京都に住む染色家・斎藤洋さんの命名だ。
18mの白い布を掛け渡し、みんなで染める。おとな、こども、太陽、風、雲、湿り気、木の葉、時には雨や鳥のふん…。その場に居あわせたものみんなで一枚の布を染める。
そんな野染めを、斎藤さんは全国各地でおこなっている。今回の場所は「るぷぶん」。奈良・桜井駅から歩いて15分ほどのところにある、書家・阪本大雅さんのアトリエだ。斎藤さんと阪本さんの合同作品展があり、その一日が野染めにあてられた。
るぶぶんのお庭はいろんな種類の木や草でいっぱい。桜の葉は赤くなって山茶花が一輪咲いていた。もう花はついていないけれど薔薇の木もあるし、ミントやローズマリーなどのハーブも。藤棚ですかときいたら、すいかずらだとのこと。夏にはいいにおいの花を咲かせるそうだ。
そこに布を張る。布の両端をガリという道具でしっかりと留め、木にくくりつける。全体がピンとなるように伸子を張っていく。
バケツを用意して斎藤さんが「何色がいい?」ときく。赤、青、紫、緑…参加者が好きな色をいう。ペットボトルに入っている染料をバケツで混ぜ合わせて色をつくる。青と黄を混ぜれば緑になるが、二つある青のどちらを入れるかで色調が変わる。バケツは八つ。なぜでしょう、と斎藤さんから質問。(答。八色(発色)がいいから、だそうです)
布の両側にバケツと刷毛を持って散らばる。天の川をはさんで何組かの織り姫・彦星がいるような感じ。
簡単な説明・注意のあと、合図とともに一斉に染め始める。
気がすんだら待っている人にバケツを譲る。また描きたくなったら刷毛をもらう。
全体に色がのった適当なところで斎藤さんがストップをかける。
布が染まっていく。湿度の高い日や風の日は乾くまでに時間がかかり布が揺れるので、布の上で色が混ざり合って微妙なグラデーションが生まれる。晴れた日ならもう少し、それぞれの色が残って乾く。
まだ染料をのせただけなので、雨にあえば色は全部流れてしまう。鳥がふんを落としていって、その部分が白く抜けたこともあるそうだ。
染めた後は斎藤さんにいろいろな布の話をきき、野染めの布で作られた服や小物、人形などを見せてもらう。それから、それぞれお茶を飲んだりお弁当を広げたり。
もう少しして布が乾いたら、斎藤さんが京都の工房へ持って帰る。色どめ作業はそこでおこなわれる。
野染めはお花見みたいだと思う。きれいな色に囲まれて、眺めるというよりその中にいる感じ。人間も風景も一緒に楽しんでいるような気がするからだろうか。
染めの作業の中で色をのせるのは花の部分だ。一番きれいで楽しい。そしてあっという間におわってしまう。
花にはそれを支える幹も枝もある。きれいな花が咲くために、ずっと世話をしている人がいる。秋も終わりで目に見える花は少ないけれど、阪本さんは毎日5時に起きて庭の手入れをしているそうだ。
野染めの前にも後にもいろんな作業がある。地味で目立たないけれど、それがきちんと丁寧にされているから野染めはこんなに楽しいのだろう。そんなことも紹介できたらと思う。