きょうの社説 2010年2月21日

◎国際会議誘致 「手仕事のまち」を隠し味に
 金沢市は国際会議や学術会議誘致に生かすため、期間中の日程にクラフト・ツーリズム を組み込む団体への助成制度を創設する。工芸分野を中心に、他の地域ではまねのできない技術が集積する「手仕事のまち」を、金沢の魅力を引き出す隠し味として活用したい。

 欧米を中心に「三つ星観光地」として兼六園の知名度が上がっているが、加賀藩の遺産 は、名所旧跡だけでなく、質の高いものづくりの伝統という形でも数多く残されている。規模の大きい国際会議になれば、地球レベルで活躍する人の参加も多く、会議の場にもプラスアルファの魅力を求める。

 そんな教養・知識人層が、金沢で、歴史都市の景観とともに、リアルジャパンの技を体 感すれば、世界工芸都市・金沢を強く印象づけることができよう。

 県内で開催される国際規模の集いと工芸体験とのかかわりという点で言えば、世界の留 学生が交流するジャパンテントの中に組み込まれた「金沢職人大学校」が知られている。金箔(きんぱく)や加賀刺繍(ししゅう)、紙すき、和菓子づくりなど多彩な伝統文化体験が盛り込まれ、参加者も自国の工芸との違いや共通性を感じ取り、伝統を守る「ふるさと愛」に共感する姿が見られる。

 こうした手仕事体験も、参加者と金沢の縁結びに一役買っているだけに、国際会議の日 程に取り入れれば、金沢ファンとして再訪を促すきっかけにもなるだろう。

 今回の助成制度では、伝統的技芸の見学、体験ができる施設の入館料や、通訳・説明員 にかかる費用などが補助される。学会や大会の日程にクラフト・ツーリズムが設定され、出席者の半数以上の参加を条件にするようだが、会議の規模によって柔軟に対応することも検討してもらいたい。

 市では、クラフト・ツーリズムの受け入れが可能な市内施設のリストアップを進めてい るようだが、夏に市内全域で開かれる「かなざわ・まち博」などの中にも、多種多様なクラフト体験講座が盛り込まれている。会議の期間中にこうした講座が開かれるなら、会議の主催者に積極的に参加を呼びかけてもいいのではないか。

◎クラスター弾条約 軍事大国の未加盟が課題
 日本も加盟するクラスター爆弾禁止条約が8月1日に発効することになった。発効条件 である条約批准国が30カ国に達したからで、有志国と非政府組織(NGO)主導による軍縮運動の成果と評価できる。それでも、クラスター爆弾を大量に保有する米国やロシア、中国などの軍事大国が加盟しない現状が続く限り、条約の実効性は乏しい。非人道的な兵器という認識が定着してきたクラスター爆弾の使用、製造、保有を全面的に禁止する国際的な軍縮の取り組みは、むしろこれからが肝心である。

 条約発効を機に、米中ロなど条約未署名国の参加を根気よく説得していくことはむろん 、署名しながらまだ批准していない国が70カ国以上もあり、批准国をさらに増やして、軍縮の輪を確実なものにしていく必要がある。

 1発の親爆弾から多数の子爆弾が飛び散るクラスター爆弾は、不発弾が多く残り、悲惨 な民間人被害をもたらしている。このため、従来の軍縮の枠組みである「特定通常兵器使用禁止制限条約」(CCW)の締約国会議で使用禁止の議論が行われたが、米中ロなどの反対で協議は行き詰まり、CCWとは別の軍縮交渉(オスロ・プロセス)によって禁止条約の発効にまでこぎつけた。

 条約を批准している日本は、今後8年以内に保有するクラスター爆弾を廃棄する義務を 負う。人道主義に基づき軍縮の先頭に立つという政府の判断はよしとしても、対人地雷に続き、長い海岸線防衛に有用とされてきたクラスター爆弾の使用禁止で、日本の防衛力が低下することも間違いない。

 防衛省はクラスター爆弾の代替として、単弾頭型で命中精度の高い精密誘導弾の導入を 進める方針というが、クラスター爆弾に代わる防衛手段は、これから策定される新防衛計画大綱と、それに基づく新中期防衛力整備計画の課題の一つである。日米同盟の下、米国に条約加盟を求めながら、場合によって、クラスター爆弾を使用する米国の軍事行動の支持、黙認を迫られるという「矛盾」を抱え込むことにもなる。