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更新:2009年8月19日 10:00ビジネス:連載・コラム

ものづくりの現場

「2つの手ブレ」を補正 積年の課題に挑んだキヤノンの開発者魂

 キヤノンは7月、デジタルカメラの「角度ブレ」と「シフトブレ」の両方を光学的に補正する「ハイブリッドIS(Image Stabilizer)」技術を開発したと発表した。2種類のブレを光学的に補正する技術は世界初という。(千葉はるか)

 従来、キヤノンが一眼レフカメラ用交換レンズに搭載していた手ブレ補正機能は、角速度センサーによって検出した角度ブレのみに有効なものだった。角度ブレは通常の撮影、特に望遠時に影響が大きい。

 一方、マクロ撮影など近接領域で問題となるのは、撮影面に対してカメラが並行に動くことによるシフトブレ。ハイブリッドISは、新たに加速度センサーを搭載することによって2つのブレを補正する。

イメージコミュニケーション統括開発センター主任研究員の能登悟郎。91年にキヤノンに入社し、2000年からカメラの要素技術開発担当に。現在は一眼レフカメラ交換レンズの手ブレ補正機能の開発を手がけている。手に持っているのは初めて開発を担当したレンズ「EF-S18-55mm F3.5-5.6 IS」

■加速度センサーのサイズが壁に

 「シフトブレは交換レンズの手ブレ補正で積年の課題でした。写真好きの方にとっては『ついに登場するか』という技術だと思います」。そう話すのは、ハイブリッドISで手ブレ補正のアルゴリズム開発を担った能登悟郎(のと・ごろう)だ。

 キヤノンが手ブレ補正の研究を始めたのは1980年代、初めて光学式手ブレ補正機能を搭載した交換レンズを世に送り出したのは95年のこと。しかし、シフトブレは長いこと手ブレ補正の課題として認識されながら、解決に至っていなかった。理由は、加速度センサーのサイズにある。

 「シフトブレの補正に加速度センサーの搭載が必要なことはわかっていました。しかし、従来の加速度センサーではサイズが大きすぎ、製品開発に着手できなかった。シフトブレ補正の研究は細々と続いたものの、製品化に踏み切れるだけのサイズと性能を持つセンサーは、調達のメドが立たないままでした」

 研究が本格化したのは、センサーメーカーから「これならひょっとして」と思える加速度センサーが出てきたことがきっかけだったという。開発はまず、加速度センサーの評価からスタートした。

 「手ブレによって生じる加速度は非常に小さく、その微細な動きを検知できる感度が求められる。一方で、カメラ内のノイズを拾って手ブレと誤認しないだけの精度も必要です。センサーの選定だけで1年以上を要しました」

■ゼロからのアルゴリズム設計

 加速度センサーがある程度まで絞り込めた段階で、能登はハイブリッドISのアルゴリズム開発に着手した。

 「アルゴリズム開発では、まずセンサーが感知した信号がどんなブレによるものかを調べるために、実際に撮影してデータを収集します。それをどう補正するか。つまり、補正の係数を求める計算式を考えるわけです」

 ハイブリッドIS開発の大きなハードルは、実はこのアルゴリズムにあった。角度ブレ補正のアルゴリズムは長年にわたる研究と製品化によって積み上げた実績があるが、ハイブリッドISでは2つのセンサーの情報を融合して最適に補正しなければならない。それは、アルゴリズムをゼロから設計し直すことだった。

 「手ブレ補正機能の開発には光学設計、機構設計、電気回路設計、アルゴリズム設計などが必要です。当初は私が機構とアルゴリズムを担当するという話もあったのですが、途中で機構設計は別の担当者に任せ、アルゴリズムに専念しろとなりました。アルゴリズムの新規設計は、それだけ負担が大きかったともいえますね」

■姿勢が違えばブレも変わる

 撮影データの収集には、人海戦術をとらざるを得ない。手ブレは個人差が大きく、ある人の撮影ですべてのカットが補正できたとしても、別の人が試すと8割しか補正できないということが起こる。

 さらにシフトブレ補正の評価では、姿勢をさまざまに変えて撮影する必要もあった。マクロ撮影では、腹ばいになったり下を向いたりしてカメラを構える。それぞれの姿勢でブレ方は変化するのだ。

 「開発メンバーを含め、数十人が撮影を行いました。考えうるありとあらゆる姿勢を試して、一つの姿勢で何十枚撮ったでしょうか。角度ブレのみの開発時と比べれば、撮影と評価に倍以上の時間がかかった。開発当初から合わせると、撮って確認した写真は数十万枚に上りました」

 こうして実際に撮影しながら、収集したセンサーの信号をパソコンに取り込んで補正処理のシミュレーションを重ね、アルゴリズムを修正していく。しかしシミュレーション上はうまく補正できても、実際に撮影してみると修正前より結果が悪くなることも多い。

 「シミュレーションより結果がいいということはあまりないものなんですよ(笑)。とにかく直す、試す、直すの繰り返しです」

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