覚せい剤は素晴らしい


  「人格改造マニュアル」 太田出版
  本体1,200円

  著者:鶴見 済(つるみ・わたる)
  1964年東京都生まれ。東京大学卒。フリーライター。


■覚せい剤 ――― 特別なクスリ

 覚せい剤は素晴らしい。
 その圧倒的な力の前では、どんなクスリも色あせて見える。まるで”格”が違う。本書でももちろんトップに持ってきた。トップはこれ以外にはありえないのだ。うつ、無気力、暗い、内向的、消極的といった多くの人がなんとかしたくてもどうにもならない性格・タイプも、このクスリはすべて一瞬にして消し去る。
 ただし、この絶賛には保留がついている。このクスリはまた、とんでもない副作用を持っているのだ。あとで詳しく書くが、長く使っているうちにだんだん奇妙な面が出てきて、素晴らしさも薄れていく。そしてついには、類を見ないほどの最悪のクスリに変身する。
 この抜群の力と奇妙な性質こそが、覚せい剤をまったく特異なポジションに置くことになったのだ。

   嫌悪され愛されるクスリ

 覚せい剤はまったく特別なクスリだ。
 まず、ここまで国に嫌悪されているクスリは他にない。小学校にまでパンフレットを配り、異例のテレビCMまで流し、躍起になって一掃キャンペーンを繰り返している。医療にさえ使わせない。社会から完全に排除しようとしているわけだ。
 それにもかかわらず、人々はますますこのクスリに憑かれていく。最悪の副作用を知っているのに、違法行為であることもいとわず、しかも法外なカネを払ってまで、このクスリを手に入れようとする。「シャブ」「スピード」「S」といった愛称は誰もが知っていて、親しまれている(取材で会った人の何人かは、その白い輝きの美しさを熱心に語っていた)。ここまで国民に熱烈に愛されたクスリもまた希有だ。
 そしてこれを供給するヤクザの資金源ナンバー1もこのクスリの売り上げだ。これがなければヤクザ稼業もままならない。さらにマスコミは、このクスリのことでいつでも大騒ぎしている。まるでメタンフェタミンというこのクスリに、社会全体が振り回されているようだ。
 これを見ただけでも、このクスリの特異さがわかる。ここまで激しく憎まれつつ、同時に激しく愛され、世間を騒がせるクスリが他にあっただろうか?(ドラッグの愛好家のなかでさえ、このモノだけは極端に愛されたり、敬遠されたりしているのだ)
 ここでの目的は、まずこのクスリの正体をきちんと明かすこと。それをしないままこれほど重要なクスリを放っておいては、クスリに失礼だ。これまでの覚せい剤に関する言説には、何かが大きく欠けているような気がしていた。ちょっと考えればすぐわかるのだが、「真ん中」がスッポリと抜け落ちているのだ。手を出すところから始まった話は、いきなり幻覚・妄想や凶悪犯罪の話になってしまい、決まってその真ん中の長い長い時間が全部スッ飛ばされてしまう。覚せい剤についてきちんと書こうとするなら、まずそこを書くことだ。ほとんどの使用者は、その「真ん中」で色々やっているのだから。具体的には、それがどのように摂取され、脳内でどんな働きをし、どんな効果を生むのか、またどのように量が増えていき、変質していくかといった注意すべき点、そしてどういう経路で入手されているのかをそれぞれ明らかにする。こうして読者に良い、悪いといった判断を委ねたい。できるだけ公正な立場に立って、いい面も悪い面も書いていく。そして本書の「人を変える」というテーマにとって、どういうところがふさわしく、またふさわしくないのかを明らかにできればいいと思っている。
 もちろん自分の感想は書かせてもらうが(すでに書いているが)、最終的な判断は当然のごとく読者に委ねられている。こちらにできるのは、そのための的確な情報を提供することだけだ。

   ドーパミンを出しまくる!

 その前にまず、覚せい剤が脳のなかでどんなことをするのか、という基礎的な問題から。ちょっとつまらない話なので、どうでもいい人は飛ばすこと。
 すでに述べたように、やる気が出なかったり行動的になれないのは、脳内にドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンといった覚醒系の神経伝達物質が不足しているからだ。覚せい剤にはメタンフェタミン(商品名は「ヒロポン」)とアンフェタミンの2種類があるが(日本で用いられるのは前者)、どちらもそれらの伝達物質に構造が似ているので(図1)、特にドーパミンのシナプス前部での再取り込みをする穴(トランスポーター)を塞いで、再取り込みを邪魔してしまう。
 通常、神経細胞の末端(シナブス前部)から放出されたドーパミンの3分の2ほどは、必ずもとのシナプス前部に再び吸収され、次の神経細胞(シナブス後部)へと伝わらない仕組みになっているが、このもとに戻る分まで次の神経細胞(シナプス後部)へと流してしまうため、大量のドーパミンが伝わることになる。
 こうして脳内は覚醒物質で溢れ、無気力だった人も突然バリバリと行動を始める。これが一瞬のうちに人が変わる仕組みだ。
 また覚留剤は脳内で快感をつかさどる神経であるA10神経にも働きかけるため、強い快感をも与えることになる。

図1

■やり方 ――― 粉にして鼻から吸うのが一番いい

 次に覚せい剤の体内への取り込まれ方について。
 氷砂糖を砕いたような結晶や粉末である覚せい剤を体内に取り込む方法は色々ある。アルミホイルに載せ下からあぶって気化した煙を肺から吸収したり、水に溶かして注射器で静脈に打ったり、飲み物などに混ぜて胃から吸収したり、粉末を歯茎に塗ってその粘膜から取り入れる人もいる。
 しかし一番よさそうに思えるのは、粉にして鼻から吸い、鼻孔の粘膜から吸収する方法だ。やりかたはまず、CDのケースのようなプラスティック板やガラス板の上に結晶を置き、テレフォンカードなどで粉末になるまで磨り漬し、紙幣などの紙を丸めて鼻から吸い込む。外国の映画などでもよく目にする”スニッフ”という方法だ。これだと効き始めるのも5〜10分と早いし、分量をきちんと確認しながらできる。
 あぶる方法が最近人気のようだが、気化した煙を吸った後、全部吸収しきらないまま吐き出してしまうので、これは実はかなりもったいないやり方だ。静脈注射はもっともムダが少ないが、抵抗があるし、血管に針をうまく刺すのも意外と難しく、面倒だ。飲み物に混ぜて飲んだりするとやや効果が落ちるし、効きも遅く、空腹時でも20〜30分、食後なら1時間はかかる。したがって以下の文中ては、粉にして吸う方法を基準にして、やり方や量を説明していくことにする。
 分量としては結晶を耳掻き2分の1程度(写真1)を磨り漬す。遊びでトリップするために使うのなら、初心者でもこの5倍の量は必要だが、日常生活に使うためなら、これだけで十分だ。この量を粉にすると約1cmのラインになるが、以下これを「1本」と呼ぶ。
 そしてこれを吸い込んだ時、あなたは別人に生まれ変わることになる。

写真1

■効き方 ――― 「面倒臭い」という感覚が思い出せない!

 粉を吸って5〜10分ほどするとクスリは俄然効き始める。
 ぼんやりとしていたあなたの目は、突然カッと見開かれ、瞳孔は開き、濁っていた頭は澄みわたり、ムクムクと行動意欲が湧いてくる。
 あなたは部屋の片づけ、書類の整理、電話連絡などの細かい作業を猛烈な勢いで始める。しかも一度始めると、堰を切ったように次から次へと仕事を片づけていく。それまでには面倒臭がったり勇気がなくて滞らせてきた作業だ。「面倒臭かったはずじゃないか」と自分に問いかけてみても、「面倒臭い」というのがどういう感じか、よく思い出せないのだ(!)。
 時間がたつにつれて頭はますます冴えわたり、気力に満ち溢れ、さらに脳内の快中枢が刺激され多幸感があるので、ちまちました作業でもやっていて楽しい。
 その上、体操をしたりジョギングをしたり、買物に出かけたりと、行動力も増す一方だ。
 もちろん落ち着かなくなる面もあって、独り言を言ったり鼻歌を歌ったりする人もいる。それでも混乱しているというわけではない。やろうという意志があっても嫌がってやらなかった、できなかったことをやり始めるだけだ。
 行動も抑制がきかなくなるわけではない。普通にじっとしていようと思えば、それもまた可能だ。
 どちらかというと単純作業に向いているが、集中力が驚異的に高まるので頭を使う仕事もどんどん進む。難しい文章も、もちろん読める。創造的な仕事にも向いていることは、昭和の作家・坂□安吾がヒロポンを打ちながら数々の名作を書き上げたことからも明らかだ。
 この状態が3時間ほど続くと、徐々に効果は衰えてきて、少しずつ摂取前の状態に戻っていく。この時に脱力感に襲われたり、急に落ち込んだりするなどとよく言われるが、少なくとも1本程度の量ならそんなことはまずない。むしろ覚醒中のノリがそのまま続くことのほうが多い。
 こうしてあなたの身の回りには、かつては1日かけてもできなかったほどの仕事の成果が残されているのだ。
 対人関係の場で使っても、もちろん効果がある。人に会う数分前に1本吸っておけば、口下手でいつも相手に押され気味だったあなたも、別人のように振る舞うことができる。どんなに嫌な相手でも、元気で積極的に、自分が主導権を握って話を進めることができるだろう。ある32歳の雑誌記者は「ヤクザに取材に行く前にちょっとやっていったら、本当はビビるような相手なんだけど、全然おじけづかないんだよね」と嬉々として話していた。

   3本やって20時間覚醒し続けたOL

 ただし量を間違えてはいけない。参考までに、生まれて初めての覚せい剤を一度に3本も吸ってしまい、多すぎて失敗した35歳のある会社員女性の例を紹介しよう。彼女がその時の行動のメモを取っていたので、それをそのまま掲載する。

午後4:30 吸う。10分くらいすると覚醒というよりソワソワとじっとしていられない感じ。

5:15 打ち合わせで喋りまくり、相手を圧倒して3本の企画を通す。

6:00 これまで面倒臭がって手をつけなかった電話や仕事相手への手紙の用事を済ます。受け答えもハキハキとして絶好調!

8:00 食事をしながらの会議があったが、まったく食欲なし。他人の話がまどろっこしく感じたり、違うと思った提案にしつこく食ってかかり、変な目で見られるが、変だという自覚はなし。

10:00 結局他の出席者とケンカをして退席し、帰宅しようとタクシーに乗る。しかし、渋滞がまどろっこしくて途中で降り、自宅まで30分かけて歩く。

11:00 自宅着。風呂に入るが眠気がなく、しかたなく靴を全部ピカピカに磨く。

1:00 まったく眠気がない。少し気味が悪い。趣味の「詰め碁」をする。

2:00 部屋のなかを隅から隅まで掃除。何かせずにはいられないような心境。

3:00 会社の今後の予想売り上げの計算を始める。意味もなく5年後まで計算する。

5:00 少しでも眠らなくちゃと思い、ビデオを見ながらワインを開ける。

6:00 ワインを1本飲み干すが酔いもせず、眠くなるどころかますます目が冴える。このままー生眠れないんじゃないかと不安になりつつ眠るのを諦め、新聞を取ってきて、隅から隅まで熟読する。

7:30 今度は猛烈な勢いで本を読み始める。フランス文学関係の本を一気に読破。

8:30 家を出て出社する。眠気はまったくなく、相変わらず電話にコピーにと仕事がどんどん片づく。

12:00 ようやく少しだけお腹が空いたような気がして、弁当を食べる。昨日の午後からアルコールしか口にしていないが、これまでまったく空腹を感じなかった。

1:00 会議が始まると同時に猛烈な眠気が襲ってきた。ようやくクスリが切れてきた感じがする。

 結局延々20時間半のマラソン覚醒だったわけだ。この後、彼女はなんとか終業時間まで眠気をこらえ、帰宅するなりベッドに倒れこみ翌朝まで眠ってしまったそうだ。ほんの3本とはいえ、覚せい剤の威力の凄まじさがわかるエピソードだ。典型的な作用もよく出ていて、勉強になる。

   欲しいものはすべて手に入る

 結局、覚せい剤の効用は一言で言えば「活動欲求が高まり、爽快になる」ということになるが、人格を変える作用以外にも色々な力を持っている。
 例えば、ドーパミン等が脳内に溢れるため、疲れや眠気を吹き飛ばす。疲れていて眠いが、仕上げなければいけない仕事がある、などという時には大きな力になるだろう。2日や3日連続の徹夜でも難なくできる。
 運動能力も高まるので、スポーツなどにも効果がある。かつてはオリンピックでドーピングに使われたこともある。ある29歳の男性は、何度も休憩をはさみながらでないと絶対に走れなかった5kmの道程を、覚せい剤1本であっさりと走り切ったのだそうだ。
 効いている間は会社員女性の例のとおり、空腹感もなくなるので、ダイエットにまで効果がある。しかし切れた後に食欲が襲ってくるので、連用しないと痩せ薬にはならないのだが。
 まったく不思議なクスリである。まるでこの社会が奨励する人間の資質は、すべてこのクスリのなかに詰まっているんじゃないか、と思えるほど要求に合ったものばかりを次々と生み出すのだ。
 例えば、就職面接の時に要求される積極性、バイタリティ、快活さといった資質はこのクスリ一本ですべて身につくし、受験勉強で要求される集中力・持続力も手に入る。
 第2次世界大戦で各国軍に大々的に活用されたこのクスリは、現代の戦争である受験戦争や就職戦線にも絶大な効果を発揮するし、企業”戦士”などにも必需品となりうる。やはりいつの時代でも、戦争には覚せい剤が合うらしい。
 いや、戦争に限った話ではない。日本の社会そのものが、覚せい剤を禁止しながら、一方ではなぜか覚せい剤が生み出すような資質ばかりを強く強く人々に要求してきた。そんな倒錯も、このクスリを奇妙な位置に押し上げた原因のひとつだ。

■注意 ――― 「耐性」「依存」「禁断症状」が大敵

 さて、いよいよ覚せい剤がその奇妙な面を見せていく様子を見てみよう。
 第1にやっかいなのは「耐性」だ。耐性とは、脳や体がクスリに慣れてくることで、何度も続けてやっているとこの耐性ができてしまい、以前のように効かせるためには量を増やさなければならなくなる。特に覚せい剤は耐性ができるのが旱いほうなので、どんどん量が増えていく。
 第2にやっかいなのが「依存」。覚せい剤には身体的依存性はないが、かなり強い精神的依存性があると言われる。つまりアルコール中毒のように、やめると手や体がブルブルと震えてくるようなことはないけれども、連用しているうちに、クスリが切れると、欲しくて欲しくてたまらなくなってくる。
 そしてそれがひどくなったものが「禁断症状」だ。そのまま大量にどんどんやっていると、切れた時に時々、すっかりだるくなって動けなくなくなり、あるいは耐えがたいイライラ、ソワソワした不快感に襲われて、じっと椅子に座っていられなくなったりする(断薬後48〜72時間がそのピークだとも言われる)。覚せい剤の作用について「活動欲求が高まり、爽快になる」と書いたが、禁断症状としてはその正反対の「抑うつと不快感」が表れるわけだ。
 その苦痛はさらにクスリを加えることで解消できる。が、それを繰り返すうちに依存状態はより強固なものになっていくのだ。

   ある時覚せい剤が裏の顔を見せる

 と、その終点までの経過をダラダラと書き連ねるより、わかりやすいように量と合わせて表にしたので見てほしい。効きめの強さや耐性のつきかたには個人差が激しいし、モノの善し悪しによってもかなり違ってくるが、一応平均的なところを書いたつもりだ。


(1)3日に1本―思いついた時にやるという感じ。この量と間隔を守っていれば耐性はできにくく、量を増やさねばならなくなることもそれほどない。いつやっても大いに効く状態が保てる。まだ「ハマっている」とは言えない。

(2)毎日1本―これはすでに「ハマっている」。だんだん耐性ができてきて、1週間、2週間と続けているうちに3本、5本、7本と量を増やさないと効かなくなってくる。ただしこのレベルなら、2週間も休めばまた1本からでも効くようになる。

(3)毎日10本―このあたりが常習者の注射での1回の通常使用量と言われる。この段階では寝つきが悪くなったり、睡眠が浅くなって途中で目が覚めたりと、覚醒障害が表れてくることもある。ここからすっかり耐性を戻すには最低1ヵ月の断薬が必要。

(4)毎日30本―1日に何度もやるようになる。シラフの時間よりクスリが効いている時間のほうが長くなってくるが、ここがひとつの大きな通過点だ。それまでは覚せい剤を利用していたはずだったのが、このあたりからは逆に覚せい剤を中心に生活が回り始める。完全に「依存」の段階に入ったと言えるだろう。急にやめれば、その直後から2〜3日めあたりにかけて、前述したような禁断症状が時々出てくるようになる。

(5)毎日60本―つまり1週間で約1g。起きているほとんどの時間は覚せい剤をやっているようになる。そしてあまり気づかれないが、実はここが覚せい剤が裏の顔を見せて微笑む大きなターニングポイントなのだ。このレベルになると、やっても覚醒するというよりは、フラフラした気持ちよさを味わうようになってくる。もう”覚醒”剤ではなくなってくるのだ。体は重くなり、逆にじっと動かなくなってきて、部屋に醸もりがちになる。つまりここからが本格的に危なくなってくるわけだ。それでもまだ通常の生活時間を守ることはできるが、早い人ではこのあたりから幻覚・妄想が出てくる。大量の結晶をいちいち粉にするのも面倒になり、あぶったり注射器で打つなり しだす。もう5本くらい吸っても何も感じない。

(6)2日で1g―だんだん起きている時間が48時間、72時間と伸びていき、一度寝ると1日や2日は眠っているという、いわゆる「めちゃ打ち→つぶれ」とを繰り返すようになる。効いている時でも、だんだん「あいつが笑ってる」といった被害妄想や「つけられてる」という追跡妄想、または視線恐怖が出てくることもあり、もう以前のような気持ちよさはなくなってくる。やって普通、やらないと禁断症状というドロ沼にハマることもある。買い方も一度に10g20gといった単位になってきて、金銭面でも困り始める。それでもこの量をやりつつ、毎日5〜6時間も眠り、食事もちゃんと取っていた強者もいるのだが。筆者が話を聞いた人のなかにも、このレベルまで行ってもなんとか普通にやっている人は何人かいた。

(7)毎日1g以上―ここまでくるとさすがに簡単にはもとに戻れない。そもそもカネやヒマがなくなったり、幻覚を見てリタイヤしてしまったりして、なかなかこのレベルまでいけない。 ここではすでに、幻覚・妄想とは背中合わせである。思い切ってやめるなら、辛い禁断症状に耐え、それっきりで一生やらないくらいの一大決心が必要だ。それほど強烈な依存に陥っている。これ以上の量となると、さすがにほとんど話にも聞かないし、記録にもあまりない。筆者はひとりだけこのレベルまでいった人に会えたが、彼はなんと6日間も眠らずにやり続けた末に、幻覚こそ見なかったものの心臓が激しく痛み「死ぬ」と直感して、泣きながらすべてのモノを便所 に流し、それ以来一切やめてしまったのだと言う。ちなみに彼は最後まで「あぶり」だった。

   3日に1本が理想的

 結局どこまで量が増えても大丈夫な人は大丈夫なわけだが(ちなみに元プロ野球選手・江夏豊が覚せい剤所持で逮捕された時に持っていたのは、なんと52gだった)、だんだんイヤな状態になっていくことは確かだ。
 では、どうすればいいのか? カンタンである。初めのあたりでやめときゃいいのだ。ここの段階で言えば、気持ちよくできるのはやはり(1)。せいぜい(2)から(3)までだ。(4)(5)あたりからは籠もり始める「覚せい剤後期」に入ってくる(そうならない人もいるが)。ここまでいくと、カネとヒマとコネが続けば、止まらずに(6)あたりまではいってしまう。(4)や(5)まででも、やめるなら慎重な減量をするか、苦痛に耐えなければならなくなる。
 もともと四六時中やっている必要などないのだ。基本的にはここで一発欲しいなあ、と思ったところで少しやるのがいいペースでいく秘訣だろう。量を増やし続けていった先に不毛の荒野が待っていることを知っていれば、なおさら途中でやめやすい。もちろん時には大きく飛ぶのも勝手だが。60年代のドラッグは大きくトリップして宇宙の仕組みに思いを馳せたりするためのものだったが、現代のドラッグは、ちょっとだけやって生活に役立てる。やるならこれだ。
 「一度手を出したらそんなに簡単にやめられるものか」と言う人もいるだろうが、これが大々的に宣伝されたウソというものだ。もちろん簡単だと言うのもウソになるが、そんなに至難の業かというと、それもまた違う。
 ましてや、ちょっとでも手を出せば幻覚・妄想や凶悪犯罪への道をまっしぐら、などというのは大ウソだ。それぞれ色々な思いをしながらも、なんとか上手くやっている人は大勢いる。一部には気が狂う人もいる、といった程度の印象を受ける(54年のヒロポン・ブームの時には日本全国に使用者が20万人以上もいたのだ。それらが全員狂人と凶悪犯人になったら大変なことになる)。つまり、ほとんどの人は途中でやめているわけだ。急にモノが入らなくなったために、あっさりやめてしまうことも多い。「禁断症状に耐えられるものか」と言う人がいるかもしれないが、ある女子高生は学校でも家でもやりまくって、8ヵ月後には2〜3日で1gというハイレベルまでいったが、18歳の誕生日を機会にパッタリやめた。その時の禁断症状への対処のしかたは、「気合いで乗り越える!気合いだよ、気合い!(笑)」なのだそうだ。
 かなりハマっている人のなかでも、何ヵ月も仕事で忙しく、気がついたら1ヵ月もやってなかったという「やるのを忘れちゃってた人」もいるし、毎日毎日同じ”感じ”になるのにだんだんうんざりしてきて、徐々に間が開いていき、モノがなくなったが新しく買うのも面倒なので結局離れてしまったという「飽きてやめちゃった人」もいる。
 すべてこんなに気楽にいくわけではないが、だいたいこんなものではある。

   幻覚までは3〜6ヵ月!?

 (1)から(7)まで行くのに、あるいは幻覚を見るのに、どのくらいの時間がかかるのかというのも重要な問題だ。しかしこれこそまったく人それぞれで、一般的なことを言うのが難しい。ある人は1年半かけてジワジワと(6)までいったし、前述の(7)まで行った男性はせいぜい4〜5ヵ月しかかからなかった。そもそも誰もが一方向にばかり進むわけではなく、ある29歳の男性などはだいたい(4)あたりの位置をキープしつつ、数ヵ月に1度は(6)くらいまでいって、しばらくするとまた戻ってくるといったことを、もう  2年も続けている。
 幻覚に関しても同じだ。1日約100mgを数日間〜数ヵ月使用した後に、それが現れると言う学者もいれば、平均は3〜6ヶ月だと言う学者もいる。5年後にそこまでいく人がいる一方で、1回目の使用でも現れると主張する学者もいる。ただ、これはあくまでも印象だが、急激に量を増やしていく人ほど、早く幻覚を見やすいように思える。
 使用量の多少を無視して、凶悪犯も普通にやっている人も一概に「シャブ中」と括るのはバカげている。アルコールを飲む人を全員「アル中」と決めつけるのと同じことだ。ではなぜ手を出した全員が幻覚・妄想に陥るように言われているかというと、まず研究する側(医者)がそういう例しか見ていないから。そして警察には狂って犯罪を犯すレベルまで行った人の印象が焼きついている。こうして、その両者から情報を得た国が行なう覚せい剤追放キャンペーンは「覚せい剤やめますか、人間やめますか」になる。どちらもやめずにいる人などいくらでもいるのに。覚せい剤はもっとカジュアルに使えるものだ。
 それでも幻覚・妄想を見てしまったら、即座にやめるか、または精神病院に行くことをお勧めする。それはこのゲームの終点「覚せい剤精神病」だ。そこまでいっても、幻覚を見ながらしつこくやり続ける人もいるようだが、それは悪あがきだ。もうゲーム・オーバーなのだ。ここで「あいつが自分を殺そうとしている」などと信じ込むと、「やられる前にやってやる」と殺人を犯したりして、最悪の結果となる。早めに病院に行くことだ。
 病院ですべてを話しても、医者には患者の秘密を守る義務があるので、それが警察に漏れて逮捕、などということには決してならないので安心を。症状は精神分裂病(統合失調症)と酷似しており、分裂病治療薬で比較的簡単に(大方は1週間以内とされる)治る。
ハマりだしたな、と思ったら((4)のあたりか)、まず心がけるのは、朝起きて夜寝て食事もきちんと取るという規則正しい生活を送ることだ。これができているうちは当分は大丈夫だろう。大まかに言って、「暗くなってきたら危ない」と言えるのではないか。

   やめたくなったら、とにかく寝る

 もうやめたい、クスリを抜きたいと思ったら、3〜4日まとまった休みを取って、ひたすら寝るのが一番いい。クスリをやめたせいでいつまででも寝ていられるし、そうしていれば禁断症状にもそれほど悩まされずに、ただ時間だけが過ぎ、耐性が消えていく。2〜3日やりすごせば、体も軽くなってくるし、ちゃんと腹が減ってご飯もおいしく食べられて「健康の気持ちよさ」を感じ始める。そうすると、またあの状態に戻るのに抵抗が出てくる。そうなればしめたものだ。
 本来どんなクスリでも、やめる時は急にやめるのは厳禁で、徐々に量を減らしていくのだが、そちらのほうが強い意志を必要とするかもしれない。キッパリ断たないとやめられない人は、”気合い”で禁断症状を乗り越えるといい。

 「覚せい剤を、みだりに、所持し、譲り渡し、又は譲り受けた者は、十年以下の懲役に処する」(「覚せい剤取締法」第41条の2)

 強く効いている時には、全体的に物事を見る目が失われて、細かいことにハマりがちになる欠点がある。ニキビ潰しなんかに何時間もハマったりする。ある女子高生は「テスト前の日に勉強にハマろうと思ってSやったことあるんだ。そしたら国語の教科書、試験範囲じゃないところまで朝まで何回も読んじゃって。テスト、ボロボロだった(笑)」と言う。どうせやるならそんなことのないように、事前に何を行なうか決めておいて、「さあやるぞ」と構えてから臨んだほうが生産的だ。
 高いクスリなので、ムダな使い方をしていると大損する。どのレベルでも効いている間は、ヤバイと知りつつも気が大きくなって意味もなくどんどん加えたくなるものだが、そこはガマンのしどころだ。ある程度までいってしまえば、あとはいくらやっても大した差はない。適当なところでやめておこう。
 また一日中やっていると、朝起きた時より、夜のほうが効かなくなってくることがある。一日中ドーパミンの再吸収を阻害して出しっ放しにしているので、シナプス前部のドーパミンが空になっているのかもしれない。いずれにしても脳の機能がおかしくなっていることは確かで、頭のなかが濁り、爽快感が失せてくる。そんな時にもより多くの量をやらないと効かなくなるが、それもムダ。一度眠り、頭をスッキり正常に戻して、シナプス前部にドーパミンをたっぷり貯めてからやったほうが、損はないはず。

   悪いモノは白濁している

 いいモノと悪いモノは見ただけでも区別がつく。純度の高いモノは透き通っていて硬く、粉にする時にプラスティックの面にガリッと傷がつく。混ぜ物が多いと、白濁していて軟らかく、色々な種類の結晶が混じっていたりして、火であぶるときれいに蒸発せず、焦げ跡が残ったりする。
 保管する際には、どんなクスリでもそうだが、湿気のない光の当たらないところに置くと変質しにくい。お茶缶や冷蔵庫のなかなどは湿気が少ない。
 外出中に鼻から吸う方法でやる人には、カセットテープのケースを持ち歩いている人がいる。トイレのなかなどで、それを台にしてラインが引けて便利なのだそうだ。
 万一効きすぎてしまって困ったら、ドーパミンを抑えるベンゾジアゼピン系の抗不安薬や睡眠薬を飲めば多少は収まる。もし手に入らなければ海外から「エチゾラム」(デパス,パサデン等)を個人輸入してもよいだろう。
 クスリの切れ際に不快感を感じる人なら、ベンゾジアゼピン系をその時間に合わせて飲んでおけば、ソフトランディングできる。

■入手のしかた ――― イラン人が売っている

 最後にもっとも興味深い問題。その覚せい剤を、みんなはどうやって入手しているのか? ひとつのポイントは「駅付近や住宅街にいるイラン人」だ。例えばJR大久保駅南口から大久保公園までのあたり、横浜駅西口、上野駅不忍池口付近などに売ってくれるイラン人がいる(いた)らしい。
 モノは、透明ビニールの袋(いわゆる「パケ」)に入ったものがグラム単位だと1g2万〜3万円が相場だが、1gと言って売られているパケには0.8g以下しか入っていない場合が多い。やはり高い買物だ。
 他にも、入手チャンスはゴロゴロと転がっている。声をかけるには勇気がいるが、思い切って声をかけると思わぬ展開があるかもしれない。ちょっとした勇気が最悪の事態を招くかもしれないし、あなたを大きく変えるかもしれない。

   やりたいようにやってくれ!

 以上が筆者ができる限り客観的な立場で調査・取材して知りえた、特別なクスリ・覚せい剤とそれにまつわる事柄のありのままの情報だ。ややいい面の方を多めに書いたきらいもあるが、その理由のひとつは、実際にいい面の話が多かったからである。もうひとつは、これまであまりにも悪い面ばかりが強調されすぎてきたためだが、そのかわり、誰も書かなかっなようなこのクスリの恐い面も書いたつもりなので、一概にかたよっているわけではない。そしてそこから得た結論は、冒頭に書いたとおりだ。
 そう。覚せい剤は最高だ。量を大きく増やしていかなければ、という条件付きだが、最高の人格改造薬であることに間違いはない。これは事実だ。
 さて、これを読んだあなたがどんな判断を下すのかは、あなたの勝手である。「やっぱり恐いじゃないか」と思ったかもしれないし、「そうだ、最高だ」と思ったかもしれない。そして覚せい剤撲滅運動を始めようと、さっそくイラン人を探しに行こうと、それもあなたの勝手である。手を出して幻覚を見るのも、捕まるのも、もちろんあなたの勝手だ。
 著者である僕としては・・・・・これに関しては何も言わない。何を言ったところで、あなたはどうせ自分のやりたいようにやるだろうから。
 ただこれが、他のどんな覚せい剤に関する”親切”を装った忠告なんかよりも、本当の意味ではるかに”親切”な情報だと確信している。




覚せい剤は安全な薬です

社会のウソ、バラします

(以下の文章は「檻のなかのダンス」P236-253のものです。図、写真は省略してあります。)


覚せい剤に関して、国が大がかりな情報操作をしていたのを知ってしまったので、バラしてしまう。自分まで迷惑を被ったし。

とりあえずこれを読む前に、今持っている覚せい剤についての知識やイメージは、"常識"や"事実"じゃなく、単なる「ひとつの説」だと思ってほしい。しかもそればかり聞かされてきて、他の説を聞いたことがなかったのだと。実際にそうなんだから。

で、その知識は全部デタラメです。なんて言っても信じてもらえないだろうが、これを読み終わった時には、そうでもなくなっていると思う。


[1] 幻覚・妄想も、寝れば治る


覚せい剤と言えば「一度手を出したらやめられなくなり、いずれ幻覚・妄想や凶悪犯罪に行き着く」恐怖のクスリのはずだ。今は第3次ブームだそうで、確かに覚せい剤をやっているヤツはたくさんいる。なのに錯乱してるヤツとか、覚せい剤凶悪犯なんて全然いないのはなぜなんだ?

実は「覚せい剤=幻覚・妄想・凶悪犯罪」というのは、世界でも日本だけの"常識"なのだ。ヨーロッパヘ行ってドラッグの本や雑誌を見て気づいたが、薬害としての「幻覚・妄想」は「不眠」なんかと一緒に「やめて数日寝れば治る」と軽く扱われていた。これが欧米の研究者の一般的な見方なのだ。

しかし日本の研究者だけが、「幻覚・妄想は少しずつ蝕まれた脳の致命的な損傷のせい」という独自の説を主張しつづけて、国際学会でも孤立しているらしい。しかもその説は、50年代のヒロポン・ブームの頃、つまり脳のことなど何もわかっていない時代に、特に根拠もなく提唱されたものだ。

確かに幻覚・妄想が長引いたり再発する人はいるし、それは欧米でも認められている。「パーセンテージ」の問題なのだ。おそらく使用者全体の1%未満であろう幻覚・妄想例や、さらにその1割程度の「再発(フラッシュ・バック)」の症例ばかりを取り上げて発表しまくり(欧米ではむしろ、覚せい剤によるフラッシュ・バックは否定されている)、専門書をよーく見ると「(幻覚・妄想の)80%を超える大部分の患者は断薬により1ヵ月以内(その多くは10日以内)に精神病像が消褪する(*1)」なんて書いてあるわけだ。

「再発」ケースにこだわる理由はまず、最初に「脳の損傷説」を唱えた人が、今も日本の覚せい剤研究の神様扱いで、今さらそれが間違いだとは言えないから。引くに引けず、その説に合うような再発例ばかり調べてるわけ。

さらに大きな理由は、そもそも研究者が撲滅運動をやっているから。それなら「寝れば治る」より「致命的」のほうが都合がいい。これはもう研究というより「撲滅運動」の一環なのだ。世界では相手にされない説でも、何も知らない国民に信じさせるのは簡単だ。こうして悲惨な例ばかり、さらに誇張して徹底的に広め、今あるイメージを作り上げたのだ。本当に。


[2] 警察ザタを起こす使用者は0.1%未満


では"乱用者"の何%くらいが、犯罪や事故などの本当の問題行動を起こすのか? 統計では「覚せい剤に起因する事件・事故」つまり"警察ザタ"は、70年代から今まで平均すると、多く見積もっても年間200〜250人程度だ。(*2)

また年間の検挙(逮捕や書類送検)者数は、ここ20年ではだいたい平均2万人くらい。実際の"乱用者"は検挙者の15〜20倍いると見るのが無難な線なので、30万〜40万人。とすると、警察ザタを起こす「迷惑な人」は、乱用者全体の0.05〜0.08%程度となる。つまり0.1%未満……だよ。1000人にひとりもいないって。これは「ほぼ全員が、騒ぎも起こさずに大人しく使用している」ということだ。

日本の覚せい剤史上で、幻覚・妄想から通り魔殺人をしたのは、川俣軍司ただひとりのはずだ。なのに全員そうなるようなイメージ操作を、誰かがやってきたらしい。


[3] 「生涯使用率」オランダで4%


「使用者はどんどん"幻覚・妄想"という破局へ向かっている」っていうイメージもウソ。オランダの大学で一般人を対象に毎年やってるアンケートで、覚せい剤の「生涯使用率」を聞いてみると、例年4%くらい。「ここ1年の使用率」を聞くと、これも例年0.1%くらいなんだそうだ。「覚せい剤の生涯使用率」という言葉すら信じがたいのに、この結果は「一生やり続けるけど、ここ1年はやってない」という使用者のほうが、圧倒的多数派だ、という意味らしい。みんな覚せい剤を休み休み、末長く使っている、と。実際に日本でも使用の長期化は、密かに大きな問題となっている。

自分の入った留置場に覚せい剤歴10年、逮捕は4度め、刑務所には2度入っているヤクザの人がいた。週に1gなんてペースでやっている時に、突然1年半とか刑務所にブチ込まれるわけだが、禁断症状なんて全然ないそうだ。世間で言われてることは「全部ウソ」で、それは自分のまわりでは常識だそうだ。ついでに「出たらまたやりますよ」とも言ってた。

20年覚せい剤をやり続けた末に、一切やめた人にも会ったことがある。

酒のことを考えてみればいいのだ。「絶対やらない」とか「キッパリやめる」なんて極端な決心などするほうが変で、みんな中毒にもならずに一生飲み続けているはずだ。覚せい剤だけ逆に、そんな極端な付き合い方しかできないはずがないのだ。同じドラッグなんだから。


[4] どんどん罪が重くなる


では覚せい剤の所持や使用が、いつの間にこんな重大犯罪になったのか? これがまたひどい話なのだ。

1951年 戦時中に、国が軍と工場で半ば強制的にやらせていた覚せい剤の残りが、戦後民間に放出され「ヒロポン」ブームとなり、「覚せい剤取締法」制定。製造や所持・使用を禁止したが、罰則は「3年以下の懲役又は5万円以下の罰金」だった。

1954年 ブームはやまず、また「取締法」改正。所持や使用の罰則は「5年以下の懲役又は10万円以下の罰金」と強化された。

1955年 乱用者は推定50万人にのぼり、またまた「取締法」改正。製造の罰則を強化し、ブームは鎮まったが、これにより、流通をヤクザが一手に握りだす。

1973年 第2次ブームにより、「取締法」7度目の改正。所持・使用の罰則は麻薬と同じ「10年以下の懲役」、製造や輸出入は最高で「無期懲役」に引き上げられた。ドラッグを憎む厚生省とヤクザを取り締まりたい警察庁が撲滅運動を引っ張り、医学的研究も本格的に始まった。それでも裁判ではまだ微罪扱いだった。

1981年 深川通り魔(川俣軍司)事件が覚せい剤のイメージを決定し、撲滅運動が爆発。判決も飛躍的に重くなる。政府が乱用者30万人と推定。

1982年 凶悪犯罪が急に減りだし、今に至る。

1984年 女性の服役者の半数以上が覚せい剤犯。

1986年 大阪の検事長が裁判官に「重罰主義」を要求。教育機関、地方行政でも撲滅運動が始まる。

1998年 以後、法改正、さらなる重刑化の要求、取り締まりの強化が続く。「需要根絶」のため末端使用者まで徹底して逮捕する方針で、男子受刑者の4人にひとり、女子の半数が覚せい剤犯という異常事態が続いている。

彼らのほとんどは、何かしたわけでもない、単なる個人的な所持や使用だろう。これはもう、取り返しのつかないようなことをしてしまってるんじゃないのか?

大体同じ「覚せい剤の使用」について、「強制→合法→微罪→重罪」なんて、50年くらいの間に好きなように変えてるんだから、「今の法律が間違ってる」って言っても全然おかしくないはずだ。付き合いきれない。


[5] 情報コントロールの仕組み


では、なぜチェック機能が働かないのか? 運動組織の構造を見ればわかりやすい。

撲滅運動は、厚生省、警察庁、研究者集団が三位一体となって推進されている。犯罪に関する情報は警察が握り、医学・薬理学的情報は研究者集団が厚生省の研究費で作り出す。つまり覚せい剤に関する情報はここに集中してしまっているため、外からのチェックができず、それを信じるしかなく、自由自在な世論操作、法改正、捜査・逮捕、重罰化……等々ができるようになっているのだ。

これらの監視のもとで、その情報を一層大げさに広めたマスコミの役割も極めて重要だ。また教育機関や地方自治体は、子どもから老人まで、社会の隅々にまで撲滅情報を浸透させた。

覚せい剤に関しては事実上「恐怖政治」が行なわれていると言えるのだ。その証拠に、"強制収容所"は罪もない人であふれてるし。


[6] 世界と日本の落差


海外での覚せい剤の取り締まり方を見ても、この国の異常さは際立つ。

(1)イギリス

違法ドラッグは次のようにランク分けして取り締まっている。

Aクラス:ヘロイン、コカイン、LSD、エクスタシーなど。

Bクラス:覚せい剤(ただし注射で打っている場合はAクラス扱い)、大麻。

Cクラス:睡眠薬、精神安定剤、鎮痛剤など。

個人の所持・使用に関する罰則は、Aクラスでは5年以下の懲役だが、B、Cクラスでは不起訴処分、つまり"訓戒"など。訓戒……か。「ダメだぞ」なんて。

ヨーロッパでは主に、実害を少しでも減らす政策への転換が行なわれ、単に禁止を叫ぶよりも、正確な情報を提供することが目指されている。「JUST SAY NO」から「JUST SAY KNOW」へ、というヤツだ。つまり麻薬の撲滅なんて不可能だと判断したのだ。日本も覚せい剤に関してなら大差ない状況なんだが撲滅以外、眼中にないようだ。

(2)アメリカ

覚せい剤ではないが、類似の作用を持つコカインの広まりに対して、80年代レーガン政権のもとで、日本がやっているような情報操作と「重罰主義」を実施した。しかし効果があがらない割に費用がかさみ、結局失敗に終わった。これは日本政府もよく知っている事実だ。しかも「重罰化」した時点でも、日本よりは軽かったりするわけだが。

(3)東南アジア

タイ、ミャンマー、マレーシアなどの東南アジア諸国では、のきなみ所持だけでも死刑という極端な"極刑主義"を取っていて、外国人でも所持だけでガンガン死刑にするので、これはこれで大きな国際問題となっている。

それとどの程度関係があるか知らないが、日本の撲滅派がこれらの国に積極的な麻薬取り締まり指導を行なってきたことは確かだ。

そして日本の覚せい剤撲滅の中心人物が、「東南アジアではもう100人近くも死刑にしてるのに、その効果があがらない」と嘆いている。こういう人なら、国内でだって、どこまでも「さらなる重刑化」を叫び続けるだろう。普通の人と違うから。大健全なんだから。


[7] アルコールとの比較


次はアルコールの規制の歴史や薬害を参考にして、この国の覚せい剤の扱い方の間違いを見てみる。

(1)取り締まりの歴史

19世紀以降、先進諸国では蒸留酒の量産とともに暴飲などの"酒による害"が増大したため、アルコールが社会悪視されだした。20世紀に入ると、酒害の医学的研究も本格化し、各国で禁欲的なキリスト教徒を中心に「禁酒運動」がさらに盛り上がった。日本では婦人風紀団体「日本基督教婦人矯風会」などが、禁煙や売春禁止などと一緒に禁酒運動を進めた。酒も今の覚せい剤のように見られた時期があったわけだ。

1909年 日本も含めた主要国間で「国際禁酒連盟」が結成される。

1919年 アメリカで「禁酒法」が強引に施行され、酒の販売と製造が禁止される。しかし人々は飲酒を止めず、マフィアが密造や密輸を仕切った。アル・カポネがヒーローになり、一般に"法"を軽視する風潮が高まった。

1922年 日本でも「未成年者飲酒禁止法」制定。これはさらなる禁酒への第1ステップと考えられていたようだ。

1933年 結局アメリカは収拾のつかない"無法時代"を迎え、「禁酒法」は破綻、廃止。以後代表的な"悪法"として語りつがれている。日本の禁酒運動は戦争によって挫折したが、法律は残り、現在でも未成年者の飲酒は"違法"になっている。

今の「覚せい剤取締法」はこの「禁酒法」そっくりに見えるが、撲滅人たちはこのことを知ってるんだろうか。

(2)依存性と耐性の比較

WHOによると、各依存性薬物の薬害は次ページの表の通り。(省略)

覚せい剤は精神依存(脳が欲しがる)の度合いは、アルコールよりやや強いものの、身体依存(手が震えたりして、体全体が欲しがる)はないとされる。

総合的に見ると、アルコールはへロインに次ぐ強烈な依存性を持っているわけだ。中毒になると幻覚・妄想や凶悪犯罪も誘発するし、さらには痴呆になったり、内臓がやられたりするという、かなり危険なドラッグなのだ。なのに我々は酒を飲んでいるし、社会も乱れない。「酒はいいのになんで覚せい剤はダメなのか」程度のことで、撲滅人を言い負かせそうだ。

簡単に言えば、今の覚せい剤の取り締まりは、酒に酔って人を殺したヤツがいたからといって、酒を飲む人を全員逮捕しているのと同じことなのだ。


[8] 狂わないための注意


最後に実用的な情報。幻覚・妄想を見ずに気持ちよく覚せい剤を使い続ける方法について。使用者は必読。自分の身は自分で守るしかない。

(1)まず、世間で言われていることを、一切信じないこと。「手を出したらやめられない」と思えば、やめられなくなる。精神依存というのはそういうものなのだ。そして「被害妄想になる」と思えば、そうなる。「切れたら手が震える」と思っていて、実際に手が震えていた人に「それはアル中の話。覚せい剤はぐったりするだけ」と言うと、次は異常にぐったりしてしまったが、そもそもやったのは退薬症状とかいうレベルの量ではなかった、ということもあった。全部気のせいだったのだ。

(2)寝るか休むこと。単に頭の疲れすぎでも幻聴が聞こえたりするのに、脳を過剰に活動させたまま、3日も起きっぱなしなんてのはヤバイ。そんな状態では、何もやってなくても幻覚・妄想がでるだろう。

(3)食べること。脳にはエネルギーが貯められないので、補給を続けないとすぐに燃料が切れる。脳のエネルギー・ブドウ糖になるのは、まず砂糖などの"糖分"。それと"炭水化物(デンプン)"、例えば米やパン。こういうのを食べるといい。

ただでさえ脳のためには「休む」と「食べる」のふたつが強調されるのに、覚せい剤をやると、見事に両方とも欠落する。そのうえ脳は異常に活動している。このトリプルパンチでヨレヨレの脳に「狂うぞ、狂うぞ」と(自己)暗示が加わる。これら4つの要素が幻覚や妄想を引き起こす大きな原因じゃないか、というのが自分の説だ。

これらに気をつけてさえいれば、どれだけ量が増えても、頭は壊れないような気さえする。

つまり日本人は「やめられないぞ」「幻覚・妄想が出るぞ」という脅迫と、異様な緊張感がのしかかる最悪の環境(セッティング)のなかで覚せい剤をやってきたのだ。日本人ばかりが見る幻覚だの妄想だのは、そのためのバッド・トリップなんじゃないのか? 「追われてる」「見られてる」なんて類型的な被害妄想ばっかりだし。

とにかく、あまり緊張せずに、ウソは思い切って無視して、心に余裕を持ってやるのがいいと思う。やめられなきゃ、やめなければいいし。カネがあるなら。

向精神薬の世界では最近は「無理にやめなくていい」という意見が主流だ。自分にも経験があるが、「やめなきゃ」と思っていると、依存やら"禁断症状"まで感じていたのに、そう思わなくなったらそんなもの何も感じなくなった。一生やってりゃいいんだよ。


[9] 参考 その他のドラッグの使用上の注意


●大麻 アムステルダムなんて街全体でやってても大丈夫なんだから安全に決まってるが、気持ち悪くなってゲロを吐く人もよくいる。誰でも感覚が変わるのは同じだけれども、これを気持ちいいとも気持ち悪いとも感じることができるわけだ。焦って考えたりすると、わざとダメにした脳が高速カラ回りするだけ。感覚が変わること自体を「気持ち悪い」と思ってしまってもダメ。ゆったりしているのがいいと思う。

●エクスタシー これも安全だが、強力なモノもあるし、初めは半分にしたほうがいいかも。ビタミンやミネラル飲料を飲んでおくと下がってきた時に"ベター・ムード"と欧州の雑誌によく出てた。水の補給は忘れずに。

●LSD これは意外に要注意。最初は絶対に経験者にいてもらおう。何も知らずにひとりでやったら発狂するかもしれない。大脳に入れる情報の量を調節する「視床」をいじって遊んでいるので、色や音といった外からの情報がドーッと脈絡なく入ってくるだけでなく、普段は感知しない脳のなかの情報まで入ってくるため、目を閉じても眩しかったりする。自分が発狂したと思った人もいたが、これもゆったりしていればいいと思う。3〜5時間もすれば必ずもとに戻る。


[10] 付記 「人格改造マニュアル」(*3)の「覚せい剤」の項目の訂正


情けないことに、自分もかなりだまされていたので、間違っていたところを訂正します。

(1)まずは「いずれは幻覚・妄想に行き着く」といった書き方をしている部分が、すべて誤りでした(例えば、P37、5行めの「すでに、幻覚・妄想とは背中合わせ」等々)。どんなに量が増えても、それは耐性が強まっただけで、幻覚・妄想に近づいたわけではない。でも量を増やさないのに越したことはないというのは同じ。個人の勝手だけど。

(2)P40、13行め。幻覚を見ても、病院に行く必要はなかった。断薬して寝るだけでいい。当然ながらP41、2行めの「分裂病治療薬で治る」も間違いだが、なぜか国内ではこういう治療が行なわれている。

(3)P34など、全般にわたって「禁断症状」があるとして、「イライラ、ソワソワする」「苦しい」などと書いているが、すべて間違い。退薬症状として一般的に言えるのは、今のところ「だるくなる」だけのようで、"禁断症状" (退薬症状のことだが)の名にふさわしいものは特になかった。これを読んだせいで"架空の禁断症状"が出てしまった人がいたら、本当に申し訳なかった。

また「だるくなる」にしても、自分は海外で覚せい剤を1ヵ月に4gもやり続けて突然やめたが、その直後、だるかったかどうかはよく覚えてない。そんなもんだった。

以上。日本の文献はこういう操作に気をつけて読んでいたつもりだったが、まさか「寝れば治る」とは思わなかった。申し訳ない。

海外に行ってこれらを全部知った時には、本当に驚いた。自分で言うのも変だが、こんなでかいウソは、「原発は安全です」以来久々に出くわしたと思った。

この問題は、他でもない自分のためにも、今後も追っていくつもりだが、こうなるとどのデータも信用できないので、無力感に襲われる。広瀬隆は偉大です。

さて。「覚せい剤に関するあなたの知識は、全部デタラメです」。そんな気もしてきたなら、とりあえず成功だ。



*1 - 『覚せい剤精神病−基礎と臨床−』(佐藤光源、柏原健一共著、金剛出版。佐藤氏は現在の日本の覚せい剤研究における中心入物)

*2 - 警察庁調べ。「起因する犯罪・事故」のなかには、幻覚・妄想のせいではない、やり取りをめぐって刺したとか、買うカネほしさに盗んだとか、覚せい剤のせいとは言えないものがほとんど。

*3 - 自著。太田出版刊。


覚せい剤見本 [1]  
覚せい剤見本 [2]  
覚せい剤見本 [3]  

粗フェニルアセトンの分画  

作成:ハローキティーチャン(住所不定)  
※この文章はシャブの力によってタイピングされました。 

 

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