ブライツコンサルティング代表に聞く
[Interview]商標とドメイン名で統一的ポリシー作成を
2010/02/19
「itmedia.jpやitmedia.co.jpだったら、それが日本のドメインと分かっても、itmedia.ccがオーストラリア領ココス島の国別コードとは、ほとんどの人には分からないのではないか。.ccのように誰も取れるドメインでは、本当にitmediaという企業のものかどうかも分からない」。
ドメイン名はこれまでWebサイトの信用性をある程度担保する仕組みとして機能してきた面があるが、グローバル化が進む現在さまざまな問題が噴出している。こう指摘するのは、ドメイン名と商標の管理・運用について法人向けにコンサルティングを行うブライツコンサルティング代表取締役社長の高津竜司氏だ。
ccTLDと呼ばれる国別コードは全部で250種類程度、「co.jp」「ne.jp」のような第2レベルまで入れると、350種類程度存在する。数多くあるマイナーなTLDで特定企業のブランドを騙り、フィッシングサイトやイミテーション品販売サイトなど悪質なサイトを運営するケースが増えているという。
さらに最近ではメジャーなサービスでも見慣れないccTLDを使うケースが増えている。例えば「.tv」(ツバル)はテレビ局やストリーミング関係で使われているし、短縮URLサービスでは「goo.gl」(グリーンランド)、「bit.ly」(リビア)、「j.mp」(北マリアナ諸島)など、その国とは関係なく語呂の良さだけで取得するケースがあり、目にする機会も増えている。こうなってくると、自社ブランドと見知らぬccTLDの組み合わせが“欠番”であるのか、それとも存在しているのか気になってくるだろう。
「弊社では世界中にある約350のドメイン取得に対応できるが、よほどの大手企業でもない限り、全取得は難しい。この場合、特定の文字列が含まれるドメインを監視するのがベターだ」(高津氏)
ブライツコンサルティングでは、従来の商標やドメインの管理機能に加えドメイン名でブランドの侵害がないかを監視するWebアプリケーション「BRANTECT」を無償提供している。指定した文字列で検索をかけて、どのドメインが取得されているのをまとめて調べることもできるという。ドメインが存在していれば、当該Webサイトのトップを画面キャプチャとして収集、画面に変化があるたびにキャプチャを自動で行うなど監視ツールとして利用できるという。BRANTECTではオークションサイトに出品される“偽ブランド品”の監視も可能だ。
ノウハウの蓄積がモノを言う小国のドメイン取得
ブライツコンサルティングは2004年創業のベンチャーだが、商標とドメインを統一的に管理する企業向けコンサルティングというユニークなポジションで大手企業など約400社の顧客を持つという。一般にドメインビジネスは個人向けに薄利多売で行うケースが多いが、いくつかの理由から、同社は企業向けにフォーカスしているという。
1つは商標権(ブランド)と、ドメインはこれまで別々に扱われることが多く、統一的にコンサルティングする競合が少ないこと。これは企業内でも同様の構造があり、「大手企業ですら商標やドメインに関してのポリシー策定が遅れている」(高津氏)という。その背景には、ITに疎い知財部の長老的スタッフと、法務に関心が薄いシステム部で業務が二分化している事情があるのではないかという。そもそもドメインは歴史が浅く、ICANNなどで組織や運用ルールが変化しているという現実もある。
ブライツコンサルティングが企業向けにフォーカスする理由は、日本という立地の有利さもあるという。ドメインの取得・管理や差止請求といった業務は全世界にまたがって各国のレジストラや管轄当局とやり取りする必要があるが、このとき、日本の会社であることは有利に働くという。
「例えばアメリカであれば、中東の国やテロ指定国とはやり取りがしづらい。日本にとってそういう国は北朝鮮ぐらい。また日本という国はお金持ちで、分厚い契約書を送りつけてくるようなこともないと思われている」(高津氏)
商標権を侵害したドメインの不正使用があれば、当該国のレジストラやISPに開示請求を行うが、こうしたやり取りが「日本企業」であることによってスムーズに進むことが多いという。
「馴染みのない小国などになると、細かなノウハウの積み重ね。例えば日本の登記簿をフランス語に翻訳して、フランス語の分かる公証人の承認を取って、さらにそれをその国の大使館に持っていって認証。その上でドメインを申請する、というように非常に多くの工程がある」(高津氏)
現在、同社社員は計14国籍にまたがるマルチリンガル、マルチカルチャーなチームで構成される。
侵害の事例は中国より、むしろ日本が多い
高津氏は今後、ビジネスがグローバル化するにつれて、ブランドやドメインを巡る紛争が多発するのではないかと見ているという。悪意があるかどうかは別として、名称が衝突した結果、「その国でビジネスしたかった人の邪魔をしていることになる場合がある」(高津氏)からだ。
「知的財産権の侵害の事例というと、日本人はすぐに中国を思い浮かべる。しかし、現実には中国よりも日本のほうがひどい場合もある。例えば、中国企業が“青森”という商標を中国国内で抑えようとしたときに日本人は反発したが、日本には“三国志”とか“上海”といった固有名詞が商標化されている。どこの国でも世界各地の地名そのものでは商標化できないことになっているが、日本には“なんとかパリ”とか、“なんとかニューヨーク”、あるいは“コロンブスなんとか”といったものが山ほど権利化されている」(高津氏)
ドメイン名の場合、第三者による不正使用だけが問題なのではない。グループ企業内で、どういったドメインなら取得しても良いかというポリシーがない場合も多いという。「特に日本企業の場合、グローバル進出の速度を自分たちでも認識していなかった。海外に出たら、まず営業。もしも売れたら、その後に権利保護をしようと商標を抑えたり、きちんとドメインを取るということが後回しになってきたのではないか」(高津氏)。
新gTLDで新たなビジネスチャンス
ドメイン関連の動向で、ブライツコンサルティングで現在注目しているのが「.(都市名)」「.itmedia」など3文字以上の任意の文字列の新gTLDだ。3月にケニア・ナイロビで行われるICANNのミーティングで何らかの進展があれば2011年初頭にもスタートすると見ているという。
新gTLDには、例えばISPの@niftyが第三者(ユーザー)に開放して「kozu.nifty」などのドメインを発行するオープンなものと、「itmedia.softbank」のようにグループ会社全体で利用するクローズドなものがあるという。
オープンなものでは、「.(都市名)」などには大きな需要が見込まれる。自治体関連や官公庁、学校など、かなりの組織が利用できるからだ。オープンな新gTLDを事業化するには、ICANNに支払う初期費用は18万5000ドル(約1700万円)、システムのランニングコスト年間約2000万円がかかる。ドメイン1件当りで計算すると、運用コストは3000〜5000円程度となる見込みで、ドメイン数2万件が採算分岐点という。例えば「.jp」ドメインはすでに100万件を超えており、「.都市名」のようなドメインは地域によっては十分に事業化可能と見ているという。
新gTLDの運用ルールでは、2文字のものや類似した文字列の取得はできないことになっている。つまり、キーボードでの打ち間違いを狙った紛らわしいドメインや、既存のccTLDに似たものは取得できない。このため、大きなブランドを抱える企業や、高いセキュリティが求められる金融関連などでは、独自にgTLDを取得するケースが増えるのではないか見ているという。
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