「泉布」とは「貨幣」、「観」は「館」を意味するそうだ。
造幣寮(現在の造幣局)の応接用建物を「泉布観(せんぷかん)」と名付けたのは明治天皇。現存する大阪最古の洋風建築は重要文化財に指定されていてふだんは入れないのだが、春と秋の数日間だけ一般公開される。
いかにも工事中、の雰囲気を漂わせる無粋な塀に沿って歩くと、廃墟っぽい煉瓦の小屋が見える。すでに屋根はなく、大きな木がはえているが、妙に趣きがある。これは、取り壊された北異人館の作業員室だった建物。
そのまま奥に進むと「泉布観」。
桜の木が多くあるが、花の時期には微妙に早い。大川に面しているが、もちろん柵があって川辺に近づくことはできない。
でも、もし。
―桜の咲く夜。灯りをともした舟から盛装した人たちがあがってくる。白い洋館からは音楽が流れてくる。舞踏会らしい―
映画のようなワンシーン。そんな風景が本当にあったかもしれない、と空想を誘う力は充分にある場所だ。
明治四年落成の建物は、近くで見るとかなり傷んでいる。
保存のため一度に入れる見学者は三十人まで。立ち入り禁止の場所にはロープが張られ、廊下も見学者が歩くところにはカーペットが敷かれている。
「建物の保存のため二階に集中しないでください」と看板のある階段を上がる。
明治天皇行幸のときには玉座の間になったという部屋をはじめ、二階の部屋はほとんど立ち入り禁止。
「保存のためっていうより、床を踏み抜いてケガしたらいけないからじゃないの」と一緒に行った人がいう。そうかもしれない。
廊下から覗くと部屋には大きな鏡が置かれている。
そのままベランダに出る。泉布観は、建物のまわりをぐるりとベランダが巡っている。古びてはいるが、さすがに堂々とした太い石の柱。
ベランダ突きあたりにあるトイレは、入れないので確認はできないが、水洗らしい。
一階の部屋には入れるので、細かいところが見られる。やはり大きな鏡がある。流行りだったのだろうか。
暖炉の脇にはグリフォン。
照明器具には、なぜか顔がついている。なんとなくギリシャっぽい。
豪華なシャンデリア。
カーテンは傷んで布が切れてしまっているが、立派なものだったことが偲ばれる。
手入れが行き届いているとはとてもいえないが、風格というのは確かに残るものらしい。
当時の贅を尽くしたものには一見の価値がある。
◇ OLU project 松岡永子 ◇