地球の平和を守る正義の味方、ウルトラマンは言わずとしれた国民的キャラクターだ。その人気は今でも健在。今年9月に公開されたシリーズ最新映画『大決戦! 超ウルトラ8兄弟』は、ウルトラマン、ウルトラセブンなど往年のヒーローとウルトラマンティガ、ダイナ、ガイアといった平成生まれのウルトラマンが共演し大きな話題を集めた。興行収入8億円超はウルトラマン史上最大のヒット作となっている。
だが、この映画の製作が動き出した1年前。ショッキングなニュースが流れていた。「円谷プロ身売り」。ウルトラマンの生みの親という栄光の陰で、資金繰りに苦しみ、倒産寸前に追い込まれていたところを、テレビCM制作大手のティー・ワイ・オー(TYO)に買収されたのだ。「信じられない」「これからウルトラマンはどうなるのか」。あらわになった名門プロダクションの惨憺(さんたん)たる姿に、ファンの悲鳴が上がった。
円谷一族の絶対王政 1話制作に2000万円
そもそもウルトラマンは、年間数十億円を稼ぎ出すという強力コンテンツ。本来なら「何もしなくてもライセンス収入だけで経営できたはず」(TYOの吉田博昭社長)だ。
ではなぜ経営不振に陥ったのか。その理由は制作費の高さにある。円谷プロの最大の強みは、ウルトラマン生みの親であり、“神様”である円谷英二氏から受け継がれた特撮技術だ。街などを再現したセットの中で、役者たちがウルトラマンと怪獣の被り物を着て戦う。その撮影は、セットが大掛かりなだけでなく、ビルの形から木の一本一本までリアルに見えるよう精巧に作られ、実は非常にカネがかかっていた。
ウルトラマンのテレビシリーズの制作費は、1話30分で約2000万〜3000万円。それに対し、局から受け取る制作費は1話数百万円で、足が出た分は円谷プロの持ち出し。作れば作るほど赤字が出る格好で、1シリーズ約50話の放送のたびに、億単位の赤字を出していたのだ。
不振のもう一つの理由は同族経営にあった。円谷プロは創業者の英二氏以降、トップを一族が占めてきた。英二氏の孫で、TYOへの売却を決めた円谷一夫氏は、「いい作品にするためカネをかけた一方で、(石川県にあるレジャー施設の)『ウルトラマンスタジアム』など儲からないものにもどんどん投資した。いい意味でも悪い意味でも、気に入ったものに惜しみなくカネを突っ込んだ」(関係者)。
「彼の気分次第で昨日までOKだったものが、今日は突然NGになったりした」(同)。私物化とも言える一夫氏の経営に、他の役員や従業員は口を挟まなかった。盾突けば首が危ない一方、社長の機嫌さえ損ねなければ、自分たちもやりたい放題できたからだ。お墨付きさえもらえばどんどん制作費をかけられ、役員たちは仕事もせずに、昼の3時過ぎには帰宅の途に就いていたという。
それでも倒産を免れることができた唯一の支えが、ウルトラマングッズなどから上がるロイヤルティ収入だ。銀行もその資産価値を信用して資金を貸し付けた。「円谷プロを経営していたのは、人間ではなくウルトラマン」。TYOの吉田社長やウルトラマングッズを販売してきたバンダイ幹部は口をそろえる。
だが、ずさんな経営は長くは続かない。2004年の「ウルトラマンネクサス」放送を機に、状況はみるみる悪化する。新たなウルトラマン像を模索し、ストーリー重視で戦闘シーンを少なくするなど、時代を見越した新たな試みに出たが、メインの支持層である子供には不評で、視聴率は低迷。ネクサスはシリーズ初の放送打ち切りという不名誉に甘んじたのだ。グッズも売れず、円谷プロは資金繰りに窮していった。
経営体制も混乱した。03年に社長に就任した円谷昌弘氏が社員へのセクハラ問題で退任。後を引き継いだ円谷英明氏も1年で辞め、外部から招聘された大山茂樹氏は、大規模なリストラ案を主張したが、会長だった一夫氏の拒否で解任された。そして一夫氏が社長に復帰。円谷プロの取引先の幹部は「社長が替わるたびに経営方針も変わるため、こちらも対応に苦労した」と話す。
この醜態に愛想を尽かしたのが銀行だった。数十億円にも上る融資の全額返済を求めたのである。経営危機にあった円谷プロにそんなカネがあるはずがない。そこで当時、円谷プロの非常勤役員だった森島恒行氏が救済を頼んだのが、以前から親交のあったTYOの吉田社長だった。

だが、この映画の製作が動き出した1年前。ショッキングなニュースが流れていた。「円谷プロ身売り」。ウルトラマンの生みの親という栄光の陰で、資金繰りに苦しみ、倒産寸前に追い込まれていたところを、テレビCM制作大手のティー・ワイ・オー(TYO)に買収されたのだ。「信じられない」「これからウルトラマンはどうなるのか」。あらわになった名門プロダクションの惨憺(さんたん)たる姿に、ファンの悲鳴が上がった。
円谷一族の絶対王政 1話制作に2000万円
そもそもウルトラマンは、年間数十億円を稼ぎ出すという強力コンテンツ。本来なら「何もしなくてもライセンス収入だけで経営できたはず」(TYOの吉田博昭社長)だ。
ではなぜ経営不振に陥ったのか。その理由は制作費の高さにある。円谷プロの最大の強みは、ウルトラマン生みの親であり、“神様”である円谷英二氏から受け継がれた特撮技術だ。街などを再現したセットの中で、役者たちがウルトラマンと怪獣の被り物を着て戦う。その撮影は、セットが大掛かりなだけでなく、ビルの形から木の一本一本までリアルに見えるよう精巧に作られ、実は非常にカネがかかっていた。
ウルトラマンのテレビシリーズの制作費は、1話30分で約2000万〜3000万円。それに対し、局から受け取る制作費は1話数百万円で、足が出た分は円谷プロの持ち出し。作れば作るほど赤字が出る格好で、1シリーズ約50話の放送のたびに、億単位の赤字を出していたのだ。
不振のもう一つの理由は同族経営にあった。円谷プロは創業者の英二氏以降、トップを一族が占めてきた。英二氏の孫で、TYOへの売却を決めた円谷一夫氏は、「いい作品にするためカネをかけた一方で、(石川県にあるレジャー施設の)『ウルトラマンスタジアム』など儲からないものにもどんどん投資した。いい意味でも悪い意味でも、気に入ったものに惜しみなくカネを突っ込んだ」(関係者)。
「彼の気分次第で昨日までOKだったものが、今日は突然NGになったりした」(同)。私物化とも言える一夫氏の経営に、他の役員や従業員は口を挟まなかった。盾突けば首が危ない一方、社長の機嫌さえ損ねなければ、自分たちもやりたい放題できたからだ。お墨付きさえもらえばどんどん制作費をかけられ、役員たちは仕事もせずに、昼の3時過ぎには帰宅の途に就いていたという。
それでも倒産を免れることができた唯一の支えが、ウルトラマングッズなどから上がるロイヤルティ収入だ。銀行もその資産価値を信用して資金を貸し付けた。「円谷プロを経営していたのは、人間ではなくウルトラマン」。TYOの吉田社長やウルトラマングッズを販売してきたバンダイ幹部は口をそろえる。
だが、ずさんな経営は長くは続かない。2004年の「ウルトラマンネクサス」放送を機に、状況はみるみる悪化する。新たなウルトラマン像を模索し、ストーリー重視で戦闘シーンを少なくするなど、時代を見越した新たな試みに出たが、メインの支持層である子供には不評で、視聴率は低迷。ネクサスはシリーズ初の放送打ち切りという不名誉に甘んじたのだ。グッズも売れず、円谷プロは資金繰りに窮していった。
経営体制も混乱した。03年に社長に就任した円谷昌弘氏が社員へのセクハラ問題で退任。後を引き継いだ円谷英明氏も1年で辞め、外部から招聘された大山茂樹氏は、大規模なリストラ案を主張したが、会長だった一夫氏の拒否で解任された。そして一夫氏が社長に復帰。円谷プロの取引先の幹部は「社長が替わるたびに経営方針も変わるため、こちらも対応に苦労した」と話す。
この醜態に愛想を尽かしたのが銀行だった。数十億円にも上る融資の全額返済を求めたのである。経営危機にあった円谷プロにそんなカネがあるはずがない。そこで当時、円谷プロの非常勤役員だった森島恒行氏が救済を頼んだのが、以前から親交のあったTYOの吉田社長だった。
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