しい疑惑がある。そのひとつが、アクセル部品に絡んでリコール(回収・無償修理)中の主力車種について、トヨタが以前から問題を把握しながらそれを隠し、本格的な対処を避けていたのではないかという疑いだ。

 また、「車が急加速した」という顧客の苦情が相次いだ原因は、エンジンの電子制御システムにあるのではないかという疑いが浮上した。

 さらに、米運輸当局がトヨタのロビー活動を受けてリコールの判断に手心を加えたのではないか、との疑惑も絡む。当局との交渉で「1億ドル(92億円)以上節約した」というトヨタの内部文書まで暴露されている。

 議員らの質問や追及は、かなり厳しいものになるに違いない。それに社長がきちんと答え、説明責任を果たすことができれば、信頼回復への契機とすることもできよう。

 だが、ここに至るトヨタの対応はグローバル企業とは思えない拙劣なものだった。ハイブリッド車プリウスのブレーキ問題も今回の公聴会出席も、当初は担当副社長や北米トヨタ社長に任せる構えで、批判を浴びてから社長が乗り出すありさまだった。

 昨年6月に発足した豊田社長体制の未熟さなど、さまざまな問題が噴き出した観がある中での公聴会出席だ。率直かつ明快な説明を貫き、安全と品質への責任から逃げない誠実なリーダーシップを示すことができるのか。トヨタと豊田社長の真価が問われようとしている。

 トヨタ批判は米国で過熱している。連邦大陪審がトヨタに資料を請求し、刑事事件になる可能性も出てきた。

 「高慢」「無神経」といったレッテルは従来、米自動車大手などに張られてきたが、トヨタが世界の首位に立ち、ゼネラル・モーターズとクライスラーが国有化されるに至り、風当たりがきつくなった。逃れられない試練という一面もあるのだ。

 一方で、トヨタの米工場がある州の知事たちは議会に公正な対応を求める書簡を送った。貿易摩擦を背にした、かつての日本車たたきとは様相がだいぶ異なっている。

 世界の消費者も注目している。米政府や議会には、真相解明に徹する冷静さを望みたい。

高校無償化―朝鮮学校除外はおかしい

 高校無償化法案の国会審議が始まるのを前に、中井洽・拉致担当相が、在日朝鮮人の子弟が通う朝鮮学校への支援はすべきでない、と川端達夫・文部科学相に要請した。

 北朝鮮は国際的な非難や制裁にもかかわらず核・ミサイル開発を進め、日本人拉致問題解決への協力も拒み続ける。その北朝鮮を支持する在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の影響下に朝鮮学校があることが、理由のようだ。

 北朝鮮という国家に日本が厳しい姿勢をとり、必要な外交圧力を加えるのは当然だ。しかしそれと、在日朝鮮人子弟の教育をめぐる問題を同一の線上でとらえていいのだろうか。

 全国各地にある朝鮮学校のうち、高校課程に相当する高級学校は、現在10校。2千人近くが学んでいる。

 朝鮮学校は日本の敗戦後、在日朝鮮人たちが、母国語を取り戻そうと各地で自発的に始めた学校が起源だ。1955年に結成された朝鮮総連のもとで北朝鮮の影響を強く受け、厳格な思想教育が強いられた時期もある。

 だが在日の世代交代が進む中、教育内容は大きく変わった。大半の授業は朝鮮語で行われるが、朝鮮史といった科目以外は、日本の学習指導要領に準じたカリキュラムが組まれている。

 北朝鮮の体制は支持しないが、民族の言葉や文化を大事にしたいとの思いで通わせる家庭も増えている。

 かつては全校の教室に金日成、金正日父子の肖像画があったが、親たちの要望で小・中課程の教室からは外されている。そうした流れは、これからも強まっていくだろう。

 学校の経営はどこも苦しい。自治体からの助成はあるが、国の支援はゼロ。年額40万円ほどの授業料に寄付も求められ、家庭の負担は重い。

 高校無償化は、すべての高校生らが安心して勉学に打ち込める社会にしよう、という政策だ。

 先月に閣議決定された法案は、国公私立の高校や高等専門学校に加え「高校課程に類する各種学校」を対象とする。ブラジル人学校や中華学校、朝鮮学校なども想定されていた。

 外国籍の子も含めて学ぶ権利を保障することは、民主党がめざす教育政策の基本でもある。朝鮮学校の除外は、こうした理念からはずれる。

 朝鮮学校に通う生徒も、いうまでもなく日本社会の一員である。

 川端文科相は昨日、無償化の対象を決める際に「外交上の配慮、教育の中身は判断材料にならない」と述べた。

 中井担当相は一度、川端文科相とともに朝鮮学校を視察してみてはどうだろう。

 そこで学んでいるのは、大学を目指したり、スポーツに汗を流したり、将来を悩んだりする、日本の学校と変わらない若者たちのはずである。

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