余録

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余録:「この事件も間違いないか?…

 「この事件も間違いないか?」「(約10秒後)この間は、やはり自分が、えー自転車に乗せて。で、なんて言うんですか、自転車から降りて……」。足利事件の菅家利和さんの再審公判で再生された取り調べテープだ▲別の幼児殺害事件での取り調べでのまったく架空の「自白」である。身に覚えのない犯行を進んで供述する心理の背景には、孤立無援の「密室」、目の前にたちはだかる「権威」、その取調官への「同調」という三つのキーワードが浮かぶ▲このような供述の全過程を録画・録音する取り調べの「可視化」は、その「密室」を開くことを意味しよう。むろん一方で真実追及の矛先が鈍るとの捜査側の懸念もある。それらにも目配りした周到な検討が始まっていた取り調べ可視化だ▲この冤罪(えんざい)防止の切り札までがまるで検察へのいやがらせの道具のように扱われるこの間の民主党だ。小沢一郎幹事長周辺への東京地検の強制捜査やその報道に反発する党内からは、検察やマスコミへの批判とけん制の動きや発言が相次いだ▲いやむろん「検察と戦う」「マスコミはけしからん」という議員がいてもいい。だがいぶかしいのは衆参で420人以上の議員から公党として進んで真相解明に取り組むべきだとの声がほとんど聞こえないことだ。またまた浮かぶのは「密室」「権威」「同調」のキーワードである▲民主党は多数の公衆の失望や疑念の声が届かない「密室」に閉じこもってはいないか。その中の「権威」しか見えなくなっていないか。そこで異常な「同調」の力学が生じてはいないか。冤罪を生む「取調室の同調」にもまして恐ろしい「巨大与党の同調主義」である。

毎日新聞 2010年1月22日 東京朝刊

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