【石の鳥居】
有名な石の鳥居。
真西に向いて立っているので、西方極楽浄土の東門と向かい合っているという。『山椒太夫』でづし王丸が抱きついて立ち上がると萎えていた足腰が立った、という鳥居だ。
ふだんはひっそりとしているのだが、盂蘭盆会の頃は出店でにぎわう。
【8月4日「篝の舞楽」】
雅楽と舞は大陸から来たものだ。日本での歴史は聖徳太子に始まる。天王寺雅楽寮は海外文化を取り入れるため聖徳太子が作ったもので、実に由緒正しい。ホールでの公演もあるが、やはり四天王寺境内で見るのがいい。暮れていくなかで見る舞手の華やかな裾長の衣裳はもちろん、奏者の色とりどりの狩衣、点火係の水干姿なども美しい。
光量不足でわたしのデジカメでは撮影できない。
【8月9日〜16日「万灯供養会」】
引導鐘がずっと響いている。やはり特別な日なのだ。
九、十日は千日参りの日でもある。この日一日で千日参ったのと同じ功徳があるらしい。信心深い人にはお得な日。ただし、わたしのお目当ては、この二日間だけ見られる「試みの観音」。
蝋燭を手にした人たちで大伽藍はいっぱい。献灯台は蝋燭で埋まっている。
時間がくるとゴーグル、マスクで完全武装した人たちが次々と点火していく。着火剤をつけ、ライターで火をつける手際に見惚れる。
毎日点灯後にある法要では、伽藍内の砂の上をお坊さんたちがぐるりと歩き、金堂・救世観音前で経を読むのだが、最初の法要だけは少し違う。五重塔・釈迦三尊図前読経のあと、そのまま六時堂に向かう。以前は六時堂までついていく人は少なかったのだが、ここ数年はなんだかお行儀の悪いおばさんたちがたくさん。ここには入らないでください、とか、これには触らないでください、といった係のお坊さんの指示を一切聞いていない。お寺さんも大変だなあと同情しながらも、あまりに大阪的な風景に笑ってしまう。
六時堂で声明を聞いていると、前にいた祖母らしい人が、幼稚園くらいの姉妹に「まんまんちゃんあん、しぃや」と教えていた。「まんまんちゃんあん」なんて言葉、久しぶりに聞いた。やはり大阪だ。
お勤めが終わると厨子の扉が開かれる。掌に乗るくらいの――片手ではやや不安だが両手なら余るくらい――小柄な仏さま。ご本尊・救世観音像の試作品として作られた、ということで「試みの観音」と呼ばれているらしいが、大きな観音さまとは面差しが違う(昔の仏像は戦災に遭ったらしいので当然なのだが)。写真で見たときはとても大陸的だと思ったが、実物を見ると面長の優しい顔立ちをしている。
万灯供養会のお終いの日。五重塔の石段に座っていると日が暮れるのが早くなった、と思う。十日前とは空が違う。昼間は暑くて気づかないが、空はもう秋だ。
[松岡永子]