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土曜のきのうを、小中学生はどう過ごしただろう。家族と遠出、部活か塾か。それとも手持ちぶさただった?
東京都では今春から、学校に行く子が増えそうだ。都教委が公立の小中学校が土曜に正規の授業をすることを、後押しする通知を出したからだ。
学校週5日制で土曜がぜんぶ休みになったのは、8年前の春。詰め込み教育を反省して「ゆとり」を目指す。地域と家庭の役割を重視し、子どもに社会や自然を体験させて生きる力を育む。そうした考えからだった。
都教委は今回、土曜を使うのは月2回までに限り、地域に授業を公開することなどを条件としている。「5日制の趣旨を変えるものではない」として文部科学省も認める姿勢だ。
きっかけは、2011年度から学習指導要領が改まること。学力低下を心配する声を受け、授業時間と教える内容が増やされる。
移行措置で時間増の前倒しが始まり、月曜から金曜の間でどうやりくりするか、先生は苦慮している。7時限目を設けたり、朝の読書の時間を振り替えたりで窮屈になるばかりだ。土曜も使いたい、という現場の声は多い。
5日制の理念と現実の矛盾がどんどん広がっているということだろう。
授業のない土曜日に、みんなが居場所を見つけて、生き生きと過ごせているわけではないという事情もある。
受け皿になる活動や施設が不十分な地域は多い。不景気で、家庭でも塾や習い事に回せるお金が減っている。希望者に補習授業を行う学校が増えており、「独りでゲームをするよりずっといい」という親子もいる。子どものためになるなら、土曜の授業を再開することは悪いことではない。
しかし、先生に負担をかけて学習時間を増やすだけでよいのか。その結果、「量の教育」に後戻りしたのではもったいない。
先生の数を増やし、教え方を工夫し、ムダを減らし、「質の教育」をめざすことが基本だ。
そのうえで各地域で、学校と、保護者と、ボランティア活動に熱心な人たちとが話し合い、土曜の過ごし方を決めるようにしてはどうだろう。子ども自身の意見もよく聞いてほしい。
ボランティアが主導し、意欲をかき立てるような授業を考え出して、学校内外で実践してはどうか。「土曜は近所のおじさん、おばさんがいろんなことを教えてくれる」。そんなことができないだろうか。
行政、学校主導でプログラムを考えた方がいい地域もあるだろう。部活や地域活動が盛んな町なら、「土曜休み」のままがいいに違いない。
通知や通達にしばられることなく、地域の実情に合った子育てをする。みんなで考えるきっかけにしたい。
「ロシアはウクライナにミサイルの照準を合わせざるをえない」
2年前、当時のロシアのプーチン大統領はウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟した場合の対応をきかれ、こうすごんだ。
昨冬には両国の対立でロシアからの天然ガスの供給が止まり、周辺国にも不便が及んだ。
ここ数年、欧州に緊張をもたらす震源のひとつとなってきたウクライナ。先日の大統領選の決選投票で、ヤヌコビッチ前首相の勝利が決まった。
ウクライナは国土の広さでは、ロシアに次ぐ欧州第2の大国である。人口も約4600万を擁する。ロシアとNATO諸国との間に位置し、ロシアにとっては緩衝地帯として、できるだけ影響下に置いておきたい国だ。
一方で欧米は、積極的な関与政策を進めてきた。この大国に民主主義と市場経済を根づかせることが、旧ソ連圏の民主化と安定に死活的に重要と考えるからだ。
それが2004年の「オレンジ革命」につながる。欧米の後押しを受けたユーシェンコ現大統領が、大統領選の不正をめぐる争いの末にロシアの推すヤヌコビッチ氏を退けた政変だ。
だが、ユーシェンコ氏は、政権内での激しい政争に明け暮れ、経済改革や汚職対策など重要な課題で成果を出せなかった。NATOへの早期加盟方針に代表される親欧米路線もロシアの猛反発を招いた。天然ガスの値上げなどで揺さぶられたあげく、悪化した経済は世界金融危機で手ひどい打撃をこうむった。
「オレンジ革命」はロシアと欧米の関係も悪化させ、ミサイル防衛をめぐる応酬からグルジア紛争へと向かう対立の流れを決定的にした。
ロシアとの関係修復を唱えるヤヌコビッチ氏の当選は、旧ソ連からの独立以来、西と東の間で揺れ続けてきたこの国が、内政でも外交でも必要な調整過程に入ったことを意味する。
またウクライナ自身、言語も宗教も文化も、ロシアの影響力が強い東部と、親欧米の西部とに分裂している。東と西の一方に偏った政策は国内と周辺地域の不安定にすぐ結びつく。
そこを考慮して、オバマ米大統領ら世界の首脳も、ヤヌコビッチ氏の勝利を祝福し、ウクライナの安定を強く求めたのだろう。
東部を地盤とするヤヌコビッチ氏も、東西のバランスに配慮したかじ取りで国内融和を進め、ウクライナの安定化に努めるべきだ。
ウクライナとの関係が緊張すると、ロシアの対西側政策が硬化する。その影響は日本との北方領土問題にも及んだ歴史がある。ロシアの西側に位置する国の安定は、東隣の日本にとっても重要な意味を持つ。