西陣織に使われる伝統的な技法で絵を描く。1877年からつづく箔屋の五代目(になる予定)の野口琢郎さんが描いている絵だ。
ふだんの野口さんは帯のために箔を作っている。
和紙に金属箔を貼り絵模様を作る。できあがったそれを細く裁断して横糸として織り込み、西陣織の帯になる。
箔画では、和紙のかわりに木のボードを使う。ボードの上に漆を塗って金、銀、プラチナ箔を貼りつけていく。赤や青の色は銀を熱処理して出している。
写真だとわかりにくいが、同じ金属箔といってもさまざまな質感のものがある。裁断することを前提にして作るものよりも剥落の可能性が低いので、作品の自由度は高いということだ。
裏は木目が見える程度に漆が塗られ、銘が入っている。
『星月夜』と題された一枚。
「銀箔の部分はゲレンデです。だからリフトの部分にカップルで乗っている人がいます。最初は『夜のリフト』という題をつけたのですが、もっと、それぞれの人に見方はゆだねた方がいいと母に言われて別の題をつけました」
たしかに題名に対するセンスはお母様の方があると思う。しかし、そういう説明を聞きながら絵の隅々を眺めるのは面白い。
技法のせいか装飾性の強い抽象画めいて見えるが、実は作家の意図が細部に描きこまれている。作家の意図を探してみるのも、勝手に誤解してみるのも楽しい。
学生時代は油絵を描いていた野口さんだが、大学の卒業制作には写真作品を提出、その後、写真家・東松照明氏の助手になる。
「家を離れてみて、あらためてその価値がわかったというところがあります。2001年に家業を継ぐための修行に入り、同時にこの技法で新しいものができないかと作品制作を始めました」
蒔絵とも壁画とも少し違う独特の風合いの絵。伝統と創造、装飾性と具象性の微妙なバランスは直接見て確かめてほしい。
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