きょうの社説 2010年2月24日

◎「医療観光」の推進 石川の可能性を広げたい
 健診・医療と観光を結びつけた「メディカル・ツーリズム」(医療観光)で海外の富裕 層などを呼び込もうという取り組みに、政府が本腰を入れ始めた。経済産業省のモデル調査事業に七尾市の恵寿総合病院が参加したが、医療機関が集積し、日本文化や豊かな食、温泉などに恵まれた石川県は、国際的な医療観光の潜在能力が高いと言える。

 日本は韓国やタイ、シンガポールなどに比べ、医療産業の国際化の面で遅れを取ってい る。今後、国際的な医療観光を広げていくには、医療通訳の育成や治療目的の入国ビザ制度の整備など政府レベルの課題が幾つもあるが、自治体としても、戦略的にその可能性を広げる取り組みを強化していく価値があるだろう。

 観光庁によると、外国人向けの医療観光の市場は近年、アジア圏で急成長しており、タ イでは治療目的の外国人旅行者を年間120万人も受け入れている。韓国も政府挙げて、美容整形や健診、伝統的な韓方医学などの分野の医療観光に力を入れており、2012年までに欧米や日本などからの誘客を年間10万人に増やす目標を立てている。そのために、治療目的のための専用ビザを発給するようになった。

 日本の病院では、海外から患者を呼び込むという意識が薄く、人的な対応力も乏しい。 しかし、日本の医療に対するアジアの人たちの信頼感は厚いといわれ、観光ビザでも可能な健診サービスを手始めに医療観光の道を広げていくことは大いに可能であろう。

 石川県内では、海外の富裕層の観光誘致を図る活動が強まってきたところであるが、先 端技術を駆使した高度な健診、人間ドックも誘客の要素になりうる。医療による地域の国際貢献策の一つと位置づけることもできる。

 自治体の試みでは、例えば、糖尿病の死亡率全国ワースト1位の徳島県は、これまでの 糖尿病克服の活動実績を生かし、中国から患者と旅行業者を招いて糖尿病検査と観光をセットで体験してもらうモデルツアーを今春実施するという。医療観光の可能性を広げる戦略的な取り組み例である。

◎沿岸捕鯨の再開提案 歩み寄る姿勢がほしい
 調査捕鯨を10年間停止する代わりに、日本が求めている沿岸小型捕鯨の再開を容認す るとした国際捕鯨委員会(IWC)の議長提案を、もつれた糸を解きほぐす突破口にしたい。提案は捕鯨国と反捕鯨国の双方が歩み寄る機会を提供するものであり、日本政府は交渉に応じる構えである。妥協の余地を認めず、自分たちの主張をごり押しするだけでは決して解決しない問題であり、反捕鯨国もかたくなな態度を改め、歩み寄る姿勢を見せてほしい。

 提案は、2020年までの暫定措置として、マキエラ議長(チリ)が作成した。南半球 のザトウクジラや北太平洋のミンククジラなどについて海域・種別ごとに捕鯨頭数の上限を設定している。「日本東沿岸域のミンククジラ」が含まれていることから日本の沿岸捕鯨再開を事実上認めたものである。

 IWCとしてはこの提案を機に、これまでの商業捕鯨や日本の調査捕鯨、グリーンラン ドの先住民捕鯨などをまとめて管理下に置きたいのだろう。IWCは議長提案をたたき台に、3月に開く中間会合と作業部会で議論し、6月の年次総会で合意を得たい考えだ。

 捕鯨の上限頭数は今後の交渉の中で詰めるとはいえ、全体の捕鯨頭数を大幅に削減する 方向なのは間違いなく、日本の捕鯨頭数の削減も免れない。調査捕鯨がこの先どうなっていくのか、全体として合意可能な案なのか、現段階ではまだ判然としない。

 ただ、こう着状態となっているIWCの議論を打開するためには、妥協も必要である。 網走(北海道)、鮎川(宮城県)、和田(千葉県)太地(和歌山県)の四地域で、伝統的な沿岸捕鯨が再開されれば、地域の活性化にもつながる。赤松広隆農林水産相は会見で「譲るべきところは譲り、柔軟に対応したい」と述べている。

 問題は反捕鯨国の強硬な姿勢だ。縄文時代から捕鯨を行ってきた日本の歴史や伝統文化 を尊重せず、「鯨を殺すな」という価値観を一方的に押し付けてくる一部の反捕鯨国の態度は目に余る。彼らが歩み寄る姿勢を示すなら、打開策は必ず見つかるはずだ。