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このままでは反転攻勢はおぼつかない。鳩山由紀夫首相と民主党は、この事態を深刻に受け止める必要がある。
夏の参院選の前哨戦とされた長崎県知事選で、民主など与党3党が推薦した元農水官僚が、自民、公明両党が支援した前副知事に大差で敗れた。
昨年の総選挙では、長崎県内の4小選挙区すべてで、民主党候補が勝った。長崎は選挙区選出の参院議員2人も民主党が占める民主独占県だ。
国政と地方選挙の違い、候補者の力量や知名度の違いはもちろんあろう。それでも、民主党の失速ぶりをはっきり見せつける結果である。
首相や小沢一郎幹事長の政治資金問題が影響したことは間違いない。首相も記者団に「政治とカネの問題の影響を受けた」と認めた。
同じ日曜日の東京都町田市長選でも、民主党など与党推薦候補が、自公が支援した現職に敗れた。昨年の都議選、総選挙で民主党候補が躍進した地域。ここでも民主退潮を印象づけた。
内閣支持率の低下にも歯止めがかからない。朝日新聞の週末の世論調査では、政権発足後初めて4割を下回った。鳩山政権は民心が離れつつある現実を見据え、本気で政権立て直しに取り組まなければいけない。
まずは政治とカネの問題である。小沢氏はいまだ、国会の場での説明に応じていない。石川知裕衆院議員の辞職勧告決議案もたなざらしのままだ。
小沢氏は国会の参考人招致などに応じる。決議案は粛々と採決する。それが最低限のけじめであろう。
政治家本人の監督責任の強化や企業・団体献金の禁止など、政治資金規正法の抜本改正の議論も、予算審議と並行して進めてほしい。
もうひとつは、いま地方が何を求めているのか、その切実な声に真摯(しんし)に耳を傾けることだ。
長崎で示された民意は、なにも民主党の政治とカネの問題に対する批判ばかりではない。むしろ、最大の争点は、人口流出が続き、疲弊する地域社会をどう立て直すかだった。
政権交代から5カ月。県民に生活向上の実感があれば、選挙結果はまた違ったものになっていたかもしれない。
ところが、民主党が見せたのは、政権党の強みをちらつかせて、自民党を支援してきた業界団体を引きはがそうという利益誘導まがいの姿だった。これで、地域に生きる人たちの共感が得られるとは思えない。
一方の自民党は勝利に力を得て、与党への対決姿勢を強め、予算委員会の審議を拒否した。これもまた、民意をはき違えていると言わざるをえない。
有権者が求めているのは、国民生活のための徹底した政策論議だ。それがわからないようでは、参院選に向けた党勢回復にはつながるまい。
米国の「核の傘」のもとにある日本と豪州の外相がパースで会談し、核軍縮に向けた重要な一歩をしるした。核兵器の役割を減らすために、核戦略の修正も含めて議論を深めていくことで合意したからだ。
日本はこれまで、核廃絶を主唱しながらも、米国の核戦略にはあまり正面から意見を言ってこなかった。「核の傘」にいることに起因する自制があったのは否めず、それが日本の核軍縮外交の隘路(あいろ)ともなってきた。政権交代で外相となった岡田克也氏はそれに挑み、今回の共同声明に結びつけた。
日豪外相は次のような点で一致した。「核のない世界」への第一歩となる具体的手段として、非核国への核兵器使用を禁止する安全保障(消極的安全保障)や、核兵器を保有する目的を核攻撃の抑止に限定する考え方(唯一の目的)は検討に値するものであり、議論を深めていく。
「唯一の目的」や「消極的安全保障」を核保有国に求めると合意したわけではない。だが、「核の傘」に入っている両国が核戦略のあり方を問い直す姿勢を見せたことは、今後の核軍縮論議に突破口を開いたと言えよう。
日豪主導の国際賢人会議が昨年12月にまとめた最終報告書は、2012年までにすべての核保有国が「唯一の目的」宣言をするよう求めている。法的拘束力のある「消極的安全保障」も促している。日豪政府で議論を深め、この提言の実現に向けた外交戦略を練りたいものだ。
岡田外相は昨年12月、クリントン米国務長官に書簡を送った。直ちに実現しないまでも、「唯一の目的」や「消極的安全保障」を政策として適用する可能性について論議を深めたいとの意向を伝えている。
米政府は現在、「核戦略見直し」を進めている。「唯一の目的」や「消極的安全保障」も検討課題になっているようだ。「核のない世界」をめざすことを宣言したオバマ大統領のもとでの見直しである。ぜひとも、核の役割を減らす道を広げて欲しい。
オバマ大統領の呼びかけに呼応し、政治主導で核世界の現状を変えようとする動き。それはアジア太平洋にとどまらず、欧州でも始まっている。原動力は、自国に配備された米国の核兵器の撤去を求めているドイツのベスターベレ外相だ。1月に来日した時、岡田外相との会談で、「核ゼロ」に向けて日独が主導的な役割を果たしていくことを確認した。
歴史を振り返ると、核軍縮が前に進んだのは、強い熱意を持つ政治指導者が時代を大きく変えようと動いた時だ。岡田外相には、日豪、日独外相会談の成果を足場に他の国々の政治家とも連携しながら、政治主導の外交で核軍縮を加速してもらいたい。